電車に乗ると、以前は本を読む人が多くいたものだったが、今は誰もがスマホを眺めている。そんな状況を見ると、読書をする人はいなくなってしまったかに思えてしまう。
しかし、世界的なマーケティングリサーチ会社であるGfKが2017年に発表した調査によれば、対象となった世界17カ国全体では、「毎日・ほぼ毎日」本を読む人が30%いるという。この割合は米国では世界平均と同じ30%で、日本では20%だそうだ。読書はまだそう廃れているわけではないらしい。
現在、世界的にインフレといわれる状況下で私たちは暮らしている。庶民の生活は決してゆとりがあるわけではなく、買わなくて済むものは買わないよう心がける。当然ながらそれは趣味にも反映されていて、本は購入せずに、図書館を利用するという人が増えている。
開館時間やアクセス面で、現代人の生活にマッチ
2017年の読書週間にちなみ、読売新聞が行ったアンケートで、過去1年間に図書館を利用した日本人は、対象者の40%を占めた。
一方、米国のシンクタンク、ピュー研究所による2016年の発表では米国人の48%に上った。図書館といえば、並んでいる書棚から本を借りて読んだり、調べ物をしたりするところだった。
しかし近年、世界的にそれに変化が見られる。例えば、所在を明らかにするためのバーコードタグを本に付けたり、セルフ貸出できたり。これらは今や図書館の「スタンダード」となっており、図書館は利用者の多様化する要望に沿うべく、さらに未来に向かって進んでいっているのだ。
- 24時間オープンも視野に? 開館時間を延長
- こんなところにも! アクセスしやすい「ミニ図書館」
米国には、国内図書館の平均開館時間の約2倍の時間、開いている図書館があるそうだ。ジョージア州のアトランタ近郊のグイネット郡立図書館15館の中の1つ、ローレンスヴィル図書館だ。開館時間の週平均が52時間であるのに対し、同図書館は98時間だという。
日本の図書館が開く時間は朝9~10時が一般的で、閉館は場所や曜日によってばらつきがある。閉館は早いところでは17時、遅くても21時。ローレンスヴィル図書館の場合、開館のコアタイムは日本と似た時間帯だ。しかし、朝と夜にオープンしている時間をプラスし、朝の8時から夜22時まで開いている。週末も同様だ。プラスされた分の時間帯にはスタッフはいないが、貸し借りや閲覧などは自分で行えるので支障ないという。
グイネット郡立図書館15館が目指すのは、「市民が足を運びやすい図書館」だ。これは日本の利用者も図書館に求めることの1つ。「開館時間が長い」なら、もっと利用したいとする人は、先の読売新聞のアンケート調査では27%を占めた。アサヒグループホールディングスお客様生活文化研究所運営の情報発信型ウェブサイト「ハピ研」によれば、「『本』以外で、現在の図書館の機能として望むことは?」という問いの回答中5番目に「24時間営業」(17.5%)が挙がっている。
ローレンスヴィル図書館の週98時間開館を可能にし、また24時間開館も視野に入れたシステムを構築しているのは、米国のビブリオテカ社の「オープン+」というシステムだ。現在世界の図書館500館で採用されている。
カードをかざして図書館のドアを開ける、オープン+の利用者 © bibliotheca
利用法はいたって簡単。オープン+を利用したい人は前もって登録しておく。登録が済めば、カードで入館できるようになる。そして、いったん中に入ってしまえば、普段通りに利用すればいい。ローレンスヴィル図書館では約400人がオープン+に登録しており、月に約100人がコアタイム以外に図書館にアクセスしている。
図書館側にとってもメリットは多い。オープン+は、すでに運営に用いている図書館統合システムに容易に合体が可能。スタッフの人件費を発生させずに、開館時間を延ばすことができる。導入時に懸念された、スタッフ不在による不都合も起こっていないという。
ドリンクの自動販売機かと見間違えてしまいそうなのが、自動書籍貸出機だ。ハリファックス地域都市圏など、カナダで普及が進んでおり、国内のコンヴァージェント・ライブラリー・テクノロジーズ社による「ノヴェルブランチ」と呼ばれるものだ。
カナダのオンタリオ州にある、スポーツ&娯楽センターに.2017年末設置された「ミニ図書館」(一番左)(コンヴァージェント・ライブラリー・テクノロジーズ社のフェイスブックより)
ノヴェルブランチのメリットは、図書館の開館時間の制限を受けずに、人々が図書館の本にアクセスできる点にある。さらに自分の行動範囲に図書館がなくても、ノヴェルブランチさえあれば、本を借り、返却もできる。老人ホーム、病院などに置けば、図書館まで出向けない人でも、本を借りることができる。またショッピングセンターや娯楽施設に置けば、普段はあまり本を読まない人にも興味を持ってもらえる可能性がある。
貸出機内の本は、図書館の司書が設置場所がどんな場所なのかを念頭に置いて選ぶ。セレクションも順次変えるので、利用者も飽きることがない。
ノヴェルブランチを利用する際には、図書館利用者カードをかざしてドアを開き、本を取り出し、ドアを閉めるだけ。借りた本のリスト、返却期限などを記したレシートも出てくる。返す際もカードでドアを開け、棚に本を戻せば完了だ。
自動書籍貸出機は設置自体も簡単だ。ネット環境が整い、電源が確保できれば、どこにでも置くことができる。図書館の貸出、返却を自動化するためのRFIDを用い、自動貸出機と図書館システム間の通信プロトコル、SIPを通して図書館統合システムと交信することで、サービスを実現する。
ニューヨーク公共図書館のインスタグラムが、あなたの「書棚」に?
本に書かれた知識や楽しさを広めるために、図書館が行っているのは施設面の充実だけではない。
ニューヨーク公共図書館は8月に「インスタノベル」を発表した。書籍のジャンルでは今までにはなかったプラットフォームであるインスタグラムでの読書を可能にすることで、誰にでも本を読む機会を得てもらうのが目的だ。もちろん、同図書館の登録利用者でなくても、読むことができる。
インスタグラムノベル第1作は、ルイス・キャロル作の『不思議の国のアリス』。2作目は、『黄色い壁紙』(シャーロット・パーキンス・ギルマン作)だ。そして『変身』(フランツ・カフカ作)が続く。ストーリーをよくとらえた、人気アーティストのアニメーションが、不朽の名作を現代に蘇らせるのに一役買っている。文字のフォントもスクリーン上で読むことを前提にしつつ、古典作品の良さを失わないよう配慮されている。
インスタノベルは、同図書館のインスタグラムアカウントの「ハイライト」セクションに保存されているので、いつでも好きな時に読むことができる。
地元の広告・クリエイティブ・エージェンシー、マザー社の協力によって、インスタノベルは誕生した。同社の共同経営者であり、最高クリエイティブ責任者のコリナ・ファルシさんは「インスタノベルは、ペーパーバックの小説と変わらない感覚で読める」と評価する。
ニューヨーク公共図書館の対外関係部門の責任者、キャリー・ウェルチさんは、インスタノベルのサービス開始に際し、「これは、『世界の英知に誰もが触れることができるように』という当図書館の使命に沿った動き」とコメントしている。インスタノベルは、図書館もデジタル時代に沿うよう進化を遂げていることを人々に示す、良いチャンスだったともいう。テクノロジーを導入して、開館時間を長くしたり、利用者のニーズに合ったサービスを展開するほかの図書館にも、その姿勢は共通するものだ。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)