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ごみを分別して出すと、地域内で使える電子マネーがもらえる――
そんなシステムがオランダのアムステルダム・ノールド(北)地区で実践されている。これにより住民のごみ分別が促進され、リサイクルが容易になるとともに、「ごみは価値のあるもの」との認識が広がっている。
モノ消費→ごみ→お金と循環するオランダのサーキュラー・エコノミーの現状をリポートする。
アムステルダム市の「WASTED」プロジェクトは、ごみ分別で住民に「報酬」を与えるシステムを導入(写真:WASTED)
ごみ分別で電子コイン、提携ショップ70店で利用可能
新たに開発が進むアムステルダムのノールド(北)地区。ここは旧造船所がクリエイターたちのアトリエに生まれ変わり、新たなカフェやホテルもできて活気づいている。この新興地帯にふさわしく、リサイクル経済を循環させようとする新しいプロジェクト「WASTED」が立ち上げられた。
アムステルダム市が協賛する「CITIES Foundation」が主催するプロジェクトで、住民によるごみの分別を促進するのが狙い。紙、プラスチック、布、ガラスと、ごみを分別して出せば、「報酬」が得られるシステムを導入している。
「WASTED」プロジェクトに提携するショップの例(WASTEDのホームページ)
住民はまず、「WASTED」のウェブサイトでメンバー登録。すると、WASTEDから専用ごみ袋12枚、ポスター、ごみ分別のための手引きが送られてくる。
そのノウハウに沿ってごみ袋をいっぱいにしたら、最寄りの指定ごみ箱にごみ袋を捨てる。その際、ごみ箱にあるQRコードをスマートフォンでスキャンし、いっぱいになったごみ袋の写真を専用アプリケーションにアップロードしてWASTEDに送ると、電子コインがアカウントに加えられる――という仕組みになっている。
「報酬」はいっぱいにしたごみ袋1つ当たり1コイン。ゴミ袋を満たすには、プラスチックだと約800グラム。紙は約1.3キログラム、布だと約4.5キログラムが必要となる。アカウントに加えられた電子コインは、アムステルダム市内の提携カフェやショップで使える。
2018年5月現在で提携ショップは約70店。無料コーヒーや商品のディスカウント、ヨガやスケートボード・レッスンのディスカウント、ビール2杯目無料、エコバッグプレゼント――
などが楽しめる。
同プロジェクトは現在、アムステルダム・ノールド地区だけで展開されているが、ゆくゆくはアムステルダム市全体、そしてオランダ国内に拡大していきたい考えだとという。
粗大ごみのリサイクルも促進
非営利団体により運営されている「リペアカフェ」では、ボランティアが家電などを修理をしてくれる(リペアカフェのYouTube動画より)
2018年からは粗大ごみの修理・再利用にもこの「WASTED」のシステムが適用されている。アムステルダム市の「スタートアップ・イン・レジデンス・プログラム2018」で、粗大ごみの回収・リサイクルを促すイノベーティブな解決策として採用された。
住民調査の結果、「粗大ごみをどこに持って行けばいいか分からない」と答えた住民が多かったことを受け、WASTEDではまず、修理拠点・リサイクルショップ・ごみ処理場の場所を示した地図を作製した。
家具や家電、オモチャなど修理して自宅で使えるものは、まず地域の「リペアカフェ」でボランティアに修理してもらう。
「リペアカフェ」は2007年にオランダ人女性マルティーネ・ポストマ氏により考案されたコンセプトで、現在は非営利団体として組織されている。団体が設定した一定のルールに基づいて、1カ月に1~2回の割合で地域の主催者が開催しており、オランダ各地のほかベルギーやアメリカなど国外にもこの動きが広がっている。
引退したエンジニアなど、ボランティアの技術を有効活用し、モノを大切に長く使っていこうというエコロジーの観点に立った取り組みであるほか、地域の楽しいコミュニティ作りにも貢献している。
一方、自宅で使わないものは「リサイクルショップ」に持ち込み、必要な人に再利用してもらう。また、修理・再利用できないものについてはごみ処理場に出し、20種類以上の廃棄物流に分けてリサイクルする。
プラスチックや紙のごみなどと同様、住民はごみを持ち込んだ場所でQRコードをスキャンし、持ち込んだモノの写真をアプリで送信すると、電子コインがもらえるという仕組みだ。粗大ごみの大きさや処理の仕方により、コインの数が決まっている(下図参照)。このプロジェクトは2018年末まで実施され、その効果が評価される見通しだ。
ごみの大きさとリサイクル処理により、もらえる電子コインの数が決まる(WASTEDのホームページ)
ごみを「商売道具」に
「ごみを分別して持って行くと、お金になる」という同様の視点で、オランダ北西部ノールドワイクのリサイクル業者「アフファル・ローント」は消費者から直接ごみを買い取るシステムを導入している。「ごみには価値がある」――創業者ユルゲン・ファンライン氏は、ごみは新しいモノを作り出す原材料となるとみて、早くからその価値に気づき、商売の糧としてきた。
ここでは紙、布、プラスチックなど分別されたごみをキログラム当たりで買い取り、これにマージンをつけてさらに別のリサイクル業者に売却する事業を行っている。また、市役所はごみの分別や焼却をしなくて済んだ代わりに、その分の浮いた費用をアフファル・ローントに支払っているという。同社の業績は好調で、2017年は損益分岐点。2018年には黒字化を見込んでいる。
ディルク・ファンデルコーイ氏のデザインした「Chubby Chair」は、廃棄されたプラスチックを3Dプリンターで加工して作られている(Dirk van der Kooij氏のホームページより)
一方、デザイナーのディルク・ファンデルコーイ氏は、廃棄された冷蔵庫をリサイクルして、新しいデザイン家具を生み出している。冷蔵庫の内装をプラスチック片にし、3Dプリンターを使ってイスや棚、ランプなど、おしゃれなデザイン家具を制作・販売している。
彼の工房で処理される冷蔵庫は1日に2,000台に上る。デザイン家具の付加価値は高く、イス「Chubby Chair」が1台435ユーロ(約5万7,000円)、スピーカーは1対で6,500ユーロ(85万円)。ごみが高付加価値の製品に生まれ変わる好例だ。
国家統計局によると、オランダで排出される年間のゴミの量は600億トン。このうち家庭から廃棄されるごみは84億トンに上り、1人当たりにすると年間500キログラム。ゴミ処理に支払う家庭の年間支出は、上位3地域でいずれも390ユーロ(約5万1,000円)以上に上っている。
モノを消費し、捨てて、新しいモノを消費して……という経済サイクルでは、新しいモノを作るための資源やエネルギーが必要となるほか、ごみ処理に多大な税金やエネルギーが費やされ、無駄が多い。
一方で、こうした無駄に気づき始めた人たちが、無駄を利益に転換するシステムを作り始めている。モノ→ごみ→モノ(お金)……のサーキュラーエコノミーは現在、まだ小規模な範囲にとどまっているが、資源に限りがある中で人々が持続可能な生活を模索し始めた今、その成長潜在性は大きい。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)
img: WASTED , YouTube , ディルク・ファンデルコーイ氏HP