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オフィス飯の選択肢は意外と少ない。
東京の場合、外に出ればランチは軒並み1,000円前後かかるし、コンビニご飯やUberEATSも連日では飽きる。
「日替わりのフードカートが毎日オフィス前に来てくれたら、お財布も健康面でも助かるのに」会社員の頃、毎日のように530円の肉うどんを食べながらそう思っていた。
同様に、ランチに悩むビジネスパーソンは少なくない。バランスの良い食事をしたい、できるだけ安く抑えたい、そもそもゆっくり昼食をとる時間がない、ランチ事情を嘆くそれぞれの声が今にも聞こえてきそうだ。
今、そんな悩みを解決する「ポップアップ社食」が注目されている。
いつものオフィスを社食に変える「ポップアップ社食」
ポップアップとは「突然現れる」の意。ポップアップ社食は、社員食堂のない中小企業などを対象に、必要なときだけ調理スタッフが来社し、いつものオフィス風景を社食に変えてくれるサービスだ。
オフィスワーカーにとっては、リーズナブルな価格で栄養バランスの良い食事ができ、マンネリ化したランチから脱却できる点が嬉しいポイントだろう。
ここ数年でスポットライトが当たるようになったビジネスだが、2017年に入り、その勢いは加速。これまで個人向けに行ってきた料理代行サービスを、法人向けにアレンジしたサービスが次々とローンチされている。
個人向けの代行サービスが流行った理由の背景には「働き方改革」があったと言われているが、法人向けサービスは、企業のどのようなニーズを満たすのか。仕出し弁当ではダメなのか。
ポップアップ社食が提供するのは食事だけではない。評価を得る背景には健康経営の視点が存在する。
健康に働くことがビジネスの価値へ接続される
ポップアップ社食が脚光を浴びる背景には、企業の「健康経営」への関心の高さがうかがえる。健康経営とは、スタッフの健康状態と組織のパフォーマンス向上とに深い関連性があるという経営的視点を持ち、企業が戦略的にスタッフの健康管理を実践する経営手法。
食生活の乱れは、体調不良や精神疾患など、心身のコンディションに影響を及ぼす要因となる。従業員が欠勤や離職することで、雇用主である企業にとっても損失となるのだ。
とはいえ健康経営を目指したいと考えても、設備面などの問題から、実践に至っていない現状があった。このニーズにうまくフィットしたのが「ポップアップ社食」だった。
財布に優しく健康面に嬉しい「出張型社員食堂」
家事代行サービスを提供する株式会社CaSyは、2017年9月法人向けに料理代行サービス「出張型社員食堂」を開始した。
同サービスでは、中小企業やスタートアップなどを対象に、家事代行スタッフがポップアップで社食を提供する。キッチンがないオフィスでも、空いたスペースに簡易コンロを並べ、即席キッチンを用意。準備から片付けまでに要する時間はおよそ3時間ほどだという。
企業はスポットでの発注はもちろん、週1回といったレギュラーでの依頼も可能だ。「毎週月曜日は、カジーの日」などといった運用は、ワクワク感がかきたてられる。
献立は、リクエストや予算に応じ事前に提案される。価格帯は、人数やメニューによって変動するが、20名程度で一人当たり675円と現実的な値段設定だ。コンビニとさほど変わらない値段で、栄養バランスの良い昼食がとれる。
ランチ時間帯における店舗の混雑を避ける必要も無いため、規則正しく食事がとれることも嬉しいところだろう。
株式会社おかんでは、企業に冷蔵庫や専用ボックスを設置し、健康的な総菜やスープ等を常備するサービス「オフィスおかん」を展開している。「さばの味噌煮」「ひじき煮」「玄米ごはん」といった食事を、1品100円からいつでも購入できる。
同社は企業の仕事と食事のバランス=“ワーク・フード・バランス”の改善を推進するため、2014年から法人向けサービスを開始。
約3年で導入企業は300社を超えたという。2016年からは、サービスエリアを東京23区外へも拡大。現在は千葉、川崎、横浜などで社食サービスを提供している。
コミュニケーションの場となる「ポップアップ食堂」
「ポップアップ食堂」は、単に健康な食事を食べるだけではない価値にも繋がっている。料理をつくる人と食べる人が集まる交流コミュニティサイト「KitchHike」は、オフィスでの手作り料理を通して会社の交流を活性化させようと「オフィスKitchHike」を2017年にスタートさせた。
同サービスは、COOKと呼ばれる登録スタッフが中心となり、調理や片付けを従業員が手伝う形式で、ワークショップ的要素が強い。ランチを一緒に作ったり食べたりと、業務外の時間を共に過ごすことにより、デスク上で「孤食」していたスタッフへのケアや、従業員間の結束の高まりなども期待できる。
オフィスKitchHikeは、現在サイボウズやメルカリといったIT企業を中心に導入が広まっているという。
健康経営は、従業員のモチベーション維持にも効果を発揮する。また、福利厚生の一環として、昨今激化している採用競争に対するフックにもなるかもしれない。
健康経営、従業員同士のコミュニケーションと「働くこと」以外の部分で提供できる価値が企業の未来の可能性を広げていく。そのアプローチの一つとして、「食のサポート」は今後も注目が高まっていくだろう。