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「Hey Siri、今日の天気は?」
最初は「携帯電話へ話しかけるなんて・・・」と思った。それも今では毎朝の日課になっている。
かつて、2つ折りの携帯電話がタッチパネルのスマートフォンへとシフトし、ユーザーのファーストアクションが「指でタッチ」に変わった。最近では、ユーザーのファーストアクションが「話しかける」へとシフトしつつある。
「指でタッチ」という行動をユーザーに浸透させ、スマートフォンシフトの立役者をとなったのはAppleのiPhoneだった。現在、起き始めている音声シフトの本命はAmazonのAlexaだ。いわば、Alexaは、iPhone3Gのリリース直前の状態に近い。
ホームアシスタントとして基礎を固めたAlexa
Alexaは、音声経由でのデバイス操作や情報取得をサポートする「音声アシスタント」だ。2014年11月、「Amazon Echo」とともに発表された。
当時、Siri(Apple)、Google Assistant、Cortana(Microsoft)といった主要な「音声アシスタント」は一通りリリースされた後で、Alexaは完全に後発だった。
そこでAmazonは、他社の「音声アシスタント」と競合しない、家庭内で使うことに特化した音声アシスタント「ホームアシスタント」という立ち位置を選んだ。
Alexaがあれば、スマホを指で操作して行っていた作業を、Amazon Echoとの会話を通してできる。最新ニュースの取得から天気予報、テレビの音量調整など、あらゆる操作や情報の摂取を音声を通して実現することを目指した。
家中のあらゆるデバイスがインターネットと接続するスマートホームのムーブメントも、Alexaの動きを後押しした。
エアコン、テレビ、電球など、家の中のものがインターネットに接続可能になっていったが、これらのデバイスの操作はすべてスマートフォンを利用する前提となっていた。
だが、ユーザーは家の中で常にスマートフォンを持ち歩くわけではない。Alexaは、「話しかける」ことで各デバイスの操作を可能にし、家の中における“操作インターフェース”としての役割をスマートフォンから奪い去った。
Googleの約40倍。加速度的に成長したスキル数
Alexaの成長は、スキル数を確認するとわかりやすい。端的に言えば、「スキル」とはスマートフォンにおけるアプリのようなもの。Alexaのできること=スキル数と言っても過言ではない。
2016年1月にはわずか130しかなかったスキルだが、2016年11月に5,000を突破。2017年2月は10,000、 2017年7月には15,000までのぼっている。いまではAlexaを通じて、天気の確認や最新ニュースの読み上げから、エアコンの温度調整、電灯のON/OFF、車のエンジンスタート、ピザの注文、タクシーの迎車依頼まで、あらゆることが音声でできるようになっている。
音声アシスタントのリサーチを行っているVoicebotによれば、Googleが音声アシスタント「Google Assistant」に続き2016年にリリースしたホームアシスタント「Google Home」のスキル数は6月末時点でわずか378。Cortanaに至っては65しかないという。
「音声アシスタント」という広域ではなく「ホームアシスタント」という特化した領域で他社を凌駕する成果を残したAlexa。Alexaが次に狙うのは、競合他社と正面から殴り合うこととなる「音声アシスタント」でのポジションの確立だ。
ホームアシスタントを飛び出し、スマホへ搭載されたAlexa
Alexaは「音声アシスタント」としての確固たる地位を築くため、2つの要素を押さえようとしている。1つはデバイス面だ。2017年7月、HTCは同社のスマートフォン「HTC U11」向けに、Alexaをハンズフリーで利用するための専用アプリ「HTC Alexa」をリリースした。
これまでもスマートフォン上でAlexaを利用するためのアプリは展開されていたが、いずれも指を用いたアプリ操作が必要だった。今回のHTC Alexaは「Hey Siri」や「OK Google」のようにハンズフリーでの音声アシスタント操作を可能にする。
HTC Alexaの登場は、「音声アシスタント」の領域へ足を踏み込む姿勢を明らかにすることとなる。
現状、Alexaは「ホームアシスタント」としては他社を大きく引き離すが、「音声アシスタント」としてはSiriやGoogle Assistantから大きく引き離されている。ホームアシスタントとしてのスキル数は多くても、Alexaを通した音声操作に対応するスマホアプリ数では他の「音声アシスタント」に劣っている。HTC U11もそれはわかっているようで、AlexaだけでなくGoogle Assistantでのハンズフリー操作にも対応している。
現状のAlexaは、あくまで他の「音声アシスタント」に打ち勝とうというわけではなく、“併用”される前提での導入がまずは進むことが予測される。
Alexaに求められるのはApp Storeのような「マネタイズプログラム」
もう1つはマネタイズプログラムだ。Alexaにおけるマネタイズプログラムを考えるにあたっても参考になるのは、iPhoneにおけるApp Storeの動きにある。
前述したスキル数の増加変遷はホームアシスタントとしては素晴らしい成長曲線だが、Amazonがこれから挑もうとしているスマートフォンでの“アプリ”と捉えるとApp Storeには遠く及ばない。ここにはマネタイズの差があったからだ。
App Storeはリリース時からマネタイズプログラムを実装したことで、リリース1年後の2009年7月時点でアプリ数は65,000を突破。同年9月時点で有料のディベロッパープログラムには12万人ものユーザーが登録した。App Storeはアプリで一攫千金を夢見る人から大いに注目を集めた。
対してAlexaスキルの開発者は、これまでスキルを無償提供してきた。スマートホーム事業者のように、自社プロダクトを広げるためにAlexaスキルを開発する人もいる。ただ、Alexaスキルがいつかビジネスの種になるだろうと手弁当で開発している人も少なくないだろう。この期待をより高めていくことがスキル数の拡大に繋がっていく。
2017年8月、Amazonは「Alexa App Store」 における人気スキルに対して報酬が支払われるようになると発表した。報酬金額は非公開ながら、Alexaのスキルを開発する開発者にとっては少なからずモチベーションにはなるはずだ。
Alexaスキルの成長曲線の角度をさらに高めるためには、App Storeのような有料販売やスキル内課金といったマネタイズプログラムの導入が必要不可欠だ。Alexaスキルの開発がビジネスとして成立すると判断できる材料がそろえば、プレイヤーは急増する。現在の報酬プログラムはそのラインまでは達していない。
ただ、報酬プログラムの整備は開発者に対し報酬を支払わなければいけないというAmazon側の姿勢の表明ともとれる。今後そう遠くない未来にマネタイズプログラムの導入も期待できるのではないだろうか。
スマートフォンを含めたホームユースデバイス以外への対応、そしてマネタイズプログラムの進歩。この2つが揃えばAlexaのさらなる拡大が期待されるはずだ。iPhoneはデバイス単体の素晴らしさはありつつも、製品(2代目のiPhone 3G)のリリースと併せてApp Storeをリリースしたことが成功の要因になったといわれている。
Alexaにおいても、デバイスとAlexa App Storeにおけるマネタイズの実装、双方が成長には不可欠だ。この双方がそろったとき、Alexaは次のiPhoneとして音声領域を制するかもしれない。