最近、「若者の〇〇離れ」という言葉をよく耳にする。その中には「若者のビール離れ」というものも含まれているだろう。しかし、これはビール全体のことであり、近年では「クラフトビール」が好調だ。とくに欧米や米国ではクラフトビールは非常に人気が高まっている。

世界最大のマーケティング調査会社ニールセンは、米国のクラフトビール(小規模醸造のビール)市場についてのインサイトの日本語版を公開した。それによると、2017年10月7日までの52週間で米国のクラフトビールは、40もの醸造業者が2桁の成長率を示したという。今回はその調査結果をご紹介する。

ビール全体は低調だがクラフトビールは好調

酒類の売上に目を向けてみると、ビールが以前よりも低調であるのは確かである。ビール業界は成長への努力を続けてきたが、過去数年間はワインや蒸留酒にシェアを奪われていたことが、ニールセンの「米国ビール市場の現状(State of the U.S. Beer Market)」レポートで明らかになっている。

こうした全般的な業績低下の一方で、クラフトビール(小規模醸造のビール)など成長が続く商品セグメントもある。

クラフトビールでは40醸造業者が成長率2桁も

ニールセンが米国で行った店外消費用ビール販売チャネルでの測定では、クラフトビールセグメントは、2017年10月7日までの52週間で3.4%の売上の伸びを示した。クラフトビールのように細分化され多彩な種類で構成されるセグメントにおいては、現在もなお、好調に成長する傾向が見受けられるという。

例えば、クラフトビールの上位を占める100醸造業者のうち40醸造業者(売上高に基づく)では、クラフトビールカテゴリーの成長率は2桁に達している。

しかしながら、このクラフトビールの上位40醸造業者の場合、流通範囲の拡大が、成長の要因の一つだったが、この拡大も最近では減速している。

この上位40醸造業者の2桁成長の過程を詳細に見てみると、成功へのアプローチが一様ではないことがわかる。多彩な要因が成長に貢献してきたのが実情である。ニールセンでは、これらの大手クラフトビール・ブランドや急成長を遂げるクラフトビール・ブランドに該当する3つの領域に特に注目した。具体的には、

  1. 成長率が上位のクラフトビール醸造業者を多く抱える上位の州
  2. 一部ブランドに対する大手主流ビール会社からの支援
  3. 商品ポートフォリオの多様性

の3点だと分析している。

醸造業者がどの州に所在するかが売上を左右する重要な要素に

地域別に見ると、米国の西側に特に醸造業者が集まっており、カリフォルニア州の6社、ワシントン州の3社、オレゴン州の2社、ユタ州の1社の合計12のクラフトビール醸造業者がこの地域に本拠を置いている。

ただし、この地域だけが成長を牽引しているのではなく、上位40醸造業者のうち10社が所在する中西部でも力強い成長が見られる。中西部全体としては、ミシガン州とオハイオ州が最も成長への貢献度が高く、両州とも上位40醸造業者のうち3社を抱えている。

総合的なビールカテゴリーにおけるクラフトビールの全般的シェアが比較的低い州に本拠を置く醸造業者は、上位40社のうち7社を占める。この数字からみてとれるのは、一般的には非クラフト系のビールからより大きな利益を得ている州でも売上を伸ばす方法を、こうした企業が見つけ出そうしているということ。

ビール人気が高い州として歴史があるテキサス州とフロリダ州の少数の醸造業者は、クラフトビールの成長の余地がある州で2桁成長を達成した。これらは成功したクラフト醸造業者の好例と言えるとしている。

また、醸造業者がどの州に所在するかは、全体的な売上を左右するきわめて重要な要素だ。注目すべきは、クラフトビール醸造業者上位40社が、売上高の平均42%を本拠地である州から得ていることであるとしている(ビール販売を制限する法律がある州の醸造業者を除く)。

大手ビール会社では本拠地以外での州での売上が拡大

一方、上位40ブランドには、小規模な独立醸造所のクラフト・ブランドだけではなく、大手醸造会社が所有する12のブランドも含まれる。この12ブランドのうち4つが、2桁成長を遂げる醸造業者の上位10位に入る最大手のクラフトビール醸造業者に該当する。

商品ポートフォリオにクラフト・ブランドを含む大手のビール会社にとっては、流通が成長への主要因の一つである。流通から得られる利益は上位40ブランドの多くで低下傾向にあるが、大手ビール会社の所有するブランドは、現在も引き続き、独立醸造業者よりも早いペースで流通を拡大している。

さらに、大手ビール会社が所有するクラフトビール醸造業者はこの4年間、「本拠地」である州以外でも売上を拡大してきた。実際、こうした醸造業者の本拠地の州での売上が占める割合は、4年前の54%から44%へと低下している。

クラフトビールの商品ポートフォリオの多様化が顕著に

商品ポートフォリオについても、すべての醸造業者にあてはまる公式はない。例えばインディア・ペールエール(IPA)スタイルは、クラフトセグメント全体で特に高い人気を誇り、クラフトの総売上の約30%を占めている。

上位40社では、IPAが占める割合は平均で売上の40%に達している。6社においては、IPAが全体の売上に占める率は70%を超えるが、一部の醸造業者では、IPAの売上は非常に低く、代わりにポートフォリオに含まれる他のスタイルが大きな売上をもたらしているという。

クラフト醸造業者のブランドの幅広さも考慮すべき重要な要素であり、上位40醸造業者のポートフォリオのサイズ(個別のブランド数)は、6から50以上まで多岐にわたる。クラフト醸造業者1社あたりの平均ポートフォリオサイズは23ブランドであり、10~25ブランドを擁する醸造業者が最大の割合を占めた(18社)。

クラフトセグメント全体の成長に陰りが見られ、現状では小売店の棚に占めるスペースが以前ほど広がらない。個々のブランドが店舗に十分な利益をもたらさない限り、非常に多様なポートフォリオを長期的に維持するのは困難だとしている。

日本でも好調なクラフトビール

これに対し、日本の状況はどうだろう。日本でもクラフトビールは好調だ。特にミレニアル世代を中心に近年、ブームとなっている。

日本では1990年代後半、地ビールブームがあった。この時期は珍しいビールやご当地のビールが増えて、日本全国にブリュワリーができた。しかし、当時はただの“お土産”にすぎなかった。それが変化し始めたのは2009ごろ。米国からクラフトビールという言葉が入ってきはじめ、2011年ごろには、クラフトビールを専門に提供する飲食店が増え始めた。

日本のクラフトビール市場を牽引してきたプレイヤーといえば、ヤッホーブルーイングである。ヤッホーブルーイングは、個性豊かな味わいを日本のビールにもたらし、ミレニアル世代の支持を獲得してきた。

ヤッホーブルーイングは、画一的な味しかなかった日本のビール市場にバラエティを提供し、新たなビール文化を創出した。

低迷するビール市場を活性化する布石となるか

世界的にビール市場は低調である。クラフトビールがただのブームで終わるか、ビール市場を活性化することができるか。

ヤッホーブルーイングについて最も特筆すべきはインターネット販売で販売を伸ばしてきたということだ。

米国や欧州でも持続的にマーケットを育てていくためには商品のポートフォリオの多様化に対応し、ヤッホーブルーイングのように販売についても新しい工夫が必要だろう。

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