電子マネーやクレジットカードの普及により、支払い方法が大きく変わり始めている。支払いの簡易化や人件費削減など、キャッシュレスがもたらす恩恵は大きく、財布を持たない時代もそう遠くはないのかもしれない。世界では現金には対応しない店舗が登場する中、日本国内でも広がる可能性も予想される。

このような中、LINE株式会社の子会社にてコミュニケーションアプリ「LINE(ライン)」上でモバイル送金・決済サービスLINE Payを運営するLINE Pay株式会社、同じく福岡を拠点とする子会社のLINE Fukuoka株式会社は、福岡市が実証実験をサポートする「福岡市実証実験フルサポート事業」の「キャッシュレス」に関する実証実験プロジェクトに採択されたと発表した。

これは、福岡市主催のAIやIoTなどの先端技術を活用した社会的課題の解決などにつながる実証実験プロジェクトを全国から募集したものだ。

キャッシュレス化が遅れる日本

経済産業省が発表した「キャッシュレスの現状と推進」によると、2016年の日本のキャッシュレス決済額と民間消費支出に占める比率は20%で、2008年の11.9%から約2倍になっている。

また、安倍政権では、「日本再興戦略」をはじめ、様々な場でキャッシュレス推進の方針を打ち出してきた。たとえば、2020年のオリンピック・パラリンピック等を踏まえたキャッシュレス化にむけた対応策の検討、策定された「キャッシュレス化に向けた方策」の推進、キャッシュレス化の推進や消費データの共有・利活用、といったことだ。

しかし、海外諸国と比較すると日本のキャッシュレス決済比率は、現状ではその割合はまだ低く、今後さらなる拡大が期待されている。

野村総合研究所の「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」によると、2016年のキャッシュレス決済比率は、韓国96.4%、英国68.7%、オーストラリア59.1%、シンガポール58.8%と諸外国は軒並み高い比率になっているが、日本は19.8%でしかないのが現状だ。

この背景には、日本人の現金決済に対する信頼感や安心感がいまだに強いことがあげられる。

一方、諸外国の中で注目されるのは中国だ。中国は人口が多いため、キャッシュレス比率では、韓国や英国に劣るが、2008年の北京五輪を契機とした銀嶺カードの普及促進策などで、急速にキャッシュレス化が進んでいる。

福岡市で「LINE Pay」によるキャッシュレスの実証実験

このような日本の状況を打破すべく、前述したように国や自治体がキャッシュレス化を進めているが、福岡市もその一つだ。福岡市は、『キャッシュレスFUKUOKA』を合言葉として、市と民間企業が一体となってキャッシュレスの推進に取り組んでいる。

そして、キャッシュレスの取り組みを誘引・活発化させ、多くの市民や観光客に体験してもらうことで、キャッシュレス化促進と民間企業の取り組みの加速を図るプロジェクトを推進している。

今回、LINE株式会社、LINE Pay株式会社およびLINE Fukuoka株式会社は、「福岡市実証実験フルサポート事業」の「キャッシュレス」に関する実証実験プロジェクトの「福岡市施設」「民間施設」の双方で採択された。今後、福岡市とともにグループ各社で連携しながら市のキャッシュレス化を推進する活動を行っていく方針だ。

まず、2018年6月中には、動植物園、美術館、博物館、自転車駐車場などの市施設と、市内各所の屋台、タクシー、商店街などの民間施設で「LINE Pay」を導入し、キャッシュレス・ウォレットレスの実証実験を行う。

実証実験では、「LINE Pay」に加え、市が開設している福岡市LINE公式アカウント(LINE ID:@fukuokacity )とも連動させるなど、LINEのサービスを複合的に利用することも視野に入れているという。

これにより、市民の生活がより便利・快適なものになることを目指すとともに、市内の99%を占める中小企業の生産性向上や、商業都市・観光都市としての魅力向上を目指すという。

全世界での累計流通総額は3,000億円の「LINE Pay」

今回、実験に活用される「LINE Pay」は、LINEを使った決済サービスだ。その使い方は簡単で、LINE内でパスワードを設定すると、LINE Payに登録することができる。銀行口座、コンビニ、Pay-easy(ペイジー)などから、チャージが可能。チャージすることで、加盟店でのLINE Pay決済・コード決済が可能になる。また、LINE Pay間での個人間送金・送金依頼・割り勘といった機能も充実している。

また、グローバルでの利用も拡大している。LINE株式会社が、2017年11月17日発表したところによると、LINE Pay株式会社は、“スマホのおサイフサービス”「LINE Pay」における、2017年10月末の時点で月間取引件数1,000万件を達成したという。

2017年に入ってから11月までの時点で、全世界での月間流通総額は550億円、累計流通総額は3,000億円に及ぶという。

「LINE Pay」は、2014年12月に日本でサービス開始して以降、グローバルにもサービスを拡大し、2017年11月に、全世界4,000万登録ユーザーを突破した。とくに成長が目立つのは日本、台湾、タイの3国だ。

日本国内では、「LINE Pay」は3,000万人以上のユーザーが登録し、現在、ゆうちょ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行を含む48行の銀行と連携している。

キャッシュレスなくしては非常に不便な時代に

「LINE Pay」の使い方は非常に簡単だ。つまり、スマホさえあれば、現金なしで、どこでもチャージできるのだ。今回の福岡市での実証事件が成功すれば、実験は他の自治体にも広がるだろう。

そこで、われわれ日本人の金銭感覚がどう変わるかは気になるところだ。世の中の買い物はすでにECが中心になっている。もはや、キャッシュレスというシステムなくしては、非常に不便になってしまう時代になってきているのだ。今回の実証が、もう一段階上のキャッシュレス社会に現状をアップデートしてくれるものになることを期待したい。

img:LINE