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亡くなる人の増加やライフスタイルが変わっていくにつれ、日本では、ビル型納骨堂など、お墓のあり方が多様化している。
日本と事情は異なるものの、ニュージーランドでもお墓や墓地に変化が現れつつある。テクノロジーの活用がちらほらみられるようになってきているのだ。一体どういうわけなのだろうか。
墓参時に、生前の故人との再会を助けるQRコード
お墓参りに行っても、目の前に立っているのは、石で造られた、冷たい墓石1つだ。個性を物語る形をしていたり、詩など、特別な文言が彫られていたりしていても、人1人の人生は墓石だけでは語り切れない。
では、お墓を前にして、故人の生前の姿がよみがえったらどうだろう。寂しい思いが先に立ちながらも、うれしさと懐かしさがこみ上げてくるに違いない。墓参者にそんな体験をさせてくれるのが、ごく一般的に普及している「QRコード」だ。
デジタル・メモリアルズ社が提供する、QRコードを焼きこんだ陶製タイルは、墓石の追加機能を果たすものだ。QRコードを利用すれば、故人の写真やビデオ、家系図、生前のエピソードなどをたくさん盛り込むことができる。
墓参者がアプリをインストールしたスマホやタブレットで、QRコードをスキャンするだけで、愛する人の思い出がスクリーンに映し出される。内容やデザインは遺族や生前の本人次第。後で加えたいと思う内容が出てくれば、追加することもできる。墓参をより意味あるものにしてくれる。
タイルは手のひらに乗るほどの小さいものなので、新しくお墓を建立する際だけでなく、すでにあるお墓に手軽に付け加えることができる。中には、第一次・二次世界大戦時、海外の前線で戦死した祖父や曾祖父のお墓に取り付けるために、孫やひ孫が注文し、海外に持って行く例もあるという。小さなタイルには、墓参者と故人をつなぐ大切な役割がある。
墓石の銘文下にあるQRコード。これとスマホがあれば、墓参に写真を持ってきて飾る必要もなくなりそうだ© Digital Memorials
ドローンを用い、「バーチャルお墓参り」の実現へ
一方、一般企業だけでなく、地方自治体も、管理する墓地にテクノロジーを取り入れ、市民へのサービスを強化する試みを始めている。ロトルア地方を統括する行政府、ロトルア・ディストリクト・カウンシルは、ドローンを用いて、墓地の3Dマップを制作。オンライン上の埋葬記録と組み合わせ、「バーチャルお墓参り」ができるよう、今年の4月から作業を進めている。
同時に、埋葬されている故人の写真を提供してもらうべく、遺族への呼びかけも行っている。バーチャルお墓参りをした人に、お墓だけでなく、そこに眠る人の写真も一緒にみてもらい、懐かしんでもらおうという計画なのだ。また、お墓参りをしたくても、年配者であれば体の自由がきかなくなっていることもある。せっかく行こうと予定していても、天候が悪いということもあるだろう。そんな時に特に便利なのは言うまでもない。
カウンシルは、同地方にある10カ所の墓地のうちの1つ、マヌヌイ墓地から作業を着手。徐々にほかの墓地でも、同様のサービスを提供できるよう整備することにしている。
マヌヌイ墓地を調査するため、ドローンを飛ばす職員 © Rotorua District Council
テクノロジーは「先祖探し」にも貢献
近年、ニュージーランドでは「先祖探し」がブームになっている。とはいえ、この国の人々はもともと自分の出自に興味があることが多い。なぜなら、先住民マオリの文化が国民全体に浸透しているからだ。
マオリの人々にとり、各代の先祖がどこの誰なのかを把握することは非常に大切。カヌーで太平洋を渡り、最初にこの地に到達した、1000年ごろまで祖先をさかのぼれるマオリ系も少なくない。マオリにとり、家系は自らのアイデンティティーを示すものだ。そして、人として成長し、前進する際に支えてくれる土台の役割を果たすと考えている。
マオリ系以外の人々が先祖探しをする理由はほかにもある。彼ら彼女らが移民の子孫だからだ。祖先がやってきた、もともとの国は遠い上、1つであるとは限らない。祖国を後にしてから年月が経っているケースも多い。それゆえ、より好奇心をそそられるというわけだ。
日本の戸籍にあたるものがないので、先祖のことを知りたいという人を手助けする組織もある。ニュージーランド・ソサエティ・オブ・ジネオロジスツと呼ばれる専門組織だ。1961年から活動していおり、今では全国に90近い支部を持つまでに成長している。図書館や郷土史家も協力を惜しまない。各地方のカウンシルも同様。埋葬者についての問い合わせを入れることもできる。事実、ロトルア・ディストリクト・カウンシルには、先祖探しをする人からの照会が頻繁にあるそうだ。
最近はインターネット上にある情報も充実している。死亡証明や結婚証明、ヨーロッパからの初期移民船の乗船名簿、過去の新聞などまでがネットに掲載され、閲覧することができる。遠方に住む遠縁の親戚と情報交換をするのにも、Eメールなどで、簡単で敏速に行える。
こうした先祖探しの既存の情報アクセスルートに、新たに加わったのが、テクノロジーを利用した、デジタル・メモリアルズ社やロトルア・ディストリクト・カウンシルのサービスなのだ。故人のエピソードや家系図、写真をみて、自分と血のつながりがあるかなどを調べる。公的資料からはみつけることができない、個人蔵の貴重な情報というわけだ。
ニュージーランドは移民で成り立つ国。海の向こうからやって来た先祖探しにDNA鑑定は便利だ(アンセストリー・ドットコムのウェブサイトから)
DNA鑑定で先祖を発見し、世界とつながる
遺伝子情報を用いて祖先を調査するサービスを提供する、アンセストリー・ドットコム社のシニア・ディレクター、ブラッド・アージェントさんによれば、依頼者は45歳以上が多いとのこと。しかし、最近は18~24歳の若い世代も増えつつあるという。なぜか。
ブラッドさんは、その理由を「アイデンティティー探し」とする。周囲にいる近親者だけでなく、自分が世界のどこの誰とどんな風につながっているんだろう、と好奇心を抱くというのだ。若者にとっても、「先祖」探しは、「自分」探しと置き換えることができそうだ。
私たちにとって、テクノロジーは「実用的」なものにほかならない。デジタル・メモリアルズ社のQRコードや、ロトルア・ディストリクト・カウンシルのバーチャルお墓参りは、確かに先祖を探す際に有用な情報をもたらしてくれる。
しかし、どちらも同時に、写真などの形で故人をよみがえらせ、私たちの感情に訴えるものでもある。親しい人と死別した際、十分に悲しむことが大切だといわれる。テクノロジーの役割は、私たちの心のケアにまで広がっている。
文:クローディアー真理、編集:岡徳之(Livit)