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「所有からシェアへ」——。
ミレニアル世代の価値観を代表するこのワードを、聞き飽きた人も少なくないだろう。それでも「シェア」は、ミレニアルズにとって馴染み深く、時代を反映するキーコンセプトだ。
シェアが包括する領域は多岐にわたるが、その最たる例として“住まい”が挙げられるだろう。住まい方における変容は、住宅を提供する側にとって向き合わざるを得ないテーマだ。自社でシェアオフィスやシェアハウスなどの運営に携わる事業者も少なくない。
だが、ミレニアル世代にとってつながりはオンラインが主体だ。あえて「空間」というオフラインでの関係性を深く考える機会はあまりない。世代の価値観が移ろいゆく中で、マンションのような集合住宅はどのような価値を持つのだろうか。
そのなかで、あえてマンションコミュニティへと挑む「U26」世代の価値観を探った。
26歳以下がマンションコミュニティ作りを通し社会課題へ挑む「Neighbors Next U26 Project」
ディベロッパー大手の三井不動産レジデンシャルでは、若い世代を理解しつつも、自社の次なる事業へ繋げるユニークなCSV活動を行っている。26歳以下の世代がマンションにおいて、さまざまな社会課題を解決するソリューションとなりうるコミュニティをつくりだすことを目的とした活動「Neighbors Next U26 Project」(以下「U26」)だ。
U26は、選考を経た26歳以下のメンバーが、実際に三井不動産レジデンシャルグループが管理するマンションに向け、コミュニティを生み出すアイデアを企画・実行していくプログラムだ。プログラム期間は1年。参加条件は26歳以下という縛りのみで、マンションや建築、コミュニティに関する仕事に携わる人から、一般企業に勤める人、大学生まで幅広い。
プログラム開始当初はコミュニティに対して素人のメンバーだが、業界のプロフェッショナルのレクチャーやケーススタディなどを通し、コミュニティへの理解を深める。並行してアイデアソンやグループワーク等々を経て、実際のマンションに対しどのようなアクションを行うかを考え、アイデアから企画へと落とし込んでいく。
本プログラムが始まったきっかけには、マンションの購買傾向の変化にある。一昔前までは住まいを買い換えることが珍しくなく、時代によっては、買い換えは当たり前に行われていた。しかし、永住思考の高まりによって、現在マンションを終の棲家と考える顧客が増えつつあるようだ。三井不動産レジデンシャルの渡辺洋平氏はこの変化に合わせ、「マンションコミュニティの必要性が見えてきた」と語る。
渡辺「お客様の住まい方・暮らし方の変化に合わせ、我々のビジネスもより良い住まいの提供はもちろん、より良い暮らしの提供を重視するようになってきてます。弊社は“経年優化”の実現に向けて、長く愛着を持って住み続けていただける住まいづくりを目指しておりますが、その1つの手段が、管理会社とともに、ご入居後、お住まいになっているお客様同士のコミュニティ形成をお手伝いすることでした。
一般的に若い世代は特に、マンション内でのご近所付き合いやコミュニティに関わる機会が少ないと言われています。そこであらためて若い世代に、マンションにおけるご近所付き合いやコミュニティについて考える機会を提供したいという意味合いもこのプロジェクトにはありました」
若い世代がコミュニティづくりに挑むにあたり、プログラムを組み立て・企画統括を行ったのがコミュニティづくりの中でも地縁にもとづくコミュニティづくり「ネイバーフッドデザイン」を手がけるHITOTOWA INC.だ。同社代表取締役の荒昌史氏は、自身が手がける事業の経験からも若い世代がコミュニティにおいて役割を担う必要性を感じていた。
荒「無縁社会が迫り社会保障が減少するといわれる中、地域が担う役割はとても大きくなっています。にもかかわらず、自治会など現在の地域コミュニティに若い世代がいない。当事者である世代はすでに孤立してしまっているんです。
彼らの十数年後を考えたときに、地域がいかに元気でいるかは非常に重要になってくる。私はU26を通し、地縁コミュニティを盛り上げたり作り出す考え方やスキルを学ぶことで、彼らが方々で地縁コミュニティを活性化する存在になってくれることを期待しています」
原体験にあるコミュニティの衰退。U26メンバーそれぞれがもつ課題感
U26は今年で4年目。例年「26歳以下」だけを条件とし募集をかけ、選考を経てメンバーが決定される。参加者はコミュニティや不動産、建築などの仕事に携わる社会人もいれば、まったく他分野の大学生まで幅広い。それぞれどのような思いでU26へ参加しているのか。今年度参加している三名へ話を聞いた。
一人目は、明治大学大学院に在籍する向山直登氏。向山氏は建築系の学科を経て、現在はコミュニティなど建築を立てる以外の手段で良い暮らしを作る方法を学んでいるという。
向山「僕は大学に入るときに、ざっくりと良い暮らしを作りたいという思いがありました。そこから学部では建築という建物を建てることを手段として良い暮らしを考え、現在は院で建物を建てない手段で良い暮らしを実現する方法を学んでいます。U26は同じ研究室に参加者がいて、そこから興味を持ち応募しました」
二人目は、NPOを支援する民間団体「NPOサポートセンター」で働く佐藤祥子氏。NPO・企業・公共団体をつなげる“中間支援”を行っている経験がU26の応募へと繋がった。
佐藤「私がU26へ応募したのは大きく3つ理由があります。1つ目は、防災や地域などHITOTOWAの活動に以前から関心を持っていたこと。2つ目は、仕事上で地域と若い人のつながりが希薄化していることを肌で感じていたこと。3つ目は、仕事上でもつながりを生み出すという近しい経験をしているので、このスキルを社外で試してみたいと思ったことです」
三人目は早稲田大学国際教養学部に在籍する桐葉恵氏。桐葉氏は発展途上国がどのように発展していくかという国際開発を学んでいる。その中では、援助が提供する価値に対し懐疑的な意見が多いという。援助を効果的にする手段として桐葉氏は“街”に着目した。
桐葉「私が留学していたロンドンは街単位でいる人やカルチャーが異なっていたのですが、それはつまり街レベルであれば、それくらいインパクトのある変化を起こすことができるということ。これは途上国支援の面ででも、“街単位で変化を与えること”で意味を持たせられるのではないか。そう考えだしてから街へ興味を持ち、そこから街を変える手段としてU26の応募へ繋がりました」
道筋こそ異なるものの、それぞれ自分が深めてきた領域の延長線上に、U26が扱うテーマがあり応募へ繋がっていた。興味深いことは、三名ともそれぞれがマンションや団地などでコミュニティがある程度ある暮らしを経験していたことだ。小さい頃はコミュニティがあったが、時代とともにそれが衰退していく姿を目の当たりにしていたという。
世代的にも、ちょうど核家族化が進んだタイミングで幼少期を過ごし、地域のつながりが希薄化していく中で育ってきたといってもよいだろう。直接的な理由ではないものの、原体験としてコミュニティの弱まりを肌で感じていることは、少なからずU26の活動に対するモチベーションになっているようだ。
“シェアカルチャーを享受する”U26世代の、住まい方に対する価値観の変化
参加する世代にとって暮らし方はどのように変化しているのか。上の世代と比較したときに自分たちの暮らし方や住まいはどのように違うと思うかという問いに、それぞれ以下のように語ってくれた。
向山「物質的よりは精神的、本質的な幸せを目指す傾向が強いと思いますね。上の世代と違って今の人たちは、大きく経済成長する時代に育ったわけではないので、頑張れば成長するというマインドが弱い。加えて格差社会なので、誰かが上がると誰かが落ちる。すると、自分が頑張ると誰かが不幸になることが分かって、頑張ることが幸せじゃないんです。だから、本質的な幸せをもとめて物質的な幸せから離れている」
佐藤「私の周りは家を含め自分のものという感じがなくて、シェアしたり、助け合ったりする一環の中にあると思いますね。人も呼ぶし、困っていたら泊めるのが当たり前。どっちが良い悪いではないですが、違いは感じます」
桐葉「場所的な面も異なると思います。私の親世代は家族中心で、休日は自分の住む場所で家族と過ごしていましたが、今の人は自分の生活を中心に考えて居るように思います。ライフステージの違いもあるとは思いますが、友人とよく遊びに集まる場所や職場の近くなど、それぞれのコミュニティの近くに住まいを選ぶイメージがあります」
三者三様の回答だが、物質的なものへ執着することが少なく、シェアカルチャーを享受しているという価値観は近いようだ。彼らの価値観に対して、荒氏は「つながり」のあり方が変化していることを指摘する。
荒「ミレニアル世代は常に繋がっていることが当たり前の世代です。単純にシェアハウスに住む人が増えていますし、SNSもあるので、“本当にひとり”の状況がとても少ない。常に誰かと繋がっている状況にいる人が圧倒的に多いんです」
新たなコミュニケーションがコミュニティを再構築する可能性
価値観や考え方が異なることは、新たなアイデアにも繋がっているという。U26では過去に提案されたアイデア含め、U26メンバー自身の学びだけでなく、運営側する三井不動産レジデンシャル側も多くの気づきを得られていると渡辺氏はいう。
渡辺「今年で4年目になりますが、例年成果物からは新たなアイデアや気づきをもらうことが多いです。また、実際のコミュニケーションから学ぶ機会もとても多い。去年の例で言えば、マンション住民の中にU26メンバーが飛び込み、住民とコミュニケーションを取りながら共用施設の改修プランを提案しました。彼らと住民の皆さまとのコミュニケーションや、人間関係のつくり方は我々にとっても参考になることがありました」
若いゆえ、恐れずさまざまな人とコミュニケーションを取れるのもあるだろう。ただ、今までの世代とはことなるコミュニケーション手法を用いているからこそのつながり方もあるかもしれない。住まい方をはじめコミュニケーションなどを含めた価値観の変化は、さまざまなところへ影響を与えていく。
これから数十年後、U26メンバーが地域で主体者となる頃には、これまでとは異なる方法で地縁やコミュニティを構築していく可能性も期待できるのかもしれない。
ビジネスサイドの視点で見ると、コミュニティマーケティングが注目を集めてるように、彼らのような人物をマンションやエリアに組み込み「コミュニティマネージャー」としてエンゲージメントを高めていくことは、そのマンションやエリアの価値を高めるために、今後大きな差別化要因になるだろう。
新たな手段でコミュニティを構築していくプレイヤーにとって、よいコミュニティとは何かを知ることは、不動産の今後を考える上で欠かせないのではないだろうか——。