野球・サッカー・バスケットボールなどのスポーツは、昔からそうであったように、それだけで充分に人々を魅了するコンテンツの一つだ。

しかし今スポーツコンテンツは、その生き残りと飛躍のために、テクノロジーや新サービスなどと融合する動きを始めている。スポーツ観戦だけではなく、その周辺にまつわるビジネスとの相乗効果で、さらにコンテンツの価値を高めていこうという狙いだ。

価値向上のために利用するのは、やはり国民の70%以上が保有しているスマホとの連携だ。今回、その連携によって価値をアップデートさせるスポーツは野球。スマホを持った観客が集まる球場は、「スマートスタジアム」へと変貌する。

LINEを通じて発券できる電子チケットを起点としたチャットベースの「スマートスタジアム」

2018年2月9日、株式会社西武ライオンズとplayground株式会社は、「チャットベースのスマートスタジアム」システムを2018年シーズン公式戦から開始する、と発表した。

playgroundは、デジタル×エンタメの新しい挑戦を続ける企業。主力事業である「Quick Ticket」は、埼玉西武ライオンズ、サンリオやパルコ(劇場)などの大手企業に導入されている。「Quick Ticket」は、チケット販売事業者が「LINEやメールで発券して物理スタンプでモギれる、電子チケットサービス」を簡単に導入できるクラウドサービスだ。

「スマートスタジアム」は、近年、スポーツ・ライブ等のイベントで導入されているサービス。来場者と興行主が、スマートデバイスを介してつながることで、コンテンツやサービスをリアルタイムに受け取り、これまで以上にエキサイティングなイベント体験を実現しようとするものだ。

今回、西武ライオンズとplaygroundが取り組む「チャットベースのスマートスタジアム化」は、LINEで電子チケットを発券することから始まる。複数枚チケットを購入した場合は、LINEを通じて同伴者にも渡すことも可能。

球団公式のLINE@アカウントから、「ご来場に対する“御礼”メッセージ」「試合情報や選手情報のアナウンス」「座席位置の情報」「キャンペーンに関するお得な情報」が届き、快適な観戦をサポートする。

利用の流れとしては、LINEで発券し、電子スタンプで入場。プレイ動画やプレイデータなどのデジタルコンテンツで、拡張されたイベント体験をユーザーに提供する。チャットで、クーポンや抽選、フードデリバリーなどの特別サービスを受ける。イベント終了後にはLINEを通じて体験をシェアする、といったイメージだ。

電子チケットを起点としたデータ活用も視野に入れる。電子チケット利用者の実来場者データを取得し、不正防止施策やマーケティング施策などに活かす。次世代の野球観戦体験の実現への有効なデータだ。

観戦の「スキマ時間」を利用し、スポーツと周辺ビジネスが融合した例もある。

スポーツ観戦を「オークション」で盛り上げ、ビジネスを展開


DROPITの動画

ニュージーランド生まれのスタートアップである「DROPIT」は、スポーツ観戦中の「スキマ時間」に、60秒間のライブオークションを開催するというアイデアで、スポーツコンテンツの価値を高める。

60秒間のライブオークションは、サッカーやバスケットボールのハーフタイム、野球のグランド整備の時間に行われる。「スタジアムにあるディスプレイ」と「ファンが持っているスマートフォン」を活用し、ファンを飽きさせない。緊張感のあるオークションは、視線をスマホへ釘付けにする。落札者のプロフィール画像は巨大スクリーンに映し出され、エキサイティングな体験をする。

このオークションに景品を提供するスポンサーが多いのには理由がある。スポンサーはスポーツコンテンツに広告を出している。よく見かけるのは、会場のスクリーンや看板に広告を表示するというプロモーションだ。ところが、いまの観客はスマホに視線を落とす時間が長く、フィールドの看板に目を向ける時間が減少している。

そこで、ライブオークションのスポンサーになるなどして、観客の視線を集めるスマホのコンテンツに広告を出し、ブランドを覚えてもらおうというわけだ。観客にとっても、スポンサーにとっても、スポーツコンテンツの価値を高めるビジネスとして成立している。

テクノロジーが、スポーツコンテンツのあり方を変えているのだ。

テクノロジーが変えるスポーツ市場

テクノロジーの進展に伴うスポーツ産業の変化については、様々な予測がなされている。

若者を中心に、メディア消費のトレンドが、モバイルやオンデマンドへ移行し、テレビの生放送は衰退が避けられないと考える。大手IT企業が放映権市場に本格参入し、ソーシャルメディアなどの独自チャンネルを開設して、ファンと直接的に関係を構築する動きが予測されている。

ウェアラブル・センサーから得られる、選手の医学データは、ファンを取り込むための仕掛けとなる可能性がある。しかし、アスリートのデータ所有権やプライバシー問題への対策といった、データの規制や管理が課題となっているようだ。

またスポーツメディアにVRやARが導入され、スポーツの視聴体験を高める、と多くの関係者が期待している。イベント体験、放映方法、スポンサーシップなど様々なシーンで変革を起こしそうだ。

新しいスポーツとしては、「ドローンレース」や「eSports」などの登場が見られる。

テクノロジーとの融合は、スポーツコンテンツの価値を高める

野球・サッカー・バスケットボールといったスポーツコンテンツは、スタジアムで観戦したりテレビで生放送を視聴したりというかたちで消費されてきた。

スマートフォンの登場により、若者を中心として、オンデマンドでの視聴が増え、SNSを通じた直接的な関係構築が行われるようになった。スマホはスタジアムでもスポーツ観戦のあり方を変える。スマホを通した観戦中の、情報やイベントの提供は、スポンサーにも変化を引き起こした。

ウェアラブル・センサーやVR、ARなど、まだまだスポーツコンテンツと融合する余地があるテクノロジーは多い。スポーツスタジアムは、観客が新しいテクノロジーを試して楽しむ、テクノロジーのスタジアムになっていくのかもしれない。

img: PR TIMES , Vimeo