「株主利益の最大化が企業の至上命題」ーーよく耳にする言葉だが、今はもはや金銭的利益だけを追い求めるようでは、企業の持続的な成長は見込めなくなりつつあるようだ。

ミレニアル世代のビジネスパーソンを対象に米American Expressが行った調査では、対象者の74%が「ビジネスを成功させるには、上辺だけでなく人びとが共感できるような使命が必要」と回答。つまり、今企業に必要とされているのは、株主や社員だけでなく、顧客までもが共感できる「ビジョン」。

これまで、企業と社会の関わりというものはCSRの文脈で取り沙汰されることが多かったが、これからはビジネスそのものと社会的な意義とが、密接にリンクしていなければならない。

では、企業は具体的にどのようにアクションを起こすべきか。そのヒントは、数々の環境保護活動で知られるアウトドアブランド「パタゴニア」が、顧客とともに社会的課題を解決していくため開発・リリースした「マッチングサイト」にある。

パタゴニアの顧客と環境保護団体とをマッチング

「マッチングサイト」と聞くと、Tinderやペアーズなど男女の出会いを促進するサービスを思い浮かべるかもしれないが、パタゴニアが運営する「Patagonia Action Works」の目的は、「消費者と自然保護団体に」出会いの場を提供すること。

サイトで自分の居住地を入力し、「土壌」「水」「気候」「コミュニティ」「生物多様性」の中から興味のあるテーマを選択すると、居住地の近くでそのテーマに関連して活動する団体やイベントの情報が地図とともに表示される。

こうして個々の団体、活動の存在をパタゴニアが拡散することで、消費者、特にパタゴニアの顧客が興味を持つきっかけを作るとともに、署名や募金、ボランティアとしての参加を促そうとしているのだ。

社員だけじゃない、顧客もみんな「パタゴニア」の担い手

自然保護とパタゴニアというブランドは切っても切れない関係にある。同社はこれまでにも、自然保護を目的としてさまざまな施策を打ち出してきた。

例えば、1993年にスタートした「環境インターンシップ・プログラム」では、社員が最長2ヶ月間職場を離れ、給与と福利厚生を受けながら各自が選択する世界各地の環境保護グループの活動に参画する機会を提供している。

さらに遡り、1985年からは「環境助成金プログラム」を通じて、売上の1%を世界各地の環境団体に寄付している。その総額は、約9000万ドルに上る。


パタゴニアが毎年発行する環境レポートには、支援先の情報やプロジェクトのアップデートが掲載されている(2017年のレポートより)

このたびローンチされたPatagonia Action Worksについて、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)氏は次のように語る

「よく目をこらして見てみると、地球の環境はあまり良くない方向に進みつつあると気づくだろう。将来を考えると暗い気持ちになってしまいそうだが、私はいつも、気持ちが落ち込むのを防ぐためには何かしらのアクションが必要だと考えている」

さらに、パタゴニアという企業の存在意義は、政府や他の企業が自然保護に向けた具体的なアクションを取るよう働きかけることだ、とも。彼は、今回リリースしたPatagonia Action Worksを通じて、そのアクションの輪を顧客にまで広げようとしているのだ。

パタゴニアで環境活動担当VPを務めるリサ・シーヒー(Lisa Sheehy)氏も同サイトについて、「パタゴニアのコミュニティーと各地の自然保護団体を直接結びつけられれば、もっと多くのことを達成できるようになるだろう」と語る。

消費者は企業のスタンスを知りたがっている

パタゴニアの自然保護への姿勢は常に一貫している。

昨年末、トランプ米大統領がユタ州にあるナショナル・モニュメント(国定記念物)の指定範囲を縮小すると提言したところ、猛反発。同社のウェブサイトのトップページに「The President Stole Your Land(大統領が国民の土地を盗んだ)」というショッキングなメッセージを掲載した。

ここまで大胆に政治的なメッセージを発信するブランドがあるのか、と驚くかもしれないが、実はパタゴニアだけが例外というわけではない。


パリ協定離脱を非難するティファニーのInstagramへの投稿

ティファニーもまた、トランプ大統領がパリ協定離脱を表明した際に、「Dear President Trump(トランプ大統領へ)」という本人宛のメッセージをインスタグラム上に投稿。

他にも、コカ・コーラとAirbnbがスーパーボールの決勝で多様性をテーマにしたコマーシャルを放映、中東諸国の市民に対する入国禁止例への反発だったと言われている。

これらの出来事について、クリエイティブ・エージェンシーRYOTの共同創業者モリー・ディウォルフ・スウェンソン(Molly DeWolf Swenson)氏は、ADWEEKの記事で次のように解説した。

「消費者は、DACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)の撤廃や銃規制、女性の出産の権利などについて、ブランドがどう考えているのか知りたがっている。もはや、他の企業がどちら側につくかハッキリするまで中立を保つことなどできない。ブランドにはただ指をくわえて待つのではなく、社会的にプラスとなるアクションを起こすことが期待されている」

実際、マーケティング会社Edelmanが発表したレポートによれば、消費者の57%がブランドの社会問題に対するスタンスが自らの購買活動に影響を与えると回答している。ミレニアル世代に絞ると、その数は60%にまで達する。

消費者は、自分の愛用するブランドがどのような社会を実現しようとしているのか、つまり、ブランドが持つビジョンを強く意識し始めている。顧客を失うことを恐れ、日和見主義に走ると、逆に半数以上の消費者から見捨てられてしまう可能性があるということだ。

今後、企業はますます「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という事実を意識しなければならない。あなたの企業のビジョンは、何だろうかーー。

【関連記事】

文・写真:行武温、編集:岡徳之(Livit