2018年はビューティーテック元年と呼ばれ、「美容」×「テクノロジー」でさまざまなイノベーションが起こった。時代の流れを受け、「美容」×「テクノロジー」の領域で新たな挑戦をすべく立ち上がった美容系スタートアップ企業が、次々と進出を果たしている。

今回は、「香り」×「テクノロジー」で美容アップデートを起こしている株式会社CODE Meeeの代表取締役であり、香りで新しい市場を作るフレグランスイノベーターとして活動している太田賢司氏から話を伺った。

今まであまり目を向けてこられなかった「香り」の分野。なぜ、彼はこの「香り」に着目したのか。また、「香り」×「テクノロジー」でどのような事業を行なっているのだろうか。

太田賢司
フレグランスイノベーター/株式会社CODE Meee 代表取締役
北海道大学大学院理学研究科を卒業後、世界トップレベルの香料会社でフレグランスの開発に10年携わる。フレグランスのマーケティング・官能評価に携わる専門職「エバリュエーター」として、香り開発の第一線で活躍。その後独立し、2017年に香りのスタートアップ企業 株式会社コードミーを創業。現在は、香りの演出を取り入れたライブ、また、映画の完成披露試写会での香りの演出など、多岐にわたって香りをプロデュース。テクノロジーを活用した、ワクワクする新しい香りの可能性を唱えるフレグランスイノベーターとして活躍中。

香りの可能性を広げるため、研究者から経営者へ

—— 太田さんは起業する前の約10年間、研究者として活動をされていますよね。なぜ起業に一歩踏み込んだのか教えてください。

太田:多くの人たちに香りに興味を持ってもらい、香りの素晴らしさを理解してもらうことで、香りの可能性を広げたいと思ったのがキッカケです。

今、香りの業界は飽和状態にあります。というのも、世の中に存在する香りのビジネスは大体決まっています。シャンプーや柔軟剤、芳香剤、香水など、香り付けが必要な商品はすでにそろっていて、「香り」での新しいビジネスが生まれにくかった。また、香料業界の研究職の人たちの多くは、生涯を研究に費やします。香りの専門である研究者が外へ出ない限り、香料業界にイノベーションは起きないと感じていました。

香料業界で経験を積んだ自分が外に出ることで、香りの可能性をもっと広げられるのではと考え、起業に一歩踏み込みました。

—— どのように香りの可能性を広げていこうと考えているのでしょうか?

太田:香りで新しいライフスタイルを作ることが、香りの可能性を広げる一つの手段だと考えています。

具体的なお話をすると、香りには2つの領域で力が発揮できると思っていて。
1つ目に「エモーショナル」、ライブや映画など感動を引き起こす領域。2つ目に「ファンクショナル」、ヘルスケアや睡眠課題の解決、認知症予防など健康を考えた実用的な領域。

この2軸で最適な香りの提供をするため、CODE Meeeでは「最適な香りのある暮らしで明日への活力を提供する」をビジョンとして掲げて、サービスの開発に取り組んでいます。

最適な香りのある暮らしを実現した「パーソナライズアロマ」

—— 現在CODE Meeeで一般向けのサービスとして提供している「パーソナライズアロマ」は、ビジョンをもとに開発されたんですね。

太田:はい。「最適な香りのある暮らし」として、香りでユーザーさんに寄り添えるように、朝昼夜それぞれのシーンに適した「自分だけのエアミスト」を提供しています。

約100種類の天然香料素材から調香し、3,000以上のリコメンドパターンで、朝昼夜に合わせた3種類のアロマを提供しています。

—— パーソナライズに着目したキッカケは何だったのでしょうか?

太田:2つ理由があります。
1つ目に、起業する前から世の中的にエンターテインメントやファッションなど、さまざまなパーソナライズビジネスが生まれていたのですが、香りのパーソナライズはなくて。香りって人の記憶や感情に訴えかける作用を持っているので、この領域こそパーソナライズされるべきだと感じました。

2つ目に、人それぞれ香りの好みは違うため、香料業界の常識では100人中80人が好きな香りを見極めて作れるかが勝負でした。なので、もっと個人に最適な香りづくりができれば、もしかしたら今まで香りに興味がなかった人たちも興味を持ってくれるのではと考えたんです。

この2つの理由から、パーソナライズの領域でビジネスをすることに決めました。

—— 実際、どのような仕組みで香りをパーソナライズさせているんですか?

太田:WEB上で、香りの診断プロセスをユーザーの方に実施してもらっています。好みの香りのイメージ、香りのイメージカラー、香りに期待するエモーションなどを選択してもらうと、3,000パターン以上の香りから朝昼晩それぞれのシーンに適したフレグランスが処方されます。

—— 心理テストみたいで面白いですね。

太田:心理的な部分と、香りで心身にどのような影響が期待されるかといったサイエンティフィックな部分をバランスよく見て処方しています。

この診断プロセスをユーザーさんに実施してもらって面白かったのが、アロマに期待する傾向が性別や年齢によって違っていて。女性はアロマの効果より自分に合った香りを作るというストーリーを楽しむ方が多く、男性はアロマの効果やパーソナライズ自体に興味を持つ方が多いんです。

—— アロマって女性が使うイメージが強かったのですが、男性ユーザーさんもいらっしゃるんですね!

太田:ユーザーの性別はほぼ半々の割合ですね。
どういったシチュエーションで利用しているかをコメントで頂くこともあるのですが、例えば朝のシーンではアロマを寝床に置いて、寝起きに吹きかける女性の方がいらっしゃいます。昼のシーンはプレゼンの前に吹きかけると成功するというジンクスを持った男性もいますし、夜のシーンは快適な睡眠を取るために枕元に吹きかける方が多いようです。

それぞれのシーンで、20~30代のほぼみなさんが特徴的に期待するエモーションやイメージカラーの傾向が見られたり、シトラス(柑橘系)の香りをベースにジンジャーなどのスパイスをアクセントに加えた香りを統計的に好んでいたりします。

香りの統計データをマーケティングに活用?驚くべきITなアロマ

—— ユーザーの属性によって傾向があるのは面白いです。

太田:実はこのパーソナライズフレグランスで取れた統計データが価値なんです。このデータを分析して、企業向けのオーダーメードアロマサービスに活用しています。

例えば、昨年は東急不動産さんと提携して渋谷のコワーキングスペース「Plug and Play」で香りのマーケティングを展開したり、ヤマハさんと一緒にコンサートの演出でアロマを活用したり、活躍されているアーティストさんの曲をイメージしたアロマをライブグッズで販売したり…今後も企業さんとアロマを切り口にコラボして、新しいマーケットをどんどん展開していこうと思っています。

—— 統計データをもとに企業とタイアップしてマーケティングに活用するなんて、とてもITなアロマですね(笑)

太田:そうなんです。実は今日も一例としてAMPさんをモチーフにしたアロマを作ってきました!

ミレニアル世代に嗜好(しこう)性が取れる、ビジネスインスピレーションを想起させる香水調のアロマに仕上げてみました。スパイスをベースに洗練されたシトラスノートを調合しています。

—— すごい!とてもうれしいです…!

太田:ぜひ公式フレグランスに(笑)
このAMPフレグランスの香りは、まさに統計データをベースにカスタマイズして作っています。このような商品を企業さん向けにオリジナルで提供しているんです。

—— まさに最先端なアロマだと感じているのですが、今後注目するアロマと掛け合わせたテクノロジーは何かありますか?

太田:AIとVRですね。
AIを活用することで、より簡単に精度の高いパーソナライズアロマを提供できるのではないかと。
現在の診断プロセスはユーザーが求める香りに合ったイメージをデータ解析して処方していますが、今後はユーザーのインサイトやパーソナリティーの情報だけで求めている香りや用途をAIで判断し処方できるようにしたいと開発を進めています。

VRは映像に合わせて最適な香りを提供することで、「エモーショナル」と「ファンクショナル」を両立できるシーンがあると思っています。

例えば、老人ホームに入居して旅に行けない高齢者向けに、旅行に行ったような気になれるようなコンテンツとか。北海道の自然の映像がVRで流れる中で、森や自然を感じられるような香りを流すような仕掛けを作ることで、感動につながり、認知症予防やメンタルヘルスケアにもつなげられるのではと考えてます。

香りで多くの人を幸せにしたい

—— 今後、「香り」×「テクノロジー」で実現していきたいことについて教えてください。

太田:ビジョンである「最適な香りのある暮らしで明日への活力を提供する」を軸に、より多くの人に香りを通して、エモーショナルな領域とファンクショナルな領域で幸せを提供していきたいという思いが第一にあります。

また、もう一つ実現していきたいのが「香りでつながる地方創生」です。

—— 香りでつながる地方創生、ですか?

太田:はい。日本の社会課題として地方創生が注目されていますが、無理に新しいものを地方で生み出すより、今あるものを丁寧に伝えていく方が大事だと考えています。

地方特有のその土地でしか採取できない香料素材を通じて、地方の生産者と都会で暮らす消費者が香りでつながる社会を作ることが、単純に素敵だと思いました。

—— それは、香りがキッカケで生産地を知って地方に足を運んでもらうことが最終的なゴールなのでしょうか?

太田:ビジネスとしてアロマサービスが活性化すると、生産された香料素材の仕入れ量も変わるので、生産された場所も活性化されます。そして、おっしゃる通り、生産地を知って地方に興味を持って足を運んでもらうことで地方の活性化につながると考えていて、現在は会員ページにログインしてもらうと、処方されたアロマの原材料の産地が見られるようにしてあります。

なので、これらの実現のためにも、今後は今以上に利用者を増やしていきたいと思っています。

—— どのようなアプローチで利用者を増やしていこうとお考えですか?

太田:商品を販売する基盤の部分をしっかり作っていくことがまずは重要だと考えています。Eコマースのサービスなので、グロースハックしてどういったUIUXにすればサービスに興味を持ってもらえるかを考えるべく、Webマーケに強い人間を採用して実現していく予定です。

また、企業やインフルエンサーとのタイアップを今後は増やして、PRにつなげていこうと考えています。

—— 「パーソナライズ×香り」のテーマは口コミで広がっていきやすいイメージがあります。

太田:そうですね。今までも、芸能人の方とタイアップをして、その人に合ったオリジナルフレグランスを作ったことがあったのですが、その影響でアクセス数や購入数が伸びたこともありました。

その人らしい香りのある暮らしや香りの新しいライフスタイルを実現させていくためにも、有名企業やインフルエンサーを巻き込みながら、啓発活動を継続していきます。

—— それでは最後に、これからのアロマ業界でどのような役割を担っていきたいと考えていますか?

太田:香りの専門家であり、香りで新しい市場を作っていくイノベーターとして、フレグランスイノベーターという肩書きで現在活動しています。私自身、この肩書きに沿った役割を担いながら、CODE Meeeではテクノロジーを利用して新しいマーケットを作っていくポジションを取っていきたい。

また、新しいライフスタイルを確立させていくことは簡単なことではありません。香りの専門的な知識と、世の中の人たちがより快適に生きて行くために必要なテクノロジー(IT)の知識、この両方の知識がなければイノベーションを起こすことが困難です。

どちらの知識・分野を理解し、結びつけ、新しい香りのマーケットを生む役割を担い、香りとITの力で世の中をアップデートしていきたいですね。

取材・文/阿部裕華
写真/西村克也