2016年、訪日外国人の数は過去最高の2,400万人以上を記録した。都内で電車に乗っていても、大きなトランクを抱えた、いかにも観光中だとわかる外国人旅行客を日常的に目にする。そんな当たり前の風景を変え、観光体験をより便利にアップデートしようとする動きがある。
手荷物当日配送サービス「Airporter(エアポーター)」は、空港と民泊施設間に特化した当日配送サービス。Airporterが提携している民泊施設に泊まった旅行客がスマートフォンから注文をすると、配達員が民泊施設まで荷物を集荷しに来てくれる。旅行客は手ぶらで観光を楽しんだ後に空港で荷物を受け取れる仕組みだ。
同社は2017年4月にサービスを開始すると、民泊施設の提携数は都内300物件から3倍以上となる1,000物件を突破。2017年6月には民泊施設以外の宿泊施設と空港間の配送にも対応すると発表した。東京ディズニーリゾートエリアの宿泊施設と羽田/成田空港間、大阪市内宿泊施設と関西国際空港間からサービスをスタートさせるという。また、6月1日からは到着便の当日配送サービスも新たに追加され、行きも帰りも手ぶらで観光を楽しむことが可能になった。
民泊施設がAirporterと提携する費用はゼロ。荷物の預かりに対応することで他の施設と差別化できるうえ、宿泊客が移動する際にトランクを引く音による騒音の対策をすることも可能だ。Airporterは、チェックアウト後に観光を楽しみたい旅行客だけでなく、荷物の預かりに対応できず困る民泊施設側、両者のニーズに応えようとしている。
民泊では荷物を預けられないケースがある
同サービスの背景にあるのはLCCを利用する個人旅行客の増加だ。2016年に日本政府観光局が発表した統計によると、LCCの普及によって特にアジア地域で個人旅行者数が増えている。個人旅行者が民泊に泊まる場合、ホテルと違って荷物を預けられない場合が多々ある。
民泊施設では荷物を置けるスペースも限られているためだ。これまで訪日観光客は、数少ない駅のコインロッカーを運良く見つけるか、フライトまで大きなトランクを抱えて過ごす必要があった。手ぶら観光を支援するサービスが、こうした旅行客の観光体験を向上させることは間違いないだろう。
手ぶら観光の支援には政府も積極的だ。国土交通省は2020年までに訪日外国人旅行者が手ぶら観光できる環境整備の実現を目標に掲げている。同省から「手ぶら観光カウンター」の認定を受けた民間事業者は、整備や機能強化に対して支援を受けることが可能だ。
事業者として登録されているのは、佐川急便やヤマト運輸、HISなど、大手運輸会社や大手航空会社から、奈良県などの自治体まで多岐にわたる。「Hands-Free Travel」と銘打たれたページでは、荷物の当日配送が可能なサービスが一覧で紹介されている。
民泊ブームを作り出したAirbnbは「暮らすように旅しよう」を掲げている。観光のために用意された空間に限定されがちな観光体験に、現地の人と近い場所で過ごすという選択肢を与えた。自分がどう過ごしたいかに合わせて自由にカスタマイズする旅行のあり方は今後も広がっていくだろう。
Airporterと同様に手ぶら観光を実現する「ecbo cloak」は、預けたい旅行者と空きスペースを持つ店舗のマッチングサービス。気軽に荷物を預けられる便利さに加えて、旅行客と地元のお店の間に新たな接点も提供している。
荷物によって移動手段や目的地が制限されなくなれば、旅行客の行動範囲は観光地の外へと拡大していくかもしれない。手ぶら観光は利便性を向上させるだけではなく、旅の選択肢を広げることによって、旅行客に新たな観光体験をもたらしてくれるはずだ。