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あらゆる分野で「パーソナライゼーション」の拡大が進んでいる。インドに本拠を置くInfosysが行った調査では、86%の消費者はパーソナライゼーションが購入の意思決定に大きく関わると回答し、企業にとってこの傾向は一過性のブームではなく、もはや消費者を取り込む上で無視できないものとなっている。
その影響は美容業界でも顕著にみられ、今年(2019年)のCESではロレアルやSamsung、P&Gなど大手企業のインキュベーター部門やスピンオフ企業がパーソナライゼーションを盛り込んだサービスの発表を行い、話題を呼んだ。本稿ではそれらのサービス・技術と最新の美容トレンドについて考察する。
肌のpHからスキンケア用品を提案するウェアラブルデバイス
美の巨人ロレアルが発表したのは、肌のpH(水素イオン指数)から肌コンディションを検知するウェアラブル肌センサー「the La Roche-Posay My Skin Track」。
そもそも「La Roche-Posay」は、にきびやしみ、肌のかゆみなど、肌トラブルに特化した人気のスキンケア用品で、米国の大手薬局や量販店などでも手ごろな価格で購入できる。皮膚科医の推薦商品であることを売りし、特に敏感肌のユーザーから大きな支持を得るブランドだ。
本製品は世界初の肌のpHをセンシングするウェアラブルデバイス。
同社によるとこの50年間、美容・医療業界ではpHが肌のコンディションに大きく関係していること、理想のpH値は4.5~5.5(弱酸性)であることは分かっていたが、pH値を検出する方法などさまざまなハードルがあり、これまで製品レベルで活かされることがなかったのだという。
しかし今回、通常は蒸発してしまうような微量な汗をマイクロ流体光学を使ってキャッチし、その汗からpH値を検出することで、ユーザーの肌状態をセンシングすることに成功した。
独自アプリと連携させて使用し、アプリで最低朝晩二回、屋外では2時間おきにスキャンするとユーザーの肌のpH値をトラッキングしてくれ、またユーザーのおかれる環境の紫外線や空気中の汚染、花粉、気温、湿度などあらゆる要素を考慮したうえで、肌トーン、悩みや肌質に応じたアイテムを提案してくれる。
さらに、”Max-Sunstock”というユーザーがその日に浴びてよいとされている紫外線の量も通知してくれる。この値は皮膚科医と科学者によって試算されたもので、日焼け止めのケアをするうえで有益なアドバイスとなる。
また、バッテリー不要で太陽光とスマホのNFCで動作する。そのため小型で、付属のクリップを使って洋服につけたり、ネックレスとして首からかけたりしても使用可能。ウォータープルーフなので紫外線の気になる夏場の海水浴などでも使用できる。
肌に良い弱酸性を謳う肌ケア用品はこれまでもあったが、自分のpHを知り、それに見合ったアイテムを選ぶプロセスというのは新しい。
10秒で肌情報を分析、データに基づいた近未来のスキンケア選び
Samsungからのスピンオフ企業である「LuluLab」が発表した「LUMINI’」はAIを用いた手のひらサイズのスキンケア診断装置で、肌トラブルを検知し、ユーザーに見合ったスキンケアアイテムを提示するという。
LUMINI’は美容業界初、肌の状態に関するデータを収集・保存するAI搭載のデバイスで、今年、CESのイノベーションアワードを受賞したほか、昨年(2018年)香港で開催された美容業界のコンペティション COSMOPROF ASIA 2018でも、”Winners of Cosmoprof Awards Asia”を獲得し、世界的に注目を集めている。
LUMINI’の使用プロセスは「スキャン」「分析」「レコメンデーション」とシンプル。まずユーザーがセルフィー(自撮り)をするように自分の顔写真を撮ると、自動顔認証技術が顔全体の特徴とらえ、わずか10秒で肌の状態を正確にスキャンする。
次に、AIとディープラーニングが肌内部の状態を分析し、しわ・しみ・赤み・吹き出物・皮脂・にきびの6つのカテゴリーに分けて評価する。そして、ユーザーに見合ったスキンケアアイテムをお勧めしてくれるというものだ。
今後LUMINI’は化粧品メーカーが持つチャネルや病院の皮膚科などで販売される予定。米国ではすでに、今年夏に化粧品小売大手のSephoraでの取り扱いが決まっているとのこと。Sephoraのような幅広いブランドを取り扱う小売が同技術を使用することで、多くのブランドから自分にあったアイテムを見つけることができ、ユーザーにとって商品購入時の納得感と満足度は高いだろう。
また今年のCESのハイテク・リテイリング・パビリオンでは、LUMINI’が肌の分析し、ユーザーに見合った商品を勧め、購入までサポートするオフライン体験が披露され、人気を博した。今後は街中にLUMINI’のスクリーンを配置し、誰もがLUMINI’を体験できる「LUMINI’キオスク」やおすすめの紫外線対策を教えてくれる「LUMINI’ UV」などの展開も視野に入れているという。
肌年齢を画像認識でオンライン診断
最後に紹介するのは、Olayが発表した「Olay Skin Advisor」。画像認識技術を駆使し、ユーザーのセルフィーから肌年齢を算出し、最適なスキンケアアイテムを提示するものだ。
ユーザーは化粧を落とした状態で、顔全体が見えるようにセルフィーをした後、肌質、肌に関する悩みや毎日のスキンケアに関する質問に回答するのみ。するとAIとディープラーニングが写真を分析し、各ユーザーに最適なOlayのアイテムをレコメンドしてくれるという仕組みだ。
ケアが行き届いている箇所と、より手入れが必要なエリアなどを教えてくれ、それぞれのエリアにおすすめの商品をレコメンドしてくれる。レコメンドされたアイテムはそのままオンラインで購入できるため、診断から商品の購入までワンストップで行える。全行程は5分もかからないうえに無料なのも利点。まるで、百貨店の化粧品コーナーで美容部員から受けるサービスを、自宅でオンラインで行った感覚だった。診断結果はSNSでシェアすることもできる。
これまで美容分野のパーソナライゼーションアイテムというと、比較的高価で、またサービスを受けられる場所も限られていたことなどから、高い美意識を持つ一部の層だけが利用するに留まっていた。
しかし今回紹介したように、大手企業も本格的にこの分野に参入したことで、今後さらに多くの消費者がパーソナライゼーションを体験し、より自分に合った美容アイテムを手にすることができるようになるだろう。クチコミよりも信頼のおける「肌データに基づいた商品選び」が、今後スキンケアアイテム選びのスタンダードになる日も来るだろうか。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)