ある書籍を購入しようとしてAmazonを開くと、その書籍に関連する様々な書籍がレコメンドされる。レコメンドされた書籍の中で気になるものがあれば、ついついカートに追加してしまい、出費が膨らんでしまう。現代人なら多くの人が経験していることだろう。
「◯◯が好きな人は◯◯も好きといっています」という文言を見かけない日はない。Amazonに限らず、YouTubeやNetflixなどの様々なWebサービスで見かける文言だ。
インターネットにおいて、個人の嗜好を分析し、最適な情報を提供する「レコメンデーション」は大きな力を持ち、そのレコメンデーションに私たちの行動は左右されている。
「レコメンデーション」のあり方に疑問を投げかける
「レコメンデーションによって我々は効率よくコンテンツや商品を見つけ、選ぶことができている」
……それは本当だろうか? 自分が選んでいるのではなく、選ばされているだけなのではないだろうか? 私たちは自分で判断する力を失っていないだろうか?
そんな疑問を投げかけるような風刺的なアート作品が生まれた。
ニュージーランド各地のスポットに「ここが気に入ったのなら、ここも気にいるはず」と別の場所をレコメンドする看板を立てるという作品だ。
看板には、「世界のおへそ」とも呼ばれるオーストラリアの巨大な岩石ウルルのような遥か遠くの地から、近所のマクドナルドまで様々なスポットがレコメンドされている。
作品のタイトルは『Signs of the Times』(故プリンスの同名アルバムへのオマージュだろうか)。この言葉を訳すと、時代の動向や象徴という意味になる。インターネットにおけるレコメンデーション全盛期を象徴する作品として、アート作品を作ったと考えられる。象徴(Signs)と看板(Signs)の言葉遊びの意味も込められていそうだ。
私達は「ものの価値」を自分で判断できているのだろうか
アート作品を手掛けたのは、ロンドンをベースとして活動するScott Kelly and Ben Polkinghorneという2人組。彼らはペットフードのペディグリーやチョコレートのM&M’s、サムスンといった名だたるブランドの広告キャンペーンを手がけている。
その一方で、自主プロジェクトでは、大量消費に対する反発を表明するような作品を制作している。
たとえば、「Mystery Lucky City Box」は、海外の都市を訪れた際にマクドナルドやスターバックスに出迎えられ、それらのお店に足を運ぶことは、都市における特別な体験ではないことを警告する作品だ。
このアートは、インターネットでは当たり前の光景が、現実の世界に現れると不自然極まりないものであるという気付きを与える。
「僕たちが普段ネットで目にし、信用しているレコメンデーションは、実は非常に奇妙なものなのではないか?」
この作品を見ていると、そんな疑問が思い浮かぶ。
今後、取得できるデータの量が増えれば、レコメンデーションシステムの精度は向上していく。AmazonやGoogleのような企業はスマートスピーカーなどのデバイスを通じて、私たちの情報を収集し、それをレコメンデーションに活かすことが考えられる。
レコメンデーションの精度が向上する未来を前にして「我々は自分で選択することができているのか。自らの頭で考えることができているのか」と、自問するきっかけを、このアート作品は与えてくれる。
img : Scott and Ben
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