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年65%で成長するポッドキャスト市場、2021年には1,000億円超え
テレビや新聞など「レガシーメディア」の衰退が顕著になる一方、YouTubeなど「ニューメディア」は右肩上がりの成長を続けている。そんなニューメディアの中でも特に著しい成長を見せるのがポッドキャストだ。
オンライン広告の国際業界団体IABとPwCが2019年6月に発表したレポートによると、広告収入額で見た米国のポッドキャスト市場は2015年、1億570万ドル(約116億円)にとどまるものだったが、年平均65%という驚異の成長率を見せ、2018年には4億7,910万ドル(527億円)に達した。
今後も成長率は衰えることなく、2019年は6億7,870万ドル(約746億円)、2020年には8億6,340万ドル(約950億円)、2021年には10億4,480万ドル(約1,148億円)に拡大すると予想している。
人々はポッドキャストで何を聞いているのか。
同レポートの分析によれば、ポッドキャストの人気ジャンルトップは「ニュース・政治・時事」。次いで「コメディ」「ビジネス」「教育」「アート・エンタメ」などが並ぶ。
ニュースというと、ウェブメディアの記事を読むという人は多いかもしれないが、音声で聞くという人も増えているのだ。
これは、ポッドキャストでニュースを聞きたいという需要が拡大していることに加え、ポッドキャストでニュースを配信する供給者(ジャーナリストなど)が増えていることを示唆している。また同時に「オーディオ・ジャーナリズム」が盛り上がりつつあるということも示唆しているといえるだろう。
2020年からポッドキャスト報道も「ピューリッツァー賞」の受賞対象に
2020年以降、オーディオ・ジャーナリズムはメインストリームになる可能性がある。報道などの功績を称えるピューリッツァー賞で今年新たに「Audio Reporting(音声報道)」部門が設置されたのだ。
新聞・出版業で財を成したハンガリー生まれの米国人ジョーゼフ・ピューリッツァーの遺志によって1917年に創設されたピューリッツァー賞。
米国におけるジャーナリストの功績を称える賞で、英語圏では毎年大手メディアがその受賞者に関するニュースを大々的に報じる一大イベントになっている。2019年には4月15日に受賞者が発表された。
2019年は21部門で賞の授与が行われた。21部門のうちジャーナリズムが占めるのは14部門。このほか6部門が文学・戯曲に、1部門が音楽に割り当てられている。
報道部門を構成するのは、公益部門、ニュース速報部門、解説報道部門、ローカル報道部門、国内報道部門、国際報道部門、特集報道部門、解説部門、批評部門、社説部門、時事漫画部門、ニュース速報写真部門、特集写真部門。2020年ここに「音声報道部門」が加わることになる。
ピューリッツァー賞・理事会は、音声報道部門は2020年の賞で「試験的」に導入するものであり、2021年以降に継続するかどうかは今回のでき次第と説明。どのような音声報道が受賞するのかということに加え、音声報道部門が継続されるのかどうかにも注目が集まりそうだ。
ピューリッツァー賞を運営するコロンビア大学
音声報道部門に参加できるのは新聞、雑誌、通信サービス、オンラインニュースで、いずれも米国のメディア組織であることが条件となる。番組は2019年中に放送・配信されたものが対象。参加受付開始は2019年12月16日、締め切りは2020年1月24日。賞の発表は2020年4月に予定されている。
月間アクティブユーザー2億4,800万人のスポティファイもポッドキャストに熱視線
今後のポッドキャスト市場の動向を知る上で外せないビッグプレイヤーの1つがスポティファイだ。月間アクティブユーザー2億4,800万人、有料会員1億1,300万人を抱える同サービス。音楽ストリーミングが主な配信作品であるが、このところポッドキャストに多大な投資を行っている。
スポティファイは2019年2月、ニューヨークのポッドキャスト番組制作会社Gimletを2億3,000万ドルで買収することで合意したと発表。また同年3月には犯罪ドラマ番組制作に強みを持つポッドキャスト制作会社Parcastを買収した。
Gimletウェブサイト
また同社はポッドキャスト向けの広告テクノロジーの開発にも力を入れている。2020年1月には、同社プラットフォームでのみ機能するポッドキャスト向けのアドテク「Streaming Ad Insertion(SAI)」を発表。
ポッドキャストはダウンロードされ視聴されるメディアであるため、広告インプレッションが起こったのかどうかを知ることは難しいとされるが、SAIはその問題をクリアするものだと謳っている。
新しいメディアであるポッドキャスト。その広告効果について未知の部分があり広告出稿をためらう企業は少なくないと考えられるが、SAIによって広告効果が明らかになることで、出稿企業の増加が見込まれる。そうなるとポッドキャスト市場全体も一層活性化することになるはずだ。
ヘッドホンにオーディオブックなど、ポッドキャスト以外でも盛り上がる「音」関連市場
ポッドキャスト市場の盛り上がりをより広い視点で捉えると、それが「音」に関する市場の盛り上りの一角であることが見えてくる。
たとえば、ヘッドホン市場。デロイトによると、米国のヘッドホン売上高は2018年に前年比27%増となる200億ドル(約2兆2,000億円)に拡大。また米国のオーディオブック市場も年20〜25%の成長率で拡大しており、2020年には15億ドル(約1,650億円)に達する見込みという。
オーディオブックに関して、米国に次ぐ市場は中国。中国オーディオブック市場は2017年の4億5,000万ドル(約495億円)から2020年には10億ドル(約1,100億円)に拡大すると予想。
デロイトのまとめでは、オーディオブックの世界市場規模はおよそ35億ドル(約3,800億円)。米国と中国がそのうちの75%を占める。現在米国のオーディオブックリスナー数は7,300万人、中国は3億5,000万人ほどと推計されるという。
オーディオブック市場の拡大要因の1つに挙げられるのがスマートスピーカーの普及だ。また「ストリーミング・ブックス・オンデマンド(SBOD)」サブスクリプションサービスもオーディオブック市場の拡大を後押しする要因になっているという。
ポッドキャストやオーディオブック市場の盛り上がりは、より多くのクリエーターの参入を招き、「音声」の特性を生かしたメディア作品・番組は一層多様化することになるはず。
今後どのような作品・番組が登場するのか、またピューリッツァー賞・音声報道部門でどのような報道が受賞するのか、2020年音声メディア市場から目が離せない。
[文] 細谷元(Livit)