INDEX
残業や、友人・仲間たちとの会食で終電を逃してしまった時、あなたはどうするだろうか?
一番手軽なのは、タクシーで帰宅することだろうが、高額な深夜料金を考えると、気軽には乗りにくい。そのため、始発電車が動き出すまで時間をつぶしたり、リーズナブルな深夜バスを利用したりする人が多いだろう。
そんな“深夜の帰宅難民”たちに注目してもらいたいのが、2015年秋にサービスインし、東京23区内の一部で午後8時から午前3時の深夜帯にサービスを提供しているCtoCドライブマッチングサービス「CREW」だ。マイカーで街を走るドライバーに希望の場所まで送ってもらえるという「“乗りたい”と“乗せたい”とを繋げるサービス」である。
CREWの基本情報に関しては下記記事を参照。
そんなCREWを運営する株式会社Azitが、サービスインから間もなく3年が経過するのを前に、9月13日、都内で説明会を開催した。
その場で代表取締役CEOの吉兼周優氏は「CREWは現在、航空会社や各種キャリア、セキュリティ会社など、各領域の事業会社との連携も始めているところ。今後は、クルマでの移動だけにとどまらず、さまざまな事業会社とともに、日本ならではのモビリティの未来を創造していきたい」と語った。
与論島の実証実験から見えたCREWの可能性
同説明会では、株式会社Azitが鹿児島・与論島で行った実証実験の結果も明らかにされた。同社は、ヨロン島観光協会と提携。2018年8月1日から31日までの1カ月間、観光ピーク時の公共交通機関不足が課題となっている与論島内で、新たな移動手段を提供する実証実験を行った。
与論島は、年間約7万人が訪れる観光資源豊富な島で、観光客の数は毎年1万人ずつ増加している。しかし、島を走るタクシーはわずか8台。路線バスも1路線のみという離島であるため、増え続ける観光客に対し、どのようにして移動手段を確保するか、ということが喫緊の課題となっていた。
今回の実証実験では、サービス提供時間を朝5時から8時までの間に限定。朝8時から稼働する現地タクシー事業者の営業時間外とすることで、公共交通機関との共存を意識した。またドライバーは、主に宿泊施設や観光施設を運営する現地の人々が担当。CREWサービスの告知は、役場や観光協会、現地住民との協力で行われた。
今年の夏は台風などの影響もあり、実証実験でのライド数は28件、利用者数は70名にとどまったが、ドライバー、利用者ともに評価は上々。地元の観光協会からは「旅館の担当者が空港まで観光客を迎えに行く負担をCREWで解消できた」という声も聞かれたという。
吉兼氏によると、こうした地方でのサービス提供に対し「現在、全国各地からの問い合わせが増えている」とのこと。同氏はそれを踏まえ「今後CREWを、都市部と地方部の双方で日本の交通課題を解決するサービスに成長させていきたい」と意気込みを語る。
CREWは、今回、実証実験を行った観光地に限らず、公共交通機関が整備されていない地方でも有益と思われるサービスだろう。少子高齢化が進む地方では、高齢者が運転免許証を返納するケースが増えており、買い物や病院へ行くのにも苦労している人たちが増えている。そうした地方の交通課題に対し、CREWが解決の一翼を担う可能性も、今後でてきそうだ。
法的課題をクリアした“あいのりマッチングサービス”
CREWのサービス内容を知ると、「白タクじゃないか?」と感じる人もいるかもしれない。確かに日本では、自家用車に人を乗せ、有償で目的地まで乗せていく行為は“白タク”として禁止されている。例えばUberなどの“ライドシェア”が日本で解禁されないのは、国土交通省が「事前に対価の合意がある白タク行為」として位置づけているためだ。
その点CREWは、移動後、ユーザーがドライバーに対し、任意で謝礼を支払うスタイルをとっている。こうしたサービスに対して国土交通省は「任意の謝礼で金銭等が支払われた場合は有償運送とはみなさず、道路運送法における登録や許可を必要としない」と通達。同省の規定で“あいのりマッチングサービス”に位置づけられるCREWの適法性について、お墨付きを与えている。
乗る人、ユーザーのモラルが今後のCREWの課題に
今回は、そんなCREWのサービスを、実際に試してみた。
利用方法は至って簡単だ。まず“乗りたい”ユーザーは、スマホアプリを起動し、現在位置と目的地、乗車人数などを入力。すると、近くにいる“乗せたい”ドライバーが表示され、その中の1人を選ぶと、現在地までドライバーがマイカーで迎えに来てくれて、目的地まで乗せていってくれる仕組み。アプリの操作性やUIも感覚的に使用できるので、操作に迷うこともない。
どんなドライバーが迎えに来てくれるのか、興味半分、不安半分といったところだったが、実際に迎えに来てくれたのは、ミニクーパーに乗る温和そうな男性。わざわざクルマから降りて助手席のドアを開けてくれたり、車内の温度を気にしてくれたりと、心のこもったホスピタリティを提供してくれて、心地良い気持ちで移動できた。当初感じていた不安は、すぐに取り越し苦労だったと感じた。
そして目的地までの移動中、ドライバーの方からさまざまな話を聞いた。
ドライバーになったきっかけは?
――「謝礼目当てではなく、あくまで人と接する機会が欲しかったからですね。それと、海外でUberなどのサービスに触れていたこともあり、以前からライドシェアサービスに興味があったのです。でも日本では、法律などの問題で普及が難しかった。そんな中、CREWは新しい発想でサービスの実現にこぎ着けました。どんな仕組みで展開されるサービスなのか? ドライバーとしてぜひ一度、体験してみたいと思ったのです」
ドライバーとして一番うれしいことは何でしたか?
――「やはり、ユーザーを目的地まで安全に送り届けられた時。喜んでもらえると、こちらもすごくうれしい気持ちになります」
自宅とは逆方向の、しかも遠く離れた場所まで送って欲しい、という依頼も少なくないはず。そんな時は大変ではないですか?
――「確かに大変ではありますが、そんな時はサービスが終了する午前3時前までに、可能な限り、もう一度サービス提供エリアに戻ってくるよう意識します。『もう今日は遅いからCREWに乗れないかも』と不安を抱いているユーザーの方たちを乗せてあげたいからなんですが、それが実現すると、みなさん本当に喜んでくれるんです。それが私のモチベーションになっていますね」
そう笑顔で答えてくれた。
目的地へ到着後、アプリでドライバーを評価し、ガソリン代や高速道路料金といった実費とシステム利用料、そして謝礼をクレジット決済で支払う。(この際、ライダーもドライバーから評価される)謝礼の額はゼロから1万円までの範囲で、ユーザーが任意の額を支払えばいい仕組み。もちろんゼロでも問題はないが、目的地まで運んでくれた上に、ドライバーの方の温かいホスピタリティに触れると「それなりの額を支払ってあげたい」と正直思った。
CREWの公認ドライバーは、過去に大きな事故や処罰を受けていない人、車両に対してしっかりとした内容の保険を掛けている人、といった具合に、“厳正な審査基準”を満たしている。
日本ならではのライドシェアとして展開しているCREWは、そういったドライバーたちとの“互助の精神をベースにしたモビリティサービス”である以上、乗る側、ユーザー側のモラルも問われる。
車内でのコミュニケーションや謝礼へ対しての考え方はそれぞれではあるし、サービスである以上、ルールを守れば問題はない。しかし、相手のことを思いやり、目的地まで送り届けてくれたドライバーに対して、“ありがとう”という言葉をかけることで、CREWの根幹である互助の精神によるライドシェアが成り立つのかもしれない。