道路の端や側溝に捨てられたタバコの吸殻に、わざわざ目を留める人は決して多くはないだろう。しかし、景観を損なうだけでなく、環境にも無視できない悪影響を及ぼしているのだ。

タバコの吸い殻に含まれるフィルターは分解されにくい。そのため、排水溝から川や海に流れ込んだ吸い殻は、長期間にわたって土や水中に滞留し、汚染を引き起こす

世界保健機関の試算によると、1本のタバコのフィルターが170mgと仮定した場合、ポイ捨てされた吸い殻により、自然分解されないゴミが年間17万5200トン発生しているという。

この問題に対し、日本国内では市区町村が主体となって路上喫煙やポイ捨てを禁止する条例の制定が進められてきた。例えば、東京都練馬区では路上喫煙やタバコのポイ捨てに対して2万円を徴収する。

海外ではポイ捨て防止を目的としたキャンペーンが話題に上ることも多い。イギリスの環境系NPO団体「Hubbub」は街中に投票ボックスのような吸い殻用ゴミ箱を設置。「メッシとロナウド、どちらが良いサッカー選手か?」など質問に吸い殻を入れて投票できるようにした。

カラスで吸い殻収集?「Crowbar」の仕組みとメリット

タバコのポイ捨てを減らすだけでなく、捨てられた吸い殻を収集する取り組みも生まれている。アムステルダムのスタートアップ「Crowded Cities」が試みるのはカラスによる収集だ。

彼らは「Crowbar」と呼ばれる電灯のような形のマシンを開発。Crowbarにカラスが吸い殻を入れると、内部のカメラで認識してエサを出す仕組みだ。エサを得られる体験を繰り返させ、カラスが吸い殻を自然と集めるよう学習させる。

人間にとっても、カラスにゴミをあさられることなく、吸い殻も減るのは相互にメリットが大きい。

プロジェクトを率いるRuben van der Vleuten氏は、掃除機型のマシンを開発する着想だったという。しかし、マシンを稼働させる場合の環境への影響と、入り組んだ場所での収集しやすさを鑑みて、最終的に鳥を用いることにした。

なかでもカラスを選んだ理由は知能の高さにある。特にVleuten氏らが参考にしたのは、カラスのトレーニングで知られるJoshua Klein氏の実験だ。彼はコインを入れるとピーナッツが手に入るマシン「Crow Box」を用いて、カラスに自販機の仕組みを学習させている。Vleuten氏がこれをポイ捨てに応用したのがCrowbarの仕組みだ。

カラスを活用する上で考慮すべき3つの視点

1.カラスに健康被害はないのか

相互にメリットのある仕組みとはいえ、有害な物質を含むタバコをカラスがくわえるのは問題にならないのだろうか。

健康への影響についてCrowbarは「被害が認められ次第、すぐに他のソリューションを探す」と述べている。プロジェクトを実際に開始する前に十分なテストを実施する予定だという。

2.そもそも倫理的にありなのか

また、健康面以外に倫理的な問題も考えておく必要があるだろう。ワシントン大学で野生生物の研究を行うJohn Marzluff教授は、『The Next Web』の取材に対して「カラスを清掃仕事に駆り出すべきではない」と批判的だ。

Crowbarは「より多くの人間にポイ捨て問題を認知してもらうこと」も目的の一つだという。ただ、人間の意識が育つまでの間だけカラスが収集の役割を担うならば、倫理的な問題も緩和され得るかといえば腑に落ちない感じも残る。

3.カラス同士の安全性は確保できるか

最後に忘れてはいけないのが安全性の問題だ。カラスなどの鳥は車や建物、電線との衝突事故に遭うことが多々ある。Crowbarの周りを行き交うカラスが事故に巻き込まれないような配慮も求められるだろう。

都市で人間と動物が共存するのは容易ではない。近年では、緑化活動がかえって状況を複雑にしているという指摘もある。都市の中に鳥たちが暮らせる空間があっても、鳥はどこからどこまでなら安全かを判断できない場合があるためだ。

人間と動物が都市で共に暮らしていく上では、私たちが動物の生態を理解し、彼らが暮らしやすい環境をデザインする必要がある。動物の特性を元に一定の役割を与えることにより、私たちは動物とWin-Winの関係をつくれるのだろうか。今後のCrowbarの展開に、その手がかりが隠れているはずだ。

img:Crowded Cities