起業家・経営者・投資家、そしてドローン活動家の顔を持つ男

これまで世界の最先端から2周、3周遅れとも言われていた日本のドローン市場だが、その状況がひっくり変える可能性が見えてきた。

テクノロジー普及に極めて重要な要素は、テクノロジーそのものの発展に加え、法整備と投資環境が挙げられる。

ドローンのテクノロジーを考えた場合、ハードウェアとソフトウェアという側面があるが、どちらも日本は高度な技術水準を有しており、世界のなかでも遜色ないレベルといえるだろう。

より重要なのは、それらのテクノロジーを社会に広く浸透させるための法規制の整備、そしてテクノロジーを駆使し、新しいプロダクトやサービスを世に出すスタートアップを育成する投資環境だ。

法整備に関しては、行政が2020年代までに都市部を含む地域での目視外飛行を実現すべく「空の産業革命」を目指すロードマップを策定、今後法整備の加速が見込める状況になってきた。

そして、ドローンスタートアップ育成を加速させる投資環境。実は、各国まだまだ整備が進んでいないところである。スタートアップの聖地シリコンバレーでも、ドローン関連企業の資金調達は難しいといわれているほど。しかし、ここ日本で先進的なドローン専門ファンドが立ち上がり国内ドローンスタートアップを育成していく環境が整いつつあるのだ。

この「ドローンファンド」を創設したのは、スタートアップ界隈では知らぬ人はいないであろう投資家、千葉功太郎氏だ。創業メンバーとしてコロプラ社に参画し、東証一部上場を果たすなど起業家・経営者として手腕を発揮してきた人物。2016年7月コロプラ社取締役を退任後は、主にエンジェル投資家として活動を行ってきた。

起業家・経営者、そして投資家としてのイメージが強い千葉氏だが、実はドローン活動家としてもドローン普及に向けたさまざまな取り組みを行っており、ドローンへの関わりが非常に深い人物でもある。2015年頃にドローンに出会い、以降小型ドローンを常に持ち歩き、時間があれば操縦練習をするほどドローンにはまり、ドローン空撮での操縦スキルはすでにプロ級。そして個人で保有するドローン台数は20機を超えるドローンマニアでもある。

起業家・経営者・投資家、そしてドローン活動家の顔を持つ千葉功太郎氏

今回、そんな千葉氏になぜこのタイミングでドローンファンドを立ち上げたのか、詳細な理由を聞いた。

日本のドローン産業に危機感、ドローンファンド設立のきっかけ

そもそもエンジェル投資家として活動していた千葉氏がドローンファンドを立ち上げようと思ったきっかけはどのようなものだったのか。

「日本はすばらしい要素技術を多く持っているとともに、行政側もロードマップを策定し、日本のドローン産業の未来は明るいと思っていたのですが、なかなかリスクを取って投資をする投資家が出てこず、国内ドローン産業の育成は難しそうだなと。このままいけば日本は世界市場におけるユーザーになってしまうという危機感が強くなったことがきっかけです。

ドローンファンドを立ち上げるまでは、個人的にドローンスタートアップに投資をしていましたし、自分でドローン会社をつくることも考えていました。しかし、それでは日本全体としてドローン産業を盛り上げることは難しいと思い、みんなで応援できるチームとして『ファンド』という形態がよいだろうという考えに至りました。チーム・ドローン・ジャパンとして、日本一丸となって日本発のドローン産業を世界に発信したい、世界で戦える企業を育てていきたいという思いが強くなったからです」(千葉氏)

2017年6月に設立されたドローンファンド。以降、ファンドへの資金調達を進めるため、千葉氏自ら大企業などへの営業活動に注力してきた。その経験から現時点の日本における「ドローン投資」へのセンチメントを次のように語る。

「ドローンファンド自体へは非常に興味を持っていただく場合が多いと感じます。ただ、実際の投資となったとき、まだ時期尚早なのではないかという反応も少なくないです。特に大企業でその傾向が見られますが、ネットなどデジタルテクノロジーに関わるひとたち、イノベーション側のひとたちはドローンの可能性を見出し、実際に資金を投じてくれています。また、先進的な大企業が数社ドローンファンドに投資してくれています。」(千葉氏)

ドローン空撮ではプロ級の腕前(千葉氏撮影)

チーム・ジャパンでドローン産業を盛り上げるエコシステム

ドローンファンドに組み入れられるスタートアップは現時点で11社。農業分野でのドローン利用普及を目指すDrone Japanやドローン宅配システム開発のKAMOMEYAなど、ハードウェア・ソフトウェアだけでなく、コアテクノロジー、そしてサービスと幅広いポートフォリオとなっている。ドローンファンドは、これらのスタートアップをどのようにテコ入れし、どれほどの期間での育成を目指しているのだろうか。

「ドローンファンドでは、リスクマネーを投資するだけでなく、経営者育成や技術支援も行う体制を整え、5年後の2022年頃までには存在感のある企業に育てあげることを目標としています」(千葉氏)

ドローンファンドでは、千葉氏だけでなく、日本マイクロソフト業務執行役員を務める西脇資哲氏などドローンと経営を深く知る人物がアドバイザリー・ボードに名を連ねており、経営者育成体制は非常に強固な印象を受ける。また、慶應義塾大学や研究者ネットワークプラットフォームとの提携もしており、技術面の支援体制も万全だ。まさに日本発のドローンスタートアップをチーム・ジャパンとして支えていくという千葉氏の考えが反映された体制といえるだろう。

ドローンファンドでは今後ファンドに組み入れるスタートアップの選定も同時に実施している。千葉氏によると、現在ハード、ソフト、インテグレーションなど幅広い分野で8社を投資対象として検討しているという。

 

選定基準、シード段階では「ドローンが好きかどうか」が重要に

ここで気になるのが、ドローンファンドのポートフォリオに組み入れられるスタートアップの選定基準だ。千葉氏は選定基準について次のように説明してくれた。

「投資対象の検討では、まず技術力を見ますが、同時に経営チームのチームとしての能力も見ています。あと、特に現時点、つまりシード段階で非常に重要になるのが『ドローンが好きかどうか』『ドローンに対して強い思いがあるか』というポイントです。ドローン市場が黎明期を抜け成長期に入るまで、苦しい時期が続くと思います。この時期は、ドローンが好きという思いがなければ、耐えきれない可能性が高いからです。しかし、スタートアップを立ち上げるひとたちのなかでドローン好きが増えていることは非常にうれしいことだと思います」(千葉氏)

ドローンファンド設立後、多忙になってもドローン操縦のスキルを維持するため月に一度は空撮に出かける

一方、千葉氏は今後のドローン産業には、純粋なドローン好きだけでなく、ビジネスライクにドローンを見れる人材も必要になってくると考えている。

「黎明期のいま、日本のドローンコミュニティを見ていると、まだ『村』の状態から抜け出せていない印象を受けます。つまり、まだコミュニティに広がりがなく狭い状況ということです。今後、ドローン産業が拡大するためには、もっと多様なひとびとがドローンコミュニティに入ってくるべきだと考えています。特に、ビジネスの視点からドローンを見れる人材です。人材の幅が広がることで、ドローンを軸にいろんな市場が立ち上がるはずです。ドローンコミュニティの『村』から『市』への進化ともいえます。ドローンファンドは、村の銀行として経済循環を促進し、市への進化を支える存在にしていく考えです」(千葉氏)

ドローンファンドの登場、そして千葉氏の言葉から、日本のドローン産業を取り巻く環境が変化しつつあることが見えてきたのではないだろうか。ドローン好き人材、ビジネスライク人材、そして千葉氏のように両方を兼ね備えた人材が増えていけば、日本のドローン産業が世界をけん引することも不可能ではないはずだ。