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多彩なシェアリングサービスの増加が近年めざましい。
モノやサービスを所有者だけが利用できるという状態は無駄が多く、シェアリングサービスによって様々なリソースを共有することで、必要なときに必要な分だけ利用できる状態を作り出す。
住居スペースを所有していれば、「Airbnb」を通じて宿泊場所として共有できる。車の移動を望む際には「Uber」を介してライドシェアが可能だ。シェアリングサービスの考え方が広がり、現在ではスマホ充電器のシェア、労働力のシェアなど、日常の中にあるニーズを細やかにすくい取ろうとしている。
「急に雨が降り出したときの傘」も、必要なときに必要なだけ利用したいモノのひとつではないだろうか。地域社会貢献活動として、自動販売機を活用し、傘のシェアリングを広げようというチャレンジを行う企業がある。
自販機での無料貸し傘「レンタルアンブレラ」の展開エリアを拡大
2018年5月29日、ダイドードリンコ株式会社は、“自販機での無料貸し傘”の展開エリア拡大を発表した。
ダイドードリンコは、2015年10月から、急な雨などの際に傘を無償で貸し出す「レンタルアンブレラ」の活動を開始している。自動販売機にレンタルアンブレラBOXを取り付け、急な雨などの際にBOX内の傘を無償で貸し出し、後日BOX内に返却してもらう、というものだ。
社内のチャレンジ企画として社員から提案され、同社が設立した「地域コミュニティ貢献積立金」を活用して実施している。
2015年に大阪市内限定でスタートし、2016年には関西エリア、2017年には関東エリアおよび、愛知県、北海道函館市と展開エリアが拡大した。4年目を迎える2018年は、新たに福岡県・山梨県・長野県・新潟県を加えた計16都道府県へ展開する。「レンタルアンブレラ」を設置する自販機も、380台から、500台へと増やす。
レンタルアンブレラのシステムはシンプルなもので、返却を確実にするようなテクノロジーは使われていない。返却率が低ければ、シェアリングサービスとして継続不能になるが、ダイドードリンコでは、レンタルアンブレラの返却率の検証も行っている。
シェアした傘の行方は?返却率検証の結果
ダイドードリンコは、レンタルアンブレラを関西エリアに拡大した2016年、展開する130台の自販機について活用状況を検証した。その結果、レンタルアンブレラの返却率は約70%であることが判明した。
予想より高いと感じるかもしれない。だが、返却率の高さには秘密がある。それは、レンタルアンブレラの設置場所を再び訪れる人が多い場所に設置するようにしているという工夫だ。
例えば、観光客が多い繁華街に設置すると、返却率は低くなる。レンタルアンブレラを利用しても、再び同じ場所を訪れる機会が少ないからだ。逆に、オフィス街などに設置すれば、返却率は高くなる。同じ人がほぼ毎日訪れるため、借りた人も傘を返しやすいということだ。
今回のエリア拡大も、この返却率の高さから事業の継続性を確認できたことによる。
また、ダイドードリンコのレンタルアンブレラでは、貸出用の傘の一部に「忘れもの傘」のリサイクル品を活用している。各鉄道会社の駅や電車での「忘れもの傘」の中から傘を選定し、ステッカー貼り付けなどの加工を施すことで、リサイクル傘を製作。各鉄道会社の路線エリアの貸出用傘として活用する。
資源の有効活用・環境負荷低減は、シェアリングエコノミーに欠かせない視点といえるだろう。
シェアリングエコノミーの考え方が広がるに連れ、ユニークなアイディアが次々に登場している。
ユニークなアイディアで増え続けるシェアリングサービス
株式会社CiaoTechnoligiesの「Seatify(シーティファイ)」は、カフェやオフィスの席をシェアするサービスだ。2018年3月からアメリカで先行リリースされ、2018年5月22日から東京都23区内を対象に事前登録受付を開始している。
フリーランスやリモートワーカーは、カフェやオフィスでデスクワークを行うことがある。満席により仕事場を確保できないということも多い。そこで、すでにその施設で席を確保している人(ホスト)に、隣や向かいの座席を相席として提供してもらおうというサービスだ。アプリを利用し、複数人で使えるが、1人で占領してしまっているテーブルを有効活用する。
席をシェアすることにより、スマホのバッテリーや、文房具といったアイテムなどカバンの中身もシェアできる。相席する人がいれば、一時的に席を離れるときも安心だ。相席をしたホストとビジネスやプライベートでの繋がりが増える。サービスでは、そういったシェアリングエコノミー体験も提供できると考えている。
また、ユニークなアイディアを形にするためのサービスも存在する。
株式会社mofmofは、2018年4月1日から「いきなりシェアリングエコノミー」をリリースしている。これは、「シェアリングエコノミースターターパッケージ」と「いきなりMVP」から構成される。
シェアリングエコノミースターターパッケージは、新規事業担当者やスタートアップ経営者が、立ち上げたいシェアリングエコノミーサービスを小予算で立ち上げるための土台プログラムだ。メッセージ機能・決済機能対応・Google mapで案件表示・予約機能など、シェアリングエコノミーサービスをリリースするうえで、必須な基本機能をあらかじめ実装している。
いきなりMVPでは、通常数ヶ月の開発期間を要するwebサービスを3日間で開発するため、早期にサービスリリースからMVP検証へ移行可能だ。MVPとは、実用最小限の製品(minimum viable product)のことだ。顧客に価値を提供できる最小限のプロダクトを利用し、ビジネスの検証を行い、フィードバックを製品の改良に役立て、リーンスタートアップ(Lean Startup)を実現する。
シェアリングサービスで便利さと資源の有効活用を同時に実現
シェアリングサービスの登場には、様々な工夫や、新たなニーズの発見があるようだ。ダイドードリンコのレンタルアンブレラでは、返却率を高める工夫がなされ、Seatifyでは、カフェの相席がニーズとして発見されている。
リソースについての考え方を、所有から共有へと移行するシェアリングサービスでは、必要な時に必要なだけ使える便利さと、資源の有効活用を同時に実現する。
周囲を注意深く見渡せば、シェアリングエコノミーの考え方が適用できる領域は、まだ多分に残されているのかもしれない。