ハイテク義肢装具


ハイテク義肢装具とは、最新のテクノロジーで制作された優れた性能を発揮する義肢装具である。


身体の欠損を補う義肢装具の歴史は古く、1000年以上前から制作、使用されている。古代の義肢装具は木の棒を取り付けただけの簡素なものだったが、失われた足の代わりに体を支えるものとして重宝されてきた。医療の進んでいない時代は縫合や手術などで治療する技術がなかったため、手足に大きな傷を負った際には感染症による被害を防ぐため、手足を切り落とす処置が取られていた。


切断後は欠損部分を補うための義肢装具を装着していたが、その不便さを少々和らげられる程度の簡素なものであった。義肢装具は第二次大戦後の負傷兵のために研究が進められ、1950年台以降急速に発展した。木製中心から金属や樹脂が採用され、軽くて丈夫な義肢装具が次々と開発された。


ハイテク義肢装具が開発されたのは2000年台に入ってからである。それまでの義肢装具は欠損部分を補うもの、活動を補助するものとされてきたが、ハイテク義肢装具はそれ以上の性能を目指した開発が進められた。生身より強い力を発揮する義手、力強い脚力を生み出す義足など、従来の義肢装具とは全く異なる性能を持つハイテク義肢装具が次々と実用化された。


ハイテク義肢装具の開発を強力に後押ししたのがパラリンピックなどで活躍するパラアスリートの存在である。障害者スポーツの祭典であるパラリンピックは1960年の第一回からオリンピックと同じく4年に一度開かれていたが、注目度は高いものではなく、パラアスリートへの世間の関心も低かった。しかし地道な努力が実を結び、徐々に認知度が高まるとともにパラアスリートへの注目も高まり、好成績を残すパラアスリートがスター選手として人気と富を獲得するようになった。


将来的な成功を夢見るパラアスリートたちは成績向上のためにより高性能の義肢装具を求めるようになり、従来品を大きく上回る性能を有するハイテク義肢装具が生まれたのである。今日のパラスポーツではハイテク義肢装具の使用が当たり前になっており、選手の能力向上だけでなく、義肢装具の性能向上が成績を決めるカギとなっている。


ハイテク義肢装具の問題として「人体よりも優秀な義肢装具の使用は認められるべきか」という議論が盛んである。2014年にドイツで行われた陸上大会ではパラアスリートが健常者を上回る成績を出して優勝した。この結果に対してハイテク義肢装具によって出た成績を健常者と同様に扱うべきではないという意見が出され、大きな議論が巻き起こった。生身より義肢装具の方が優秀ならどう扱うべきか、というのは解決すべき大きな課題である。


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