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深夜、延々と同じ商品を宣伝し続ける通販番組をダラダラと見始めてしまい、買うつもりもなかった商品をつい買いそうになったことはないだろうか。
なぜ深夜に通販番組が多いのかというと、人間の多くは夜になると判断力が低下し、他に邪魔も入らず、同じ商品を延々と紹介し続けることによって、物欲を刺激しやすいからだという。深夜帯は番組枠が安く提供され、制作費がかからないという利点もあるが。
さて、そんな昔からある通販番組をアップデートしたのが、中国を中心に普及が進むライブコマースだ。
中国で社会現象となった「ライブコマース」
ライブコマースとは、配信者が商品を紹介し、その商品の購入を検討している視聴者が質問等をコメントし、リアルタイムにコミュニケーションしながら商品を購入できるサービスだ。
インフルエンサーがストリーミング配信で「商品」を紹介すれば売れる——個人が「ジャパネットたかた」になれるライブコマースは、2016年に中国で流行の兆しを見せ始めた。
2016年に中国のライブ配信利用者は3.25億人を超え、インターネット人口の45.8%が利用していることになった。中国のアリババグループのECサイト淘宝(タオバオ)の中には、1人で年間50億円売り上げた有名な張大奕(Zhang Dayi)というセレブが登場し、その存在は伝説となった。
ユーザーはライブコマースをどう楽しんでいるのだろうか。インフルエンサーは、ライブ中継しながら、視聴者の「その洋服の着丈を確認したい」「実際の使い心地を教えて欲しい」といった質問に答えていく。
試着している人の身長もボードに書いて映像に映り込むようになっているのも特徴的で、ライブ配信を通じて、インフルエンサーに自分を「投影」してバーチャル試着を体験することができる。
中国のEコマースでは、偽物の販売が行われていることや、写真だけでは商品の質が判断しにくいという課題を抱えていた。このことが、中国におけるライブコマースの普及につながったと言われている。
日本でもライブコマース事業に参入する企業が相次ぐ
日本でもここ数ヶ月で、様々な企業がライブコマース事業に相次いで参入している。
Candeeが6月にライブコマースアプリ「Live Shop!」の提供を開始。7月には、メルカリがライブコマースサービス「メルカリチャンネル」を開始、現在は一部ユーザーのみに配信機能を提供していて、1日30人程度のユーザーがライブ配信をしている。
9月にはBASEが 、登録店舗が商品や店をライブ配信で紹介できる機能「BASEライブ」を始めた。俳優の山田孝之氏が取締役を務めるライブコマース「me&stars」が今冬リリースされる予定で、さらに東大発スタートアップのFlattがライブコマースアプリ「PinQul」を10月に発表したばかりだ。
ライブコマースに参入するのはスタートアップだけでない。日本のファストファッションブランドの代表格であるGU(ジーユー)も、専用アプリで音声を通じて著名人と会話が楽しめるコンテンツ「GU CURATORS ROOM」を2017年11月30日まで期間限定で立ち上げ、実験的にライブコマースを始めている。
日本では「憧れのインフルエンサーへの共感」がライブコマースの使用動機に?
Amazonを筆頭としたEコマースサイトで商品をポチって購入するだけではなく、ライブ映像を介して、出品者とリアルタイムに相互コミュニケーションを取るという新たな購入体験がユーザーに受け入れられている。
ライブコマースが受け入れられるまでに、ユーザーの動画視聴環境や、価値観の変化がある。
ひとつは、FacebookやInstagramが相次いでライブ配信機能を強化してきたことだ。ユーザーはそれらの機能を使うことで、「友達のライブ映像」コンテンツに慣れてきたと考えられる。
もうひとつは、双方向のコミュニケーションがもたらすワクワク感や安心感がユーザーに受け入れられていることだ。
ライブ配信による臨場感や、配信者に名前を呼んでもらえる体験は、ユーザーにとって新しい体験だ。また、リアルタイムで質問ができることで、不明点を解消し、購買に至らせることができる。
日本では、タレントやインフルエンサーが所属する芸能事務所がライブコマース事業と提携。インフルエンサーマーケティングの延長線上で、ライブコマース市場に参入している事例もある。
「偽物かどうかを確かめたい」「本当に信用できるかどうか確認したい」という中国のEコマースにおける課題とは異なり、日本の場合は、憧れのインフルエンサーによるライブコマースを「可愛い!」「ほしい!」と共感しながら楽しむことのほうが大事なようだ。
日本におけるライブコマース市場は、今年の夏頃から参入するスタートアップや大手企業が現れ始めたばかり。中国のように爆発的に流行するかどうかはまだ未知数だ。新しい購買体験と、そのワクワク感は多くの人に受け入れられていくのだろうか。
img : freestocks.org, GU, メルカリ, 张大奕, BASE