世界的に盛り上がりを見せる「eスポーツ」。特にZ世代に人気が高く、プロトーナメントで活躍するプレーヤーへの注目度は非常に高いものとなっている。

その勢いはとどまるところを知らず、eスポーツの影響は関連イベントやトーナメントの範疇だけではなくなってきている。スポーツブランド、アクセサリー、メイクアップ製品まで、各ブランドがゲーマーだけでなく一般のZ世代へのブランド浸透に、eスポーツインフルエンサーを起用してきている。

今回は、eスポーツの急成長、eスポーツインフルエンサーの影響力、そして最近増えているブランドとのコラボ最新動向をお伝えする。

爆発的なeスポーツの成長性

韓国、中国、ヨーロッパ、米国などのファンが、オリンピックサイズのスポーツスタジアムに集まって、プロのゲーマーが何百万ドルもの賞金を競うのを見る。その状況は世界各地でリアルタイムにストリーミングされ、世界中のファンが見守る。毎年その数は平均15%増の割合で成長している。

今年2019年の時点で、eスポーツの世界的なファン層は約4億5,400万人と推定されている。これは日本の総人口の3倍以上だ。

その内2億人強はeスポーツの熱狂的ファンと言われている。そして彼らの過半数を占める57%は、アジアパシフィックエリアに集まっているとeスポーツとゲームに特化した調査分析会社Newzooは発表している。

そのような巨大な特に若い視聴者群をもつeスポーツの市場は、広告、スポンサーシップ、放映権、関連商品、チケット販売、ゲームパブリッシャー料金の売上高を含み10億ドルを超えて、世界的なエンターテイメント市場として台頭している。

特に1990年後半以降に生まれたZ世代といわれる若い視聴者にとって大きな影響力がある。

従来のテレビ広告からデジタル広告に移り、さらにソーシャルメディアでのインフルエンサー・マーケティングに移行している広告業界が、Z世代やそれ以前の若者にアクセスするのにとても有効と認識し、注目を集めている。デジタルとスポーツが出会い、そしてそれにインフルエンサー・マーケティングが加わったのだ。

eスポーツインフルエンサーの影響力

たとえば、人気ゲーム「フォートナイト」で一躍有名になったゲーム・ストリマーのNinja。彼はTwitchというゲームのストリーミングサイトで現在1,300万人以上のフォロワーを持つ。

それだけでなく、YouTubeアカウントでは2,200万人以上のフォロワーがいる。彼がどれだけの(特に若い層に)影響力をもつかのすごさが分かる。

NinjaはInstagramでも同程度のフォロワー領域を保持しており、約1,230万人のフォロワーがおり、Twitterのフォローは他のプラットフォームより低く400万人だが、それでも他の多くのインフルエンサーよりもはるかに大きいファン層を持っている。

もう一人紹介するeスポーツインフルエンサーと、アメリカのビデオ・ストリーマーShroud。彼もTwitterでは600万人近くのフォロワーがいる。YouTubeのチャンネル登録者は420万人、何百万回の再生回数を誇る。Shroudはまた、TwitterやInstagramでも約100万人のフォロワーを抱えている。

こうした様々なソーシャルメディアの媒体に、多くのフォロワーを持つeスポーツインフルエンサーの影響力に、Z世代にリーチしたいリテールブランドが目を付けた。

彼らの広告は、18歳から25歳までのZ世代が、従来のスポーツを観戦するよりもYouTubeやTwitchのようなオンラインストリーミングプラットフォームでゲーマーを見る時間を費やしているときに、放送される。

Twitch自体では毎日1,500万人以上のアクティブユーザーを誇っており、この数字はゲーマーだけでなく様々なライブストリーミングのカテゴリ全体の視聴者総数を表している。

更にモバイルゲームなどゲームの多様化により、ゲームは「男の子が暗い部屋で一人でしているもの」という定説は、崩れてきている。

インフルエンサー x ブランドコラボの最新動向

前述のNinjaはYouTubeで、Samsung等ブランドを宣伝するスポンサーコンテンツを作成している。TwitchでもRedBull等、非ゲームブランドのスポンサーコンテンツを作成することでも知られている。

2019年8月に彼はアディダスと数年にわたるパートナーシップを結び、eスポーツのインフルエンサーとしてスポーツウェアブランド向けの最初のコラボレーションを樹立した。

その他スポーツウェアブランドがeスポーツの影響を利用した例として、フットウェアブランドK-Swissは2018年にeスポーツチームImmortalsにブランドの靴を供給する契約を締結。

2019年前半に中国でナイキは、League of Legends Pro League(LPL)プレイヤーの公式専属ユニフォームおよびフットウェアパートナーになる契約を締結している。

同社は、LPLプレイヤーのJian“ Uzi” Zhaoを、バスケットボールセレブのLeBron Jamesと並んでキャンペーンの1つに出演させている。

さらに、これらのeスポーツ・インフルエンサー・マーケティングの対象は、通常のeスポーツやビデオゲーマーに広告を出すブラ
ンドに限定されなくなってきている。

2019年2月のバレンタインデー。香港を拠点とする高級ジュエリーのChow Sang  Sangは、中国のTencentモバイルゲームHonor of Kingsと提携して、ゲームをテーマにしたネックレスとブレスレットを発売した。女性消費者にゲームを通じて製品をアピールしたのだ。

中国で総合ブログサイトWeiboは、2018年のHonor of Kings プロリーグ試合の63%は女性だったと試算していることからも、このマーケティング戦略が間違っていなかったことを表している。

化粧品メーカーMACは、ゲーム内の5人の異なるキャラクターに基づいた口紅のセットを作成、販売している。これは、Z世代プレイヤーが、キャラクターの仮想リップカラーをカスタマイズする際に、すでにブランドを認知しているという事実に触発されたアイデアだ。

さらに女性ゲーマー出身者が、独自の美容製品を発売するケースもある。 2019年3月FortniteとLeague of LegendsのストリーマーPokimaneは、メイクアップブランドのWinky Luxとのコラボしアイシャドウパレットを発表、独自のサイバー風の製品ラインアップをファンに提供した。

彼女は2019年9月の時点で390万人のInstagramフォロワーを持っており、元はゲーマーとして有名になったものの、「今日のコーディネート」のフィードから彼女の猫の独立アカウント、そして恋愛関係から世界旅行のアドバイスまで、あらゆる話題を含めた彼女の動画ブログなどを発信する彼女は、Z世代ファンを多く集めるインフルエンサーといえる。

数百万人規模の主にZ世代のフォロワー数を誇るeスポーツインフルエンサー。その業界の人気がこれからも高まるにつれ、彼らの経済的効果や影響力は拡大していく。

この傾向を見ると、現在世界的にインスタグラムのフォロワー数が多い有名人の中にはプロサッカー選手であるクリスチャン・ロナルド、メッシ、ネイマールなどが多く含まれているが、これがeスポーツインフルエンサーに抜かれる日がいつか来るのかもしれない。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit