フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが、第二子出産の折に育児休暇を取ったことは記憶に新しい。誰よりも多忙な立場にあるはずの彼が、短期間とはいえ、仕事より家族を選んだことは世界中を驚かせた。一昔前なら考えられない選択だっただろう。

1980年代初め〜1995年頃までに生まれたミレニアル世代。1984年生まれのザッカーバーグも、これに該当する。幼少期よりテクノロジーに親しんできた彼らは、従来の価値観を覆し、流行や消費に多大な影響を及ぼしてきた。

そんなミレニアル世代も30代に差し掛かり、子を持つ親世代になりつつある。自らの生き方を尊重し、働き方に対しても多様性・柔軟性を求める「ミレニアル・ペアレンツ」。今やアメリカの労働力の1/3以上を占めるミレニアル世代の声は、企業の出産・育児支援策にも影響を与え始めている。

女性の産後離職率は34%。ワークライフバランスの厳しい現実

現在、米国ミレニアル世代女性のうち、子どもが生まれ親となった数は1,700万人以上。2016年には総出産数の82%をミレニアル世代が占めたという。

アメリカでは労働人口の約半数を女性が担っている。結婚、出産、子育てというライフイベントにおいて、女性は男性以上に負担が大きく、独身の時のように100%の状態で働くことができない時期は、皆等しく訪れる。

しかし、職場におけるそれらに対するサポートは、まだ十分ではないようだ。妊娠・出産などに関するデータ分析会社のOvia Healthは、米国で働く女性の意識調査(2017年)を実施した。

その結果によると、女性が会社に求める福利厚生やサービスと実情の間には、かなりのギャップがあることが判明した。

レポートによると、女性の34%が産後に仕事を辞めると決めており、67%が現在の職場で子育てをしながら働くことは難しいと考えていることが明らかになった。

有給休暇、在宅勤務やパートタイムを含めた柔軟な働き方、出産や育児への助成金など、女性が求める支援は多岐に渡る。その中で最も需要と供給に乖離が見られたのは「社内での保育サービス」である。

会社内に託児所を希望する女性は69%に上ったにも関わらず、実際にそれを設置している会社は全体の6%であった。

女性の社会進出が当たり前の現代ですら、依然「働き続けられない」職場環境がまかり通っているのが、現実のようだ。

育児しにくい職場なら退職も辞さない。ミレニアル・ペアレンツの「働き方改革」

ミレニアル世代は、上の世代に比べてジェンダーに対する意識がフラットである。

ニューヨークカレッジセンターのリサーチによると、子を持つミレニアル世代の父は、パートナーと平等に育児に関わることを希望しているという結果が出たという。また、女性は子供や家庭のことだけでなく、自身のキャリアも大事にしたいと考えている。

「男性が稼いで女性が家を守る」という旧来の価値観から離れ、男性も女性も等しく育児や仕事をこなし、自分たちらしく無理なく生きることが、ミレニアル世代の望むライフスタイルかもしれない。

育児や介護など、家族のケアをしながら働く人を応援するポータルサイト「Care.com」の調査によると、家族支援の福利厚生が充実している企業があれば、今の会社を辞めて転職したいという人が62%もいるという。

また、フレキシブルな勤務体系などワークライフバランスに理解のある会社への転職希望者は、全体の3分の2にも上っている。

お金のためなら家族を犠牲にしてでも会社に尽くす、という昔ながらの働き方は、ミレニアル世代には通用しないのだ。企業利益だけではなく、社員の「ライフ」そのものを包括的にケアする企業こそが、今後生き残っていくのかもしれない。

デジタルツールを駆使して仕事も育児も両立する

これまでなら難しかったリモートワークや遠隔での共同作業も、デジタル技術の発展により可能となった。ミレニアル世代の働く親たちは、これらを「当たり前」に活用して、仕事と育児の両立を図ろうとしている。

アプリでスケジュールを管理し、ミーティングはウェブ会議で行う。議事録はドライブに直接書き込めば、瞬時に共有できる。職場に毎日足を運ばずとも、家事育児をしながらスムーズに業務を遂行することも可能なのだ。

今後はさらに機能の進化したツールも出てくるかもしれない。企業側は、これらを積極的に取り入れ、より柔軟な働き方を模索する必要があるだろう。

代理母出産、養子縁組、不妊治療。多様化する育児支援

女性の産休・育休制度に加え、最近は男性に対する育児休暇制度を設置する企業も増えてきている。日本でも「イクメン」という言葉が日常的に使われるようになり、男性の育児参加は当たり前という意識も、だいぶ定着してきた感はある。

しかし、多様性という面では米国は優っている。代理母出産や養子縁組、不妊治療に対する休暇や支援金を支給する企業も出てきているのだ。同性カップル、未婚のひとり親、出産はせずに養子を取る夫婦など、家族の形は多様化している。

また、支援は出産前後や子供が小さいうちだけでは不十分だ。子育ては20年近くも続くのである。自閉症の子供の治療、学校の授業料の一部負担など、息の長い支援制度を持つ会社もある。

優秀な社員には愛社精神を持って、長く勤めてもらいたい。そのためには、柔軟で長期的な支援策を講じなければならない。

育児・家族支援が充実している、アメリカの企業ランキング

米国の働く母親向け雑誌『Working Mother Magazine』が毎年行なっている、「働く母に優しい企業ベスト100」。約200万人の被雇用者が、育児支援や従業員の家族に対するサポートが充実している企業を投票する。ここでは、過去3年のランキングでトップ10に入った企業の一部を紹介しよう。

デロイト

世界最大級の会計事務所デロイトの社員は、年間最大30日間の有給休暇が支給される(翌年への持ち越しも可能)。その他、柔軟な勤務スケジュール、長期休暇、健康のための2日間の休息日、マッサージや瞑想などを受けられる健康補助金などのサポートがある。

アステラス製薬

2019年度のランキングでは、日本のアステラス製薬が初めてトップ10入りをした。社員の家族(子供、配偶者、高齢の親など)へのサポートシステム「StarLIFE Family Care Solutions」が評価された形だ。

サービスには子供への無料個別指導(幼稚園から大学まで)、大学入学サポート、高齢者介護と生活支援などを含み、2015年のスタート以来2,000人以上の社員が利用している。

アーンスト・アンド・ヤングLLP

ロンドンが本拠地の大手コンサルティング会社アーンスト・アンド・ヤングLLPでは、16週間の全額有給の育児休暇、最大25,000ドルの養子縁組費用を支給。不妊治療や代理出産の費用も一部カバーする。また、社員は毎年3週間の休暇、3日間の個人休暇、10日間の有給休暇を取得できる。

プルデンシャル・ファイナンシャル

プルデンシャル・ファイナンシャルでは、母親は8週間の有給休暇、父親・養父母は4週間の有給休暇が支給され、子供を持つすべての社員は22週間の休暇を取得できる。また、同社の多くの社員がフレックスタイムまたは在宅勤務を利用している。

マッキンゼー・アンド・カンパニー

世界中に100以上の支店を持つ、大手コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、16週間の出産休暇を父母ともに支給している。(代理母出産などで本人が出産しない場合は8週間)また、プロジェクトの合間には10週間の休暇を取ることが可能。

ワークライフバランスを取るため、育児中の社員には、過剰な出張や無理な昇進が適用されないよう配慮されている。

ジョンソン・エンド・ジョンソン

ベビーオイルやパウダーなど多くのベビーケア製品を手がけるジョンソン・エンド・ジョンソンの幹部は、約40%を女性が占める。

同社では全社員に年間40時間の有給休暇、養子縁組および代理出産支援金を子供1人あたり最大2万ドル、出生支援金を最大3万5,000ドル約束している。これらはもちろん同性カップルにも適応される。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit