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世界中で「フェイクフード(Fake Food)」が浸透しつつある。偽物の食べ物とは、一体どういうものなのだろうか。
本記事で扱う「フェイクフード」とは、いわゆる遺伝子組換え食品のことではなく、“特定の食品を他の食品を活用して模したもの”と定義する。たとえば、豆腐ハンバーグや野菜ケーキがフェイクフードに分類される。
1990年中盤以降に生まれたジェネレーションZを中心に、フェイクフード市場は当たり前の存在になっている。
こちらのデータによれば、1980年-1990年初頭に生まれたミレニアルズに比べ、ジェネレーションZの方が豆腐を57%、乳質を含まないミルクを55%多く消費する。また、植物由来食品市場の成長率は年間8.4%に及び、2020年までに同市場の売り上げが52億ドルに至ると試算されている。
食品の製造方法が多様化したことによるベジタリアンに生じた変化
なぜジェネレーションZは、「フェイクフード」を好むようになったのだろうか?
1つの考えとして、ベジタリアン志向が薄れてきている点が挙げられる。食品の製造方法が多様化している現代において、肉料理の代替品として登場してきた食品すら口にしないという考えが受け入れづらくなっているのだ。
ベジタリアン人口は世界で3.75億人に及ぶと推定されている。しかしベジタリアンで居続ける行動心理は、この記事の中では、決して健康維持のためではなく、群集心理に囚われているためとも指摘される。
こちらのデータによれば、60%のベジタリアンが、菜食生活を続ける理由として、「同じ食生活を送る人たちに嫌われたくないから」と答え、58%が「菜食生活が自分自身のアイデンティティではない」と答えている。また、50%が「完璧な菜食生活を送るのは困難である」と感じている。
北米の17歳以上の人々1.1万人を対象にした調査データによると、5人に1人がベジタリアン生活を続けることができ、残りの4人(84%)が肉食生活に結局戻ったと報告されている。
フェイクフード市場を後押しする「フレキシタリアン」の台頭
そこで登場したのが、「フレキシタリアン」の存在だ。「フレキシタリアン」の定義は、菜食主義を中心としながらも、肉や魚料理を、控えめな量ながらも両立して食べる人を指す。中道的考えに基づいた「準菜食主義」ともいえるだろう。2016年、イギリスでは「フレキシタリアン」人口が10%成長したと指摘されている。
ベジタリアン、なかでもビーガンは肉料理には一切の関心を示さない。一方、「フレキシタリアン」は肉料理に対して一切を閉ざすのではなく、心を開き、許容範囲を広げる。その名の通り、食生活に対する柔軟な姿勢を持ち、新たな食品の登場にも寛容なのだ。
こうした「フレキシタリアン」市場の追い風と、食料・環境問題への取り組みが評価され、人工食スタートアップが台頭しつつある。
2017年5月までに、植物由来の人工食を製造するスタートアップの資金調達額上位15社の合計は14.9億ドルに至った。スタートアップにとって、100万ドル超の資金調達でも評価されるが、同15社の平均調達額は1億ドルに及ぶ計算になる。
この15社の中には、ビル・ゲイツも投資した、ハンバーガー用の人工牛肉を製造する企業「Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)」が含まれる。同社は、米国シリコンバレーにオフィス・ラボ・製造工場を持つ。
今回は人工肉スタートアップの雄である「Impossible Foods」の現地取材を通じて、同社の食品製造過程から課題解決意識までをレポートしたい。
2050年問題とは?90億人の食肉需要解決を目指す 「Impossible Foods」
「Impossible Foods」は、ハンバーガー用の人工肉「Impossible Burger(インポッシブル・バーガー)」を、全米500店舗を超えるレストランに卸す製造業者だ。
2016年時点ではカリフォルニア州とニューヨークの5店舗のみで限定展開をしていたが、2017年の春に製造工場第2号を建設し、量産体制へと入ったことから、100倍の提携店舗数拡大を図った。近々、全米1,000店舗への展開を目指している。
取材で筆者が試食させてもらったところ、既存の大手ハンバーガー・チェーンの味はとうに超えていると感じた。日本の表参道や渋谷にある、お洒落な洋食屋さんのハンバーガーと同レベルといったところだろう。
値段は11-12ドルと多少高めではあるが、大量生産が進めば低価格化も進むと予想される。ちなみに、アメリカのマクドナルドでハンバーガーセットを頼むと7-8ドルは最低でもかかる点を考慮すると、北米展開する上で、値段はあまり障壁にならないと感じた。