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インターネットは距離と時間を縮め、そこに大きな可能性を生み出した。現在ではメルカリを筆頭にC2Cと呼ばれる消費者がプラットフォームを利用することで、その先の消費者に二次流通として商品を販売するという市場が完成されてきている。そんな広がりを見せているEコマース市場で問題となるのは、その商品の信ぴょう性だ。
今回、AIを使った高級ブランド品の鑑定サービスを提供するEntrupyは、日本での本格的な事業展開を開始すると発表した。東京都内にオフィスを構え、世界有数の中古ブランド品市場である日本で、偽造品の流通を防ぎ、高額商品のネット取引における信頼性の向上に貢献するという。
何百万枚ものマイクロ画像データベースで製品の真贋を判定
Entrupyは科学技術者と学者のチームが創業し、ディープラーニング(深層学習)のアルゴリズムと何百万枚もの独自のマイクロ画像データベースを使って、物理的な製品の真贋を判定する、スケーラブルでありながら手頃なソリューションを提供している。
Entrupyの携帯型スキャナーと付随するソフトウェアで製品をスキャンし鑑定するたびに、システムが自動的に「学習」し、精度が向上していく。人手による主観的なプロセスで対処することの多い偽造品問題を、テクノロジー主導で解決する世界初の商用サービスだ。
鑑定書を発行するとともに金銭的な補償を提供
同社ではEntrupy鑑定書を発行するとともに金銭的な補償を提供し、鑑定結果の信ぴょう性を担保している。Entrupyはこの技術で特許を取得しており、2016年のサービス開始以降、数百社の中古ブランドショップやマーケットプレイスでハンドバッグや革小物の真贋判定に利用されている。
ルイ・ヴィトンやシャネル、エルメスなど15の高級ブランドに対応し、これまでに総額3,000万米ドル(約33億円)以上の顧客企業の在庫を鑑定してきた。同社は現在、偽造品の流通が多い他の分野の商品の鑑定を行えるよう、データベースとソフトウェアの開発を進めているという。
アイテムの買取サービスに影響を与えるか
昨年、アイテムの買取サービスの登場が話題になった。DMMが買収している「キャッシュ(CASH)」と、それに追随するようにあらわれた「メルカリNOW」の2つである。
株式会社バンクは、2017年6月28日より、目の前のアイテムを一瞬で現金化できるアプリ「キャッシュ(CASH)」を開始している。キャッシュは、自分が保有するあらゆるアイテムを瞬間的にキャッシュ(現金)に変えることができるアプリだ。アプリを立ち上げて保有するアイテムをキャッシュに変えるまでに要する時間は数秒。面倒な審査や手続きなども不要だ。
また、株式会社メルカリは、フリマアプリ「メルカリ」内において、不用品をすぐ現金化できる“即時買取”サービス「メルカリNOW」を2017年11月27日より開始している。
メルカリNOWは手元にある商品のブランドと状態を選択し、スマートフォンのカメラで撮影するだけですぐに査定金額が提示される。了承した場合にはその場で売上金を手に入れることができる。
これらのサービスは、アイテムの真贋性はユーザー側の申告によるところが大きい。今後のサービスの向上や変更は必ず行われることだが、現状ではサービス提供側が「査定した商品を買い取る」ということが前提となっているため、悪意のあるユーザーに対処することは今後必須になってくるはずだ。
そういう意味では今回のEntrupyはこれらの買取サービスに大きな影響を与えることになるかもしれない。取り扱う商品の違いがあるため、そのまま今回の技術を転用することは難しいかもしれないが、例えばメルカリのように流通する商品が膨大なサービスであれば、Entrupyと同じような機械学習によって出品される商品に対して、適正な価格を値付けすることも現実にできる可能性があるだろう。ただし、費用対効果が合えば、という条件付きにはなるが。
しかし、こういった技術の精度向上が行われれば、今後あらゆるものが一瞬で価値を付与され(もちろん難しい分野はあるだろうが)、市場に流通するという未来はある。そこには無駄なものを最大限削減できる「新しいエコな経済圏」が誕生するかもしれない。
Eコマース市場のトラブル減少につながる
高級ブランドは偽造品が多く、しかも巧妙だ。販売者自体が気付いていないこともあるだろうし、知見を持たないユーザーならばなおさらで、トラブルの原因となる。
いずれにしても、今回のEntrupyによって上記のようなトラブルの解消とともに、アイテムの信憑性が向上し、今まで以上の「モノの価値の再定義」が可能になっていくだろう。それによるEコマース市場に与える影響は大きなものになることは間違いない。