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2018年6月29日、AMP1周年記念イベント「CHANGE THE GAME」を開催。セッション1では、共同編集長・木村和貴が世界中で人気ビジネスを生み出す“ゲームチェンジ”について語り、ビジネスのヒントを共有した。
セッション2では『ドラゴン桜(ドラゴン桜2は現在連載中)』『インベスターZ』の著者である漫画家・三田紀房氏と、『インベスターZ』ドラマの仕掛け人であるテレビ東京プロデューサー・工藤里紗氏を招き、話題コンテンツを生み出す秘訣を伺った。
AMP共同編集長・木村和貴「さまざまな業界でのゲームチェンジの兆候」
ゲームチェンジとは、既存の枠組みと異なる手法をとることで、ビジネスに新たな勝算を生み出す手法だ。たとえば、ブルーライトをカットするPC用メガネ。従来は「メガネ=視力が低い人がつけるもの」と捉えられていたが、PC用メガネの登場により、視力が高い人でもメガネを利用する文化が生まれた。
こうしたゲームチェンジの事例をさまざまな分野から8つ取り上げ、そこからみえるビジネスヒントを木村が語った。
1つ目はビジネスモデルのゲームチェンジとして「サブクリプションモデル」について語った。売り買いで完結するのが「買い切りモデル」だが、「サブクリプションモデル」は利用した期間に応じて料金を支払う。月額料金などが発生するため、継続的な売り上げが見込める点が特徴だ。音楽ストリーミングサービスや動画ストリーミングサービスで近年人気があり、利用制限なくコンテンツを楽しめる自由度の高さが消費者に支持されている。
木村「音楽や動画のほかにも、一時的に利用するものの、飽きて放置しがちになる子供のおもちゃや、洋服、香水などのサブスクリプションサービスも誕生しています。今までは買って消費するだけで完結していた商品も、サブスクリプションモデルに移行しつつあるのです。また、サブスクリプションモデルは企業側にも大きなメリットがあります。それは、データ解析による効果的な販売戦略が立てられることです」
たとえば音楽の分野で考えると、これまでアーティストは音楽視聴の実態を把握できなかったが、サブクリプションモデルのネットサービスであれば、ユーザーの年代・性別・地域はもちろん、視聴する時間帯や視聴回数まで詳細に把握できる。このデータをライブ活動や曲作りに活かせる。
木村「サブスクリプションモデルのポイントは継続利用です。つまり、ユーザーとどれだけ良い関係を築けるかが成否を分ける分岐点で、カスタマーサクセスが重要視されるんですね。そうゆう意味では、これまでの売っておしまいという状況よりも、質の高さやユーザーとのコミュニケーションがより求められます」
ビジネスモデルのゲームチェンジとしてサブスクリプションについての説明に続き、ゲームにおける変化としてゲーム実況やeスポーツについて、そしてアプリのゲームチェンジとして利用時間を限定しライブ参加するHQ Triviaなどが紹介された。さらに、スポーツ観戦におけるゲームチェンジとして、ハーフタイムにライブオークションを行うDROPITについて語った。
木村「スポーツのハーフタイムに開催される関連グッズのライブオークションは、退屈な隙間時間をファンが熱狂する時間に変えました。スタジアムのディスプレイとスマホのディスプレイを使って60秒間のライブオークションを開催し、開始とともに金額が下がっていき落札されたタイミングで終わる仕組みです。ファンが熱狂するだけでなく、これまで動かなかった新たなお金が動くようになります」
セッション1では他にも、マイノリティ向けスポーツ用品、料理のオープンソース化、店舗のないレストラン、曲を売らないアーティストなど様々なゲームチェンジの事例が語られた。
ゲームチェンジの兆候として、生活者の価値観変化や環境変化をとらえている事例が多いと説明。ストリーミングサービスをみんなが使うようになったら、CDは売らなくていいんじゃないか、それで曲を売らないアーティストが登場する。フードデリバリーが浸透してきたら、そこで今後は「じゃあ店舗のないレストランを作ろう」という具合だ。
木村「ゲームチェンジを起こすためのポイントは製品・サービスに関連する消費者の価値観や環境の変化を洞察し、それに最適なモデルを模索・再考するということが大事かなと思います。これは決して既存の延長線上にはないと思っておりまして、既存の商品をもっと良くしようと改善していくフロ―の中では、こういったゲームチェンジは起こせません。
改めて俯瞰して市場全体を見渡し、周辺の環境はどうなってるんだろう、消費者の価値観どうなってるんだろう、といったことを想像して、『であれば今までこういうアプローチをしてたけど、こう変えた方がいいんじゃないか』という発想を持って、改めて自社のプロダクトであったりとかサービスを見直すといいのかと思います」
漫画家・三田紀房氏×テレビ東京プロデューサー・工藤里紗氏 トークセッション
未経験で新人賞受賞。人には相談せず黙々と描いた
三田「就職活動はほとんどしなかったんですよ。大学4年の9月末くらいに重い腰を上げて就職課に相談したら『今頃何しに来たんだ』と怒られました。『とりあえず、今年は流通業界が大量採用するから百貨店に応募しなさい』と言われて集団面接に行ったんですね。僕は剣道部だったので、学生服をガッツリ着て行って『明治大学の剣道部の三田です』と言っただけです。その日の夜に内定連絡が来ました。やっぱり体育会系は強いと実感しましたね(笑)」
木村「漫画家というとずっと描き続けているイメージですが、就活をなさっていたのは意外です。そこから、どういった経緯で漫画家になられたのですか?」
三田「実家の衣料品店を手伝うことになって、百貨店を退職したんですね。実家で6~7年働いていたんですが、毎年売り上げがガンガン減っていって。大手チェーン店が郊外型のショッピングセンターを出し始めて、こりゃ路面店は厳しいなと。廃業は目にみえてました。
そんな時、漫画雑誌に“新人賞の賞金100万”と書いてあるのを見て『とにかくこれを狙おう』と思いまして(笑)それで初めて漫画を描いて出したら入賞して、すぐ編集者に『月刊誌で連載をやらないか』と言われたんですよ。店番しながら月刊誌で1年ほど連載を描いていました。本業より漫画の方がお金になるので、店を閉めて漫画家になったという経緯ですね」
木村「普通は『お金が必要だ、漫画を描こう』とはなかなか思わないですよね(笑)」
三田「確かに、大都会にいたら『漫画だ』とは思わないですよね。でも岩手県の片田舎にいましたから、働き口になる民間企業がないんですよ。銀行がちょこっとあるくらいで、転職そのものができない状況。だから漫画で結果が出るか試して、無事入選し掲載された時に初めて『あ、そこそこ漫画の世界でやっていける能力はあるな』と判断できたんです」
木村「もともと絵を描いたりストーリーを考えたりするのが得意だったんですか?」
三田「いや、全く経験はなくて。でも、以前に入賞した作品を読んで『大しておもしろくないな』と感じまして、『これだったら俺も描けるんじゃないか』と思って挑戦しました。変な自信があったんですよね」
木村「すごいですね。挑戦するにあたって賛否両論あったかと思いますが、反対意見の捉え方や対応について教えてください」
三田「漫画の新人賞に応募することは、誰にも喋らなかったんですよね。誰かに相談してもどうにもならないし、まずは描いてみないと始まらない。たとえ反対されても無視します。だって、相手には関係ないじゃないですか。だから反対されても自分の意志は変わらないですし、知らんぷりですね(笑)」
「東大は入れない」から「東大は入れる」に。常識を覆した『ドラゴン桜』
木村「『ドラゴン桜』はどのように誕生したのでしょうか?」
三田「担当編集者が東大を卒業したばかりの新入社員だったので『三流高校の落ちこぼれが東大に進学するサクセスストーリーにしたらおもしろいんじゃないか』と提案したんです。そしたら東大卒の編集長に『それだとおもしろくないですね、東大って意外と入れるんですよ』と言われまして。そこで逆に『東大は意外と簡単だ』というキャッチコピーにしたんですね。逆張りの発想で、世の中を惹きつけたという流れです」
木村「それもひとつのゲームチェンジですね。『東大は入れない』から『東大は入れる』に変えたと」
三田「そうそう。『自分にはこんな能力はないから』とチャンスから自分で逃げてしまうことが多いじゃないですか。大体の人は『東大なんて無理』って思うんですよ。最初の段階で諦めている人に対して『いやいや、ちゃんと対策を立てれば意外と入れますよ』と伝えたかった」
木村「続編もスタートしましたね。『ドラゴン桜2』の見どころは何でしょうか?」
三田「『ドラゴン桜1』から10年経って、受験環境がガラッと変わりました。インターネット授業がいつでもどこでも見られる時代ですから、スマートフォンがあればどこでも質が高い勉強ができます。どうやって道具を使いこなすかといった戦略をパート2では紹介していく予定です」
電子書籍ランキングジャックで話題を集めた『インベスターZ』
木村「『インベスターZ』は中高校生が学校の運営資産を稼ぐという斬新なストーリーが魅力的です。どこから構想が生まれたのでしょうか?」
三田「野球の名門校の取材です。校長や部長と食事をしたんですけど、野球の話ではなく学校教育の話ばっかりするんですよ。経営が厳しい、生徒を集めるのが大変だ、と。
帰り道に『学校経営はどうやったら楽になるんだろう』と考えていたら、創立者の資金を運用し、運用益で学校経営して、生徒の学費は無料だったらいいよなと思い至りました。運用するなら大人より子供の方がおもしろいですよね。そういうストーリーの設計図ができて、編集者に『こんな企画どう?』と提案しました」
木村「意外なところから誕生したんですね。工藤さんがドラマ化したいと思った理由は何でしょうか」
工藤「最初は『投資って難しそうだな』と思ったんですが、読み出したらホリエモンを筆頭に名物社長が次々に登場して……女性の生き方や就活もリアルに描かれているので、お風呂でもトイレでも読み続けてしまうほどハマりました。テレビ東京には実験枠でもある深夜ドラマ枠があって、そこならリアルな商品名を出すなどして原作の世界を忠実に再現できるかもしれない、やるならテレビ東京じゃないかとアピールしました」
木村「漫画の広め方も特徴ですよね。キャンペーンで1巻1円、2巻は2円、という階段上がりの価格にして話題になってましたが、その狙いは?」
三田「今の読者は、作品を探す時にランキングを参考にするんですよ。1位からざっと見て、気になったら買う。だからまずはランキングを1~10位まで独占することを考えて、価格を一気に下げて、右肩上がりにしました。ランキングを埋めたら『何だこれ』って思いますし、『とりあえず1円だからいいか』と買うじゃないですか。それで、最新刊だけは定価にする。
大体読み始めると止まらなくなりますから、最新刊も読まないと気持ち悪いんですよね。最新刊を定価で買ってもらえれば利益を出せますから、1巻は1円でもいい。そういう電子書籍ならではの戦略です。ゴールデンウィークなどの長期休暇に合わせて行うと、漫画を読む時間があるので効果が出やすいですね」
挑戦し続ける人生こそおもしろい
木村「『インベスターZ』はビジネスパーソンに響く名言も多いですよね。おふたりの好きな名言を伺えますか?」
工藤「『自分は天才じゃない』と悩んでいる生徒に対して、おじいさんが『天才はやり続ける人。100人がアイデアを持っていても実行する人は1人。1万分の1が天才と呼ばれる人なんだよ』と言うんですが、その言葉がすごく響いて。会社では隣に『ゴットタン』を作った人物がいて、天才と呼ばれているんですけど。とにかく誰より『やる、そして続ける、そしてやる』これしかないんだとエールをもらった気がしました」
三田「キャプテンの引き継ぎシーンで、新しいキャプテンに対して『結局たかだか金なんだ』と言うんですが、この言葉が肝です。生徒は強制的に投資をやらされているだけで、もし投資に失敗してお金がゼロになっても全責任を負う必要はない。要するに、自分で全部背負い込むことはない、世の中ってそういうもんだって言いたかったんですよね。
人は責任という名のもとに重い十字架を背負いがちですが、果たしてそんな人生は幸せだろうかって思うんですよ。責任を被せられて生きる人生はひとつもおもしろくない。失敗してゼロになったってどうってことないんですよ。そういう気持ちでチャレンジすれば、おもしろい人生を築けるんじゃないかなと思うんです。『たかだか金なんだ』という言葉が、この漫画を総括している気がします」
木村「お金を中心に動いてきたストーリーの中で、急に『たかだか金なんだ』と言われるとドキッとします。最近は新しいお金として仮想通貨が広まりつつありますが、仮想通貨に対してはどう考えてらっしゃいますか」
三田「ポジティブに捉えていますね。そもそもお金の誕生については色々な説がありますが、おそらく約1000年前、物々交換していた時代に『物々交換って面倒くさくないか』って言い出した人がいるわけですよ。なにか別なものでやりとりできたら楽じゃないかって始めた人がいるんです。
そういう時代を今再び体験している。円以外のものにも価値が生まれ、経済が成り立っていく時代に立ち会っていると考えればいいと思うんですよね。お金のシステムも約1000年の改良を重ねて今のシステムに近づいたはず。仮想通貨も、ここから知恵を絞って改善し、使いやすくしていくわけです。
ただ、テクノロジーが進化したので、改善スピードは1000年よりもっと短くなる。色々と浮き沈みがあるのでリスキーなものと捉えられがちですが、絶対にひとつの価値として定着していくはずなんです。仮想通貨が定着したらもっと便利になるじゃないですか。だから、もっと便利な時代がくるんじゃないかなと思っています」
成功する企画の立て方とは
木村「工藤さんは企画のドラマ化を、三田さんは企画の漫画化を実現されていますが、企画を実現し、成功させる秘訣を教えていただけますか」
工藤「無関心をワクワク感に塗り替えることです。ドラマ化する時は、作品を知らない人の説得が課題でした。作品を知っていればおもしろいとわかっているのでいいんですが、作品を知らないと『ドラマで投資?難しいんじゃない』と言われてしまう。
そこで半分ハッタリで、すごそうな企画書を作りました。殴り込みみたいな強い企画書です。テレビ東京の予算だけでは製作費が足りないので、『これは面白い』と言ってくれる投資先を探して、製作費を集められることもアピールしましたね。それで無関心を覆しました。
さらに誰もが知っている有名人に出演交渉して豪華な出演者を揃えたのも大きなポイントです。堀江貴文さんや落合陽一さん、前田裕二さんなど、たくさんの社長に登場していただきました。社長の2018年鑑みたいな演出をしたいと思っていて、ストーリーのテーマに合わせて社長ご本人に登場していただき、リアルな世界観を作っています」
三田「漫画は必ず連載できるなんて保証はなく、評判が良くなきゃ打ち切りです。構想を練って先々までストーリーを考えても、書き切れるかどうかはわからないので、大体3話分のストーリーを考えてスタートします。続けられそうならやるし、だめならさっさと店じまい。
ある一定の変化が得られてから『さて、これをどうしようか』と考える、ある意味ルーズな進め方になるんですよね。ですので『こうやったらヒットするんじゃないか』といった小賢しい計算が先行するとうまくいかない気がします。
商売もそうじゃないですか。いきなりラーメンのチェーン店を50店舗作る人はいなくて、やりながら資金を回して拡大していくもの。最初から大きく組み立てたものはうまくいかないですよ。一話一話を丁寧に重ねていって、一定数の単行本が出てから仕掛けを考えていくのがいいんじゃないでしょうか」
数々のヒット作を生み出す三田氏は、既存のやり方にとらわれずに新しい挑戦をし続けるゲームチェンジャーだ。さらに、消費者の潜在的ニーズを分析し、キャッチ―な切り口で提案することで話題性を作り出し、多くの人の心を掴んでいる。
これから活躍したいビジネスパーソンは、こうした三田氏の考え方からはビジネスでのヒントが得られるはずではないだろうか。
文:萩原 かおり
写真:西村 克也