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UberやLyftによってライドシェアが一般に浸透し、ユーザーの移動の選択肢は増加してきた。他にもさまざまなサービスが生まれることで、自動車はすでに“持つ”から“共有”へとその形を変えつつある。
なかでも、2015年にサービスインしたCREWは、ライドシェアの中でもユニークな形態をとっている。
そのCREWを運営している株式会社Azitは、鹿児島県大島郡与論町のヨロン島観光協会と提携し、観光客ピーク時の公共交通機関不足が課題となっている与論島内で「互助モビリティプラットフォームサービス」を用いた、新たな移動手段を提供する実証実験を8月から開始する。
2018年9月以降を目処に本格始動することを目指す方針だ。
“乗りたい”と“乗せたい”をマッチングさせるCREW
CREWは CtoC ドライブマッチングサービスである。マイカーで街を走るドライバーに、好きな場所まで送ってもらうことができるという“乗りたい”と“乗せたい”を繋げるサービスだ。
利用フローとしては、スマホアプリによって出発点と到着点を設定し、ユーザーとドライバーとマッチングする。そして、移動後に評価とクレジット決済を行うというもの。
その最大の特徴は2種免許を保有していない一般人がドライバーとなることだ。ただし、このサービスの公認ドライバーは「厳正なドライバー審査基準」を満たしたドライバーに限られている。
そして、
- 任意保険/車検証/免許証/自賠責、全て有効期限確認の上で応対
- 過去総移動距離3,000km以上
- 免許取得から1年以上経過していること
- 過去に大きな事故や刑罰などを受けていないこと
- 対人賠償無制限/対物賠償3,000万円以上であること
という基準があり、さらに、服装/頭髪等の乱れやコミュニケーションがとれない、といったNG項目も設けてある。
CREW上で、ユーザーがドライバーに支払う必要が生じるのは「ガソリン代」や「高速道路料金」といった実費であるため、無償運送の範囲内とされ、社会通念上、道路運送法第78条で規定される登録、または許可を要しないとされている。
支払いは全てクレジットカード決済となっており、決済料金の内訳は以下の通り。
- ガソリン代・高速道路料金といった「ドライバーの実費分」
- サービス利用に伴う「マッチング手数料及び安心安全保証料」
マッチング手数料は20円/1ドライブ、安心安全保障料20円/分(ドライブ中のデータ通信及び移動のモニタリング、カスタマーサポート等)となっており、これは運営元であるAzit社へ支払われる手数料だ。
またCREWでは実費分とは別に、「謝礼」ができるようなサービス設計を行っている。ただしこの支払いの有無、及び金額ともに任意なのも特徴の1つといえるだろう。
運送行為を行わないプラットフォームの金銭の受け取りに関しても、道路運送法の区分における旅客自動車運送事業には該当しないものとされている。
住民がドライバーとして稼動。観光客を中心にサービスを提供
現在までに与論島は、鹿児島県大島郡与論町の観光産業振興策によって、観光客が増加しているという。その数は昨年で73,204名となっており、平成26年の55,464名から年々増加している状況だ。しかしながら、公共交通機関はバス1路線、タクシー8台という状況にあるため、公共交通機関だけでは来島観光客の移動需要を満たすことが難しいのが現状だ。
島内でも、観光客の送迎の足を確保できないケースも多く、特に百合ヶ浜への送迎は ピーク時になると需要超過となり、十分な“おもてなし”が提供できないという声もあるほどだ。
加えて昨今、「SUP(スタンド アップ パドルボード)をしながら朝日をみよう」といった観光企画も準備しており、その眺望を沢山の観光客に届けたい一方で、送迎の手段が欠けているような課題も顕在化しているという。
このように、今後より一層、来島観光客数の増加を目指す与論島では、「新しい形態での移動インフラの整備」を必要としていた。そこで、住民が自ら島の送迎の足をつくり、観光客の満足度を向上させていく施策として、互助モビリティプラットフォームを提供するAzit社と共同で今回の実証を行うこととした。
実証実験では、数名から10名程度の住民がドライバーとして稼動し、「互助の精神」に基づく移動を観光客を中心に提供する予定だ。
また実証実験では、サービスの利用回数やユーザーの意見等を参考にしながら、新たな移動インフラとしての提供可能性を評価したのち、本格稼働への切り替えを検討していく方針だという。
Azit社では、他の地域、自治体様に対しても、今回の与論島における実証実験の取組をモデルとして
、サービスの提供を図っていく。
実施概要
- 日程:2018年8月より
- 場所:鹿児島県大島郡与論町
- 概要:自家用車を持つ与論町の住民がドライブマッチングアプリ「CREW」のドライバーとして登録し、公共交通機関で賄うことができていない観光客に対して送迎手段を補完する目的で運送を行う
※特に観光需要が高まるエリア、時間帯にフォーカスした運営を検討中。
米国ではライドシェア×「無料送迎」サービスがスタート
今回のように、交通インフラがない、弱い部分に向けてライドシェアを活用するというサービスは他にもある。たとえば、米国のライドシェアサービスの「Lyft(リフト)」と、全米の保険会社を代表する「BCBS(ブルークロス・ブルーシールド)協会」が2017年6月に提携し、医療機関への「無料送迎」サービスを開始する計画がある。
BCBSは、特定の民間医療保険の加入者のうち、医療機関が徒歩や自転車などの移動圏内ではなく、公共交通機関からもアクセスが難しいなど、医療機関に足を運ぶことが難しい人々に対して、サービスを提供することで、コスト削減と治療状況の改善につなげられると考えているという。
BCBSによれば、米国には交通インフラにハードルがあり、推定360万人が医療の予約ができていないか、遅れている状況にあるという。このため、予約から通院までをサポートすることができるようになれば、コミュニティ内の多くの人々が適切なタイミングで診察を受けることが可能になるのだ。
この課題について、ライドシェアのサービスを使って交通のハードルをなくすことで、予約の無断キャンセルを減らしたいとBCBSは考えているようだ。飲食店と同様に、医療現場でも予約の無断キャンセルは問題となっているからだ。
Lyftは同提携に合わせて、サードパーティー用ウェブアプリ「Concierge(コンシェルジュ)」の提供を開始しており、パートナー会社はConcierge経由でスマートフォンを持っていない人の代わりにLyftをオンラインで手配することが可能となっている。
Forbesによれば、BCBSとの提携における試験プログラムでもLyftは、Conciergeを利用する予定だという。
ライドシェアリングが創る新たな交通インフラ
今回と同様に送迎サービスで地方を活性化しようという実証実験は、すでに、京丹後市がUberで、養父市がタクシー会社のシステム+LINEビデオ通話システムを活用し、行っている。
しかし、この先行二例はドライバーは二種免許保持者で、料金はタクシーの半額および6、7割というもののため、今回のCREWによる実証実験の方が導入ハードルは低いのかもしれない。
CREWの目指す“互助の精神”をベースとしたモビリティサービスは、日本ならではの「モビリティの未来」を創り出す可能性もある。
その活動が交通格差をなくし、交通インフラとしての拡充を実現することで、今回のような観光交通需要やラストワンマイルなどの交通課題を解決するソリューションとなれれば、来たる2020年のオリンピック・パラリンピック時にも活躍してくれるかもしれない。
img: CREW