アラブの春以降、シリアやアフガニスタンなど中東地域からの難民の数が増え続けている。難民支援を行う「国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)」によると、2016年に祖国からの移動を強いられた人の数は6,560万人。1997年の3,390万人のおよそ2倍に達した。

難民とは「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見」を理由に、母国を去らざるを得なくなった人を指す

難民の多くは危険なルートを徒歩や船で移動することを余儀なくされるため、道中に事故や病気で命を落とす人も後を絶たない。UNHCRの報告によると、2017年の1月から6月の間に地中海を通って移動した難民のうち2,253人が命を落としている。

無事に一時的な避難ができたとしても、難民申請を通過しなければ難民は祖国に帰らなければいけない。UNHCRの統計では2016年の難民申請者数は280万人に上り、55万2200人の難民が何らかの理由で祖国へ送還された。

避難先で生活を立て直す上で立ちはだかる壁

難民の多くは避難先の難民キャンプか集合住宅に住み、言語も文化も異なる国で生活を始めなければいけない。避難先のヨーロッパ諸国では、就職先の提供や地元住民との交流促進など、社会への適応を支援する取り組みが行われてきた。

例えば、ドイツ政府は難民を博物館のツアーガイドとして雇用するプロジェクトを推進している。難民たちが自らの文化や歴史を共有する場を作り、同じ国からやってきた難民との交流を促す狙いがあるという。

また「Natakallam.com」は、アラビア語ネイティブの難民と、アラビア語を学習したい人をマッチングするサービスだ。難民はSkypeで学習者とアラビア語の会話を行い、一定の給与を受け取ることができる。

地域コミュニティーとの交流支援としては、地元住民が難民を自宅での食事に誘う「United Invitations」が、ヨーロッパ8ヶ国50都市で実施されてきた。

United Invitationsのトップページには「より包括的な社会の一員へ」と書かれている

裏庭のタイニーハウスで難民と地元住民を繋ぐ

さて、フランスでは難民の住宅支援を行うユニークな取り組み「In My Backyard」が進行中だ。同プロジェクトは「私の裏庭で」という名の通り、住宅の裏庭に建設したタイニーハウスを難民の一時的な住まいとして提供するというもの。

タイニーハウスはおよそ20平方メートルで、キッチンやバスルーム、リビングルームが完備されている。用いられる建築材料は環境への影響に配慮したものが中心。家は解体して繰り返し使用できる。

中庭を提供するオーナーとなった場合、2年間はタイニーハウスを難民に提供する必要がある。難民はおよそ6ヶ月間タイニーハウスに滞在でき、その後はそのまま住み続けるか、別の場所へ移動するか選択する。

プロジェクトを立ち上げたRomain Minod氏は、難民と地元住民が分断されている現状を指摘し、「難民は難民以外との人間関係を作る必要がある」と同プロジェクトの意義を語った

Minod氏の指摘する通り、難民向けに用意された集合住宅や難民キャンプは、地元コミュ二ティーと隔離されている場合が多々ある。同プロジェクトでは一般の住宅の裏庭に建設されるため、難民は地元住民との交流を深めながら、新たな暮らしのスタートを切ることができる。

また、Minod氏たちは家を建てるプロセス自体も交流の機会にしようと試みている。実際にフランスのモントルイユ市に建設された第一号のタイニーハウスでは、難民と地元住民が半数ずつ参加し、タイニーハウスの建設を行ったという。

Minod氏は2年以内に50戸の建設を目標に掲げている。狙い通り成果が出れば、同プロジェクトの仕組みをオープンソース化、より大規模な展開を目指していくそうだ。住宅の裏庭さえあればどの国でも実施可能な点は同プロジェクトの大きな利点だろう。

フランス以外の国でも難民向けの住宅確保に苦労している国は多い。そもそもロンドンやベルリンなどの都市では家賃高騰により、難民以外にとっても住宅探しは容易ではない。

以前紹介したロンドンのプロジェクトでは、空き倉庫などに組み立て式の小屋を建て、一時的な住居として活用していた。空いたスペースに組み立て式のタイニーハウスを建てる試みは、あらゆるバックグラウンドを持つ人々が住宅を確保する新たな手法として広がりをみせていくのかもしれない。

img:Quatorze , In My Backyard