INDEX
プラスチック製品の過剰利用は、海洋プラごみ問題、埋め立てによる土壌汚染、焼却処理による空気汚染などさまざまな問題を生み出している。
世界経済フォーラムなどでも主要議題になるほど深刻化しているプラスチックごみ。危機的な状況は、連日各国メディアが報じ、世界中でレジ袋の廃止や有料化も進んでいる。いま人類が直面している問題、解決策はあるのだろうか。
新しいコンセプト、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)
ごみ問題を解決する革新的コンセプトとして現在、注目が集まっているのがサーキュラー・エコノミーだ。このビジネスモデルは、これまでのリサイクルから一歩先を行くコンセプトで、「無駄を富に変える」とも称される経済モデル。産業革命以来の変革モデルとして、その可能性が精査されている。
これまでのリサイクルは、コストが高くつき、再生した製品の価値が下がる「ダウン・サイクル」であることも少なくなかった。大きく収益が期待できないため行政が主体のものや、大企業が企業イメージのアップや社会貢献のためにするもの、と見る向きさえあった。
そこで発案されたのがサーキュラー・エコノミーだ。その名のとおり、循環し持続できる経済、つまりこれまでの消費パターン、資源→製品→廃棄ではなく、循環パターン、資源→製品→再利用→再々利用のサークルを生み出すことだ。
再利用と言っても再製品化(リサイクル)による再利用だけではなく、破損した箇所を修理して利用する再利用や製品を分解して分配する再利用もある。最終的にごみとして廃棄されるものと、無駄を減らしていくのが、このコンセプトの根幹にある。限りある資源を無駄遣いしないので、環境問題にも有効だ。
またサーキュラー・エコノミーはモノの利用だけに限らず、遊休資源(平日に稼働していない自家用車や家屋など)を有効活用する、シェアライドやAirbnbなどといったシェア・ビジネスにも適用できる。
プラスチックを木材に変えるGoodwood Plastic社
カナダのGoodwood Plastic社は、この循環型経済のプレーヤーとして熱い視線が注がれている。
2018年創設の、カナダの東端にある人口42万人ほどの町ハリファックスに位置するこの企業は、産業ごみの管理や収集・リサイクル、環境に配慮したリサイクリング活動、環境へのインパクトを最小限に抑えたサステイナブルなごみの廃棄を行う、次世代廃棄物マネジメント会社。
公共の場に捨てられるプラごみ問題の解決に一役買うことを企業目標としている。
今注目されているのは、Goodwood Plastic社が造りだしているプラスチックごみ由来の建材だ。同社におけるプラスチックごみから建材を生み出すプロジェクトによって、ハリファックス市で排出されるごみの80%が回収、再利用されている。
回収されたプラごみは代替木材や埠頭の合成木材、ガードレール、農業杭などに再生されている。この素材は木材同様に釘打ちやドリル、成形も可能。
プラスチックの塊で出来ているので、本物の木材よりも高密度で、重く、硬くて丈夫な上に劣化に強いという優れモノだ。
緊急に必要なプラスチックごみ処理問題
この動きが始まったのは2017年、中国が外国からのごみ輸入をストップしたことに始まる。
これまでごみを輸出してきたアメリカやイギリス、オーストラリア、日本はごみの行方が無くなり方向転換を余儀なくされている。
リサイクル可能な廃棄物をリサイクルに回す余裕がなくなり、埋め立てや焼却処分にせざるを得なくなっただけでなく、リサイクルされて再輸入された素材を利用した製品の行程が崩壊する危機にすら面している。
消費者の我々が気づいていないだけで、リサイクルとして分別されているごみは、実は他国に輸出されていた、言い換えれば他国に押し付けられていたという事実があるのだ。入念に分別していたプラスチックごみが、実は国内で再生されていなかったとは恐らくほとんどの人が気づいていないだろう。
OECD(経済協力機構)各国の1人1日あたり平均的ごみの排出量(単位はKg)日本人は1日平均1㎏のごみを排出
ハインリヒ・ベル財団、ならびにブレーク・フリー・フロム・プラスチック運動が2019年4月に発表した「プラスチック・アトラス」の報告書によると、世界最大級のプラスチック廃棄物を輸出しているのはイギリスとアメリカ。
2018年の統計で、イギリスは約43万トン、アメリカは79万トンを主に東南アジアへと輸出した。イギリスに至っては、再生可能なプラスチックのそのほとんどを輸出していたということも判っている。
プラスチックのゴミやその他のごみの排出が多いのは、収入の多い国に多く見られ、トップはデンマーク、スイス、アメリカとニュージーランドが占め、1人1日あたりほぼ2㎏の統計だ。これがすべてリサイクルされていないと言っているのではなく、これだけの量のゴミが出る消費活動をしているという統計だ。
こうした状況を解決するには、行政の規定が不可欠ともいわれている。例えば「廃棄税」のシステムは、ごみ箱ごとの税金、レジ袋への課金、またはゴミの重さによる税金で、大幅なごみ削減に一役買うと言われている。
例えば1995年に韓国政府は、ごみ袋を有料化し、この袋を利用しなければ回収しないシステムを構築。すると1994年には1日1人当たり1.3㎏だったごみの排出量が2014年には0.95㎏に減少した。
同期間のリサイクル率は15.4%から59%に上昇、さらに2013年には生ごみ分別プログラムを施行すると、1994年に97%だった廃棄食物の埋め立てが2014年には2%に減少したというデータがある。
IMFの報告書では、このようなアクションが起こされなければ、2025年までに現在のごみ排出は倍の23億トンに達すると警鐘を鳴らしている。
プラスチック製品の一生
人類が過去70年もの間その便利さを享受してきたプラスチック製品。われわれの生活は実に大量のプラスチック製品に囲まれていることに気が付く。
レジ袋や包装紙だけではない。マイクロファイバー製の衣服、スクラブ入りの洗顔料、携帯電話、車、食品のパッケージ、飲料容器、と世界では年間4億トン位以上のプラスチックが製造され、そのほとんどが個人消費によるものだ。
もちろんプラスチック業界の言い分もある。正しく使用し、きちんと回収できればプラスチックを「ごみ」扱いして悪者になることはないというもの。
プラスチック製品がこの世の中から無くなれば、介護に必要なストローや子供用のプラスチック製の食器、食品トレーやラップがなくなれば大量の肉や魚が腐り、食品ロスが発生する懸念もある。
プラスチックは軽くて製造コストが安く、成形が楽であるため非常に便利なことに疑いはない。それゆえに、残念ながら埋め立て地や回収の最中に風に飛ばされ、雨に流され、河川や海といった水辺へと行きつく運命でもある。
このような製品寿命の短いプラスチック製品が主な海洋汚染の元凶となっていることはいまさら言うまでもないだろう。
1年で約800万トンのプラスチックごみが海に流出しているという国連環境プログラムの統計がある。海や川に流れついたプラスチックのごみは、有毒物質を吸着し、魚や海鳥、ウミガメが食べる。それをさらに大きな魚などの生物が食べるなどして、最終的には食物連鎖の頂点にいる「人間」が口にすることになる。
大まかに言って、人間の捨てたプラスチックごみの悪い部分をギューッと凝縮したものを人間が体内に入れていると考えるとどれだけ恐ろしいことだろうか。
そして、これまでと同じペースで海に流出するプラごみが増え続ければ、2050年にはプラスチックごみが世界中の海の魚よりも多く海中を漂うことになるという試算もある。
プラスチック製の木材で生まれ変わる
Goodwood Plastic社の代替木材
前述のGoodwood Plastic社が生みだすプラスチック製の代替木材は、革新的な建材であるが実は木材よりも販売コストが高価だ。しかし耐久性が良いので、雨風に打たれて腐ることも少なく、メンテナンスも簡単、長持ちするのが特徴。
これを同じくハリファックスに拠点を置くLakeCity Plastic社が屋外用ピクニックベンチやテーブルといった製品に完成させている。なおこのLakeCity Plastic社は、心の病を抱える人たちの雇用を支援する企業だ。
さらにこれを、カナダで最初にレジ袋の廃止を打ち出したスーパーマーケットチェーン「Sobeys(ソビーズ)」がハリファックスのウォーターフロント公園に寄贈。今年中にさらにノヴァスコシア州の各公園に順次寄贈予定と発表している。
最初に寄贈された20人掛けのピクニックテーブルは、6万枚分の回収レジ袋から造られ、レジ袋を廃止したことでソビーズは、全国255店舗で使用されていた2億2千万枚余りのレジ袋を廃止できるとしている。
地元の企業が力を合わせて、リサイクルを市民へと可視化したもので、「地球環境を守るため、各国や他の企業が同様の試みをしてくれることを望んでいる」としている。
環境保護に積極的なソビーズ社は他にも、ティンバーリーに完成した新店舗の駐車場を、国内初の「再生利用プラスチック」で完成させている。もちろん、前述のベンチも同店に設置している。
アスファルトとレジ袋600万枚を混合させた素材で造られた駐車場は、通常のアスファルトよりも耐久性が高いとされ、今後道路の舗装に活用できることが期待されている。
試される政府と大手企業のイニシアチブ
ハリファックスの例は行政と地元の企業が連携し、成功した好例だ。
行政がプラスチックごみの回収を徹底し、環境問題に前向きで資金に余裕のある企業が、地元の革新的企業の造りだした廃材のリサイクル素材に着目、社会福祉に前向きな家具製造会社に依頼した製品を買い取り、寄付することによって町と市民に見える形でのリサイクル還元をした。
Goodwood Plastic社が言及している通り、廃プラスチックから造られる代替木材は、木材よりも高価である。森林資源が豊富な日本では、木材が主流であるが、すでにプラスチックと木粉を混合させた複合素材「ウッドプラスチック」が開発されている。
日進月歩の改良も進められているので、今後低コスト化が実現し広く普及する日も近いかもしれない。
世界各国、政府、そして企業が後回し、後回しにしてきた環境問題に、大きな投資が必要になって来るのは明白だが、最初に実行するのは誰になるのか。
ごみを分別しただけで再生可能な素材はすべてリサイクルされていた、と信じ込んでいた我々も一歩踏み込んで自分が生みだすごみの行方について考える、意識改革が求められている。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)