「幸福」とは相対的なものである。「お金」、「愛情」、「望んだどおりの生き方」など、何をもって「幸福」を定義するか、人や国、時代によっても大きく異なる。

企業の働き方改革を支援するクラウドサービス「Employee Tech」を提供する株式会社Emotion Techは、「お金と時間の使い方、人生の満足度調査」を実施した。

今回の調査は、インターネットによるアンケートを実施し、世帯年収400万円未満(828名)と世帯年収1,000万円以上(76名)の二つのグループに分け、幸福度の総合指標として広く用いられている指標である「Diener(ディーナー)による人生満足度尺度(SWLS)」や、幸福度の構成因子についてヒアリングし、Emotion Techが有する独自のデータ解析技術により感情を可視化した。

幸せになる秘訣は“人間関係”

SWLSとは、Satisfaction With Life Scale の略。以下の5つの質問に7件法(1 全くそう思わない、2 ほとんどそう思わない、3 あまりそう思わない、4 どちらともいえない、5 すこしそう思う、6 かなりそう思う、7 とてもそう思う)で答えてもらい、5つの数値を足すというものだ。

今回の人生満足度尺度SWLSの質問は以下のとおり。

  1. ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い
  2. 私の人生は、とてもすばらしい状態だ
  3. 私は自分の人生に満足している
  4. 私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた
  5. もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう

まず、Dienerによる人生満足度尺度(SWLS)を用いて、年収1,000万円以上と年収400万円未満を比較すると、全体の平均が17.4(35点満点)であるのに対して、1,000万円以上は平均21.2となり、400万円未満の平均15.9を大きく上回った。

また、SWLSの5つの質問を年収で比較すると、すべての項目で年収1,000万円以上が400万円未満を上回り、最も差が大きかった項目は「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」という結果になった。

やはり、今の時代では、幸福にはお金は欠かせないのだろうか。

ところが、上の図のように「あなたの人生の満足度に影響しているものは何ですか?」(複数回答可・選択肢:手取り給料、貯金額、労働時間、友人の数・友人関係、家族仲、休日の充実、運動頻度、その他) という質問に対する回答から掘り下げてみると、年収400万円未満かつ満足度が高い人にプラスの影響を及ぼしているのは、「家族仲」「休日の充実度」「友人の数や友人関係」「異性関係」であることがわかった。

一方で、年収1,000万円以上かつ満足度が低い人にマイナスの影響を及ぼしているのは「異性関係」が抜きん出ており、「手取り給料」「労働時間」と続いた。これらのことから、同社では年収が高くなくても幸せになる秘訣は“人間関係”であることが浮き彫りになったとしており、バブル時代にピークを迎えた「拝金主義」は崩壊したものと考えてもいいのかもしれない。

高年収層は手取り給料を「重要視」

前述の満足要因をさらに詳しく分析してみると、同じ年収層でも、満足度が高い人と低い人では、各満足要因の「重要視度」が異なることがわかるという。

たとえば「手取り給料」が人生にどう影響しているか、という質問に対して、年収400万円未満の人は、「人生に満足している人」「不満を感じている人」の影響度の差分が小さい(手取り給料による影響が小さい)一方、年収1,000万円以上の人はその差分が大きいことから、高年収層にとって、手取り給料が人生においてより「重要視」されていることがわかるとしている。

一方で、年収400万円未満の人にとって重要視されているのは「友人の数や友人の関係」であることがわかった。なお、重要視度が年収1,000万円以上と400万円未満で同じ水準であったのは「休日の充実度」だった。

年収が高い人ほどお金が重要で、少ない人は「友人の数」を重要視しているようだ。年収の多い人ほど、生活にお金が必要になってくるということだろうか。

収入が高い人ほど「楽観的」

幸福度を構成する要素として、慶應義塾大学の前野隆司教授は以下の「幸せの4因子」を提唱している。

  1. 「やってみよう!」〈自己実現と成長の因子〉
  2. 「ありがとう!」〈つながりと感謝の因子〉
  3. 「なんとかなる!」〈まえむきと楽観の因子〉
  4. 「あなたらしく!」〈独立とマイペースの因子〉

これらの4因子は以下の16の質問項目から成り立っており、この調査では、これらの回答を世帯年収別に比較した。

その結果、16項目ほぼ全てにおいて、1,000万円以上が400万円未満のスコアを上回っていたという。特に「私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた」「自分は人生で多くのことを達成してきた」の項目で、差が大きいことがわかった。

ただし、幸せの4因子別に比較すると、「あなたらしく!」因子のスコアは年収による差がほぼなく、「ありがとう!」因子も比較的差がないと言えるという。逆に「やってみよう!」因子と「なんとかなる」因子は年収1,000万円との差が大きく、楽観的に考えてチャレンジできる人が、結果的に高い年収を得ているということも考えられるとしている。

収入が高くなれば心の余裕も生まれ、さらに楽観的に考えられるという好循環も生まれるのかもしれない。

以下に幸せの4因子を構成する16の質問項目(回答は「そう思う」~「そう思わない」の7段階)を示す。

  1. 「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
  • コンピテンス(私は有能である)
  • 社会の要請(私は社・会の要請に応えている)
  • 個人的成長(私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた)
  • 自己実現(今の自分は「本当になりたかった自分」である)
  1. 「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
  • 人を喜ばせる(人の喜ぶ顔が見たい)
  • 愛情(私を大切に思ってくれる人たちがいる)
  • 感謝(私は、人生において感謝することがたくさんある)
  • 親切(私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っている)
  1. 「なんとかなる!」因子(まえむきと楽観の因子)
  • 楽観性(私はものごとが思い通りにいくと思う)
  • 気持ちの切り替え(私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない)
  • 積極的な他者関係(私は他者との近しい関係を維持することができる)
  • 自己受容(自分は人生で多くのことを達成してきた)
  1.  「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
  • 社会的比較のなさ(私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない)
  • 制約の知覚のなさ(私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない)
  • 自己概念の明確傾向(自分自身についての信念はあまり変化しない)
  • 最大効果の追求のなさ(テレビを見るときはあまり頻繁にチャンネルを切り替えない)

人生の基盤づくりにはやはりお金が必要か

最後に、「あなたの人生の満足度に影響しているものは何ですか?」という質問に対する自由回答をテキストマイニングしたところ、満足度が高い人に特徴的なキーワードは、「家族」や「健康」など、お金に直接関係のない単語であった。

しかし、一方で満足度の低い人に特徴的なキーワードは「お金」や「仕事」という結果になった。

やはり、生活の根底にはお金があるのだろうか。その基盤がしっかりしてこそ、家族や健康のことが考えられるのかもしれない。

「幸福」のカギを握るのは人

年収1,000万円、400万円両者とも回答結果はかなり複雑だ。両者とも、その質問により、お金に寄ったり、他のものに寄ったりしている。

しかし一つはっきりしているのは、年収が高くなくても幸せになる秘訣は“人間関係”であることがわかったことだ。やはり、人生の幸福のカギを握るのは人であるようだ。

img:PR TIMES