2017年、世界の航空旅客数は前年比3.6%増の約40億人に達した。この成長率は今後も継続すると見込まれており、2036年には78億人に達すると予想されている(国際航空運送協会)。
地域別ではアジア太平洋が最大で、現在の旅客数は35億人。成長率は4.6%で推移し、2036年までに21億人が加わると予想されている。成長率ではアフリカが最大で、年間5.9%増加し、2036年には4億人に達するという。
このほか中東では5%、中南米では4.2%と高い成長率を維持する見込みだ。また欧州は2.3%、北米も2.3%と世界中で旅客数は増加を続けるという。
この旅客数の急速な増加によって、各国の空港や航空会社は旅客処理能力拡張のための多大な投資に迫られている。一方、空港・航空会社で人員を2倍に増やすことは難しく、多くがテクノロジー利用によって能力拡張を目指す方針だ。
世界最大の旅客市場となるアジア太平洋地域のハブ空港であるシンガポール・チャンギ空港では、滑走路やターミナルの増設に加え、ロボットや自動化ゲートの導入を進め、来る大旅行時代への準備を進めている。
人口600万人に満たない小国シンガポールだが、チャンギ空港の年間利用者数は6,000万人を超えており、この先さらに増加する見込みだ。
テクノロジー活用で空港はどこまで進化することができるのか、チャンギ空港の取り組みから「空港の未来」を覗いてみたい。
チェックインから搭乗手続きまで全行程自動化システムを導入したチャンギ空港
英国の航空業界リサーチ会社スカイトラックスが毎年発表する「世界ベスト空港ランキング」。100カ国以上の空港利用者1,300万人以上から、チェックイン、乗り継ぎ、ショッピングなど空港での体験に関して聞き取りを行い、空港での居心地度合いをランキング化している。世界500以上の空港が評価対象となっている。
この空港ランキングで6年連続1位を獲得しているのがシンガポール・チャンギ空港だ。2013年から毎年1位を獲得し続け、最新の2018年版ランキングでも1位だった。
2018年版ランキングのトップ10は、2位韓国・仁川国際空港、3位羽田空港、4位香港国際空港、5位カタール・ハマド国際空港、6位ドイツ・ミュンヘン空港、7位中部国際空港、8位英・ヒースロー空港、9位スイス・チューリッヒ空港、10位ドイツ・フランクフルト空港となった。
このチャンギ空港、2017年の年間利用者数は6,200万人を超え過去最高を記録した。2016年の5,800万人から6%の増加となる。
今後も空港利用者は増加していく見込みだ。これまで3つのターミナルで対応していたが、2017年10月に第4ターミナルをオープン。これにより年間8,500万人まで対応できるようになるという。
さらに現在第5ターミナルの増設工事を進めており、2020年代半ばまでにオープンする計画だ。第5ターミナルが加われば、チャンギ空港では年間1億3,500万人まで対応できるようになるという。
チャンギ空港第4ターミナル、自動イミグレーションゲート
一方、英国の航空コンサルタント会社OAGは、第5ターミナルが完成しても、今後の旅客需要を考慮すると2032年までに旅客数が同空港の処理能力を超える可能性があると指摘している。
シンガポールの隣、マレーシアのクアラルンプール国際空港でも旅客処理能力の限界が近いといわれている。現在の処理能力は7500万人、今後20年で1億5,000万人に倍増させる計画が浮上している。
チャンギ空港はこれらの予測を鑑み、空港の対応能力を高めるための自動化施策に多大な投資を行っている。
第4ターミナルでは、顔認識技術を活用した全行程セルフシステムを導入。チェックインから、手荷物預け入れ、出国審査、搭乗手続きまで、空港スタッフとのやりとりを介せず行うことができるようになった。すべての工程が同一人物によってなされているのか、顔認識技術で確認するという。
地元紙ストレーツ・タイムズが第4ターミナル利用者に話を聞いたところ、ほとんどの利用者が、通常長い待ち時間を要するプロセスだが、全自動セルフシステムのおかげでストレスが大幅に減ったと高評価を与えている。
チャンギ空港・第4ターミナル、セルフチェックイン・手荷物預け入れカウンター
この自動システムは第1と第2ターミナルでも改修工事を通じて段階的に導入される予定だ。第1ターミナルの改修工事は現在半分ほどまで進んでおり、2020年に完了する予定。第2ターミナルでは2019年から大規模な改修工事が開始される予定で、完了は2024年頃。
同ターミナルでの年間処理能力は約2,200万人だが、自動システム導入で300万〜500万人の拡張が見込まれるという。
また2018年10月、シンガポール入国管理局は出入国カードデジタル化の試験運用を開始することを発表。スマートフォンなどで個人情報や旅行情報を入国管理局に送信することで、シンガポール到着時の入国審査ではパスポートを提示するだけで済むようになるという。
同入国管理局は、タイのパスポート保持者がシンガポールの出入国自動ゲートを利用できるプログラムを開始したばかり。長い列に並ぶことが多い出入国審査プロセスだが、こうした取り組みにより、空港の生産性を高めるだけでなく、旅行者のストレスを軽減することが期待されている。
チャンギ空港の自動化はこのような旅客対応だけでなく、手荷物輸送や航空機誘導、空港内清掃などさまざまなところで進められている。
ブルームバーグによると、チャンギ空港の空港業務や食品サービス業務を担う企業SATSは航空機から荷物を降ろし手荷物エリアまで運ぶ遠隔操縦自動車や自動運転車の試験を実施しているという。
また、機内食のパッキング自動化システムを導入したことで、生産性が36%も向上したと伝えている。
チャンギ空港を筆頭に世界各国の空港ではロボットや自動化システムの導入が加速している。さらにブロックチェーンや人工知能など先端テクノロジーの活用を試みる取り組みも増えている。
空港がどのような進化を見せるのか、今後の展開にも注目していきたい。
文:細谷元(Livit)