今年だけで、5回も海外旅行へ行った。

時差が少ない地域がほとんどだったため、現地ではほぼ仕事をしていたが、普段とは全く異なる環境に身を置くことは新たな視点獲得に繋がる。

生活スタイルの違いはもちろん、各地域におけるWebサービスの活用のされ方の違い、日本にはないサービスなど、多様な気づきを得ることができた。

『AMP』でも今年は、旅をテーマにいくつもの記事をリリースしてきた。

増加する若い男性のひとり旅

株式会社リクルートライフスタイルに設置された観光に関する調査・研究、地域振興機関「じゃらんリサーチセンター」が発表した「じゃらん宿泊旅行調査2017」に関する記事は大きな反響を得た。

同調査では、2016年4月~2017年3月における国内宿泊旅行の行き先や回数、旅行費用などの調査を実施。その結果は、宿泊旅行実施率は54.8%と、調査開始以来、過去最低というものだった。背景には、きっかけ不足がある。

「旅行は『同行者』や『お金』の影響を大きく受けるレジャーです。旅行に行かない人の理由で最も多いのは『なんとなく』。一方で、旅行に行く理由として『誘われたから』という項目が上位に挙げられます。誘ってくれるパートナーや配偶者などが少なくなると、旅行に行くきっかけを失ってしまうケースが増え、実施率が減少していると考えられます」

この旅行者数の減少は宿泊業者に大きな影響を与える。そんな宿泊業界はこの1年さまざまな変化を遂げてきた。新興の宿泊施設や宿泊スタイルの登場はもちろん、老舗宿泊施設の変化、そしてAirbnbをはじめとする民泊ビジネスまで。それぞれのプレイヤーが新たなポジションや顧客を狙いしのぎを削る。

ゆりかごから墓場までライフスタイルをカバーする。「MUJIホテル」が示すブランドの未来

今年印象的だったのは「ホテル業」以外の業種、特にライフスタイルに携わるブランドを持つ企業がホテルへ進出する姿だ。

無印良品を展開する株式会社良品計画は7月5日、日本初の「MUJI ホテル(仮称)」を銀座3丁目に2019年オープンすることを発表した。同施設の設計・運営は、注目を集めたホテル「CLASKA」の立ち上げや「ホテル アンテルーム 京都」の設計・運営などを手がけたUDS株式会社が担当する。

アパレル業界を見てみると、スペイン発のファッションブランド「ZARA」はZARA HOMEという日用品ブランドを展開しているし、セレクトショップ「フリークスストア」ではインテリアや家具に加え、FREAK’S HOUSEという名の住宅の販売もはじめた。UNITED ARROWSがリノベーション住宅のブランドをスタートしたのも記憶に新しい。

こういった、衣食住に携わるライフスタイルブランドは、消費者の衣食住の全てに携わろうと、商品展開、事業展開を広げる。ブランド力が高ければ、ライフスタイルを一貫して取りに行くことは決して難しい話ではない。

人口減少が進む中、横展開するブランドは少なくない。宿泊もまたその1つの展開先となり始めているのだろう。

個性的な「カプセルホテル」はなぜ増える?鍵は“安かろう悪かろう”をアップデートする視点

他方で、ホテルのあり方もアップデートされている。簡易宿泊のイメージが強かったカプセルホテルは特に大きな変化が起こっている。『AMP』でも紹介した「9h(ナインアワーズ)」や「The Millennials」、「グランジット アキハバラ」はいずれも新たな世代のカプセルホテルだ。

いずれも従来の蚕棚的なカプセルホテルではなく、形こそカプセルでサービスはシンプルだが、充実した時間を過ごせるようインテリアから共用施設など含め体験の質に非常にこだわりを持っている。

削ぎ落とされて、シンプルなサービスであればあるほど、拡張する余白があるはずだ。“安かろう悪かろう”と言われているものに注目すると、そこに新しいビジネスのヒントが眠っているかもしれない。

そういった示唆を感じるホテルが、徐々に頭角を現しはじめている。

“やめる”ことが価値を上げる?「星野リゾート」のユニークな成長戦略に迫る

国内の既存宿泊業のなかで存在感を表しているのは、いうまでもなく「星野リゾート」だろう。

同社は現社長の星野佳路氏は、慶應義塾大学経済学部卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院にて経営学修士号を取得。海外の先進的なホテル経営を肌で感じ、これまでの方針を一新し「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げている。

同社は海外の大手ホテルチェーンを参考にし、宿泊施設の運用に特化した戦略を立てたり、不動産は投資法人を別途用意することでリスクを分散したりと先進的な取り組みを行ってきた。

さらには自社でブランディングしたシリーズだけでなく、国内外で運営受託で成果を残している。

詳細は記事に譲るが、星野氏は「日本旅館」をホテル業界の1カテゴリーにしたいと語っている。星野リゾートは経営面だけに限らず、日本文化という価値を輸出していく方法を模索し続けているのだ。国内の他ホテル業者にはない事業スタイルで、ビジネスを拡大する星野リゾート。業界を牽引する存在として今後の動きも目が離せない。

高級路線で競争するホテルとAirbnb。「ラグジュアリー」の再設計で若者の心をつかむ

ここまで紹介したホテルとは一見関係なさそうに見えるが、着実に業界のパイを食い合っているのがAirbnbをはじめとする民泊ビジネスだ。

同社は着実に企業買収を進めつつ、事業領域と事業規模の拡大を進めてきた。

カウチサーフィンのように安価で宿泊できる施設のため、競合するのは一部のホテルだけと思われるが、Airbnbは全方位にカバー範囲を広げるつもりだ。同社は、2017年2月に高級バケーションのレンタルを仲介するLuxury Retreatsを買収。富裕層向けの高級ラインを用意しているという。

さらに、Airbnbは2016年から現地の体験を楽しんでもらうための動きを始めている。旅先での体験やスポットを紹介するTripというサービスだ。このサービスは、現地でのアクティビティを掲載し、ローカルのコミュニティに参加する機会を提供することが狙いだ。

宿泊にとどまらない事業領域を持つことで、宿泊へのプレゼンスも高める。ホテルのようにサービスはないが、着実にホテルとパイを奪い合う存在へ成長している。宿泊分野を見据えるのであれば、決して見過ごすことはできないプレイヤーだ。

日本国内だけを見ても、日本人の旅行は減少傾向が続くかも知れないが、インバウンド需要は右肩上がりが期待される。事実、都内では次々とビルの建設ラッシュが進んでいるし、宿泊施設も商業施設も増え続けている。

このトレンドがどこまで持つかは分からないが、人口減少が確実で、「観光立国」を掲げる国としては観光需要に応えることは確実に必要になる。

宿泊の分野では、この市場変化を上手く捉えつつも、業界内での大きな変革に乗れたものこそが生き残っていくのではないだろうか。まだまだここ数年は変化が続くことが予測される。

ビジネス、ライフスタイル、コミュニティなど……広い視野でさまざまな情報を摂取していくことが求められる。

img: Charley Lhasa (CC BY-SA), David Hellmann, 9h, 星野リゾート