「スタンフォード大学とワシントン大学が一番」――これは、学生の優秀さにおいてでも、規模の大きさにおいてでもない。「学費を支払うだけの価値がある米大学トップ50」の頂点に輝いたのが両大学ということなのだ。このランキングが発表されたのは7月下旬。経済ニュースチャンネル、CNBCによるものだ。

近年、米国では大学などの高等教育費の高騰が問題化し、大学進学者数低迷の原因にまでなっているという。教授陣や施設の充実度に限らず、「どこの大学に行って卒業資格を得れば、学費を払っただけの収入を得られるのか」という、学生の切実な疑問にこたえているのが、このランキング。

慎重に大学選びをせざるを得ない学生にはなくてはならない重要な情報だ。


米大学では留年する学生も少なくない。在籍が長期化した分、学費も予定より多く支払う必要が出てくる © Steve Perrin (CC BY 2.0)

高い学費、10年前と比較して最大31%増

米国教育統計センター(NCES)によれば、2016~2017年度における、4年制公立大学の学費、部屋代と食費の平均額は1万7,237ドル(約182万円)、私立では2万5,431ドル(約269万円)となっている。

これを10年前の2006~2007年度と比較した場合、インフレ調整後、各々31%、24%も上がっている。

学費が上がり続ける理由の1つに、1970年代末から、大学生向けの連邦奨学金が充実したことが挙げられる。本末転倒の感があるが、大学側は学生が奨学金の申し込みすることを見込んでおり、躊躇なく学費を上げるのだという。

クラスサイズを大きくしたり、授業時間を減らしたり、図書館の蔵書を減らしたりと、学費を下げる手立てがないわけではない。しかし学生や親など、一般人からすれば「大学にあるまじき」ともいえる行為を、大学側はやりたがらない。

学費が教育の質向上にあてられるのならまだしも、不必要なものに使っているという批判の声も上がっている。大学によっては、学生寮に多額の資金を投入し、至れり尽くせりの高級リゾートばりに整備するところもあるのそうだ。


2012年に史上初めて、学資ローン額がクレジットカードによる負債を超えた。ニューヨーク連邦準備銀行調べ © Nick Youngson (CC BY-SA 3.0)/Alpha Stock Images

学資ローン地獄? 返済のために人生設計が狂う人も

米国では、大学費用を全額自費で支払うのは少数派だ。学資ローンや奨学金、教育助成金で賄うのが一般化している。奨学金と教育助成金は返済の必要がないが、学資ローンは返さなくてはならない。

学資ローンの自己管理のサポートを手がけるスチューデント・ローン・ヒーローの報告では、2018年に卒業した学生の69%がローンを組んでおり、学生の利用率は例年60~70%あるそうだ。

連邦準備銀行とニューヨーク連邦準備銀行による「2019年度版学資ローン統計」が明らかにしたところによると、現在学資ローン負債者は4,470万人。ローン総額は、1兆5,000億ドル(約158兆円)を超えるという。

スチューデント・ローン・ヒーローは、2018年卒業の学生が負う、平均ローン額が2万9,800ドル(約315万円)であることを発表している。

返済期限はローンの種類によって決まっているものの、実際のところ、16~19年かかって返すケースがほとんどだそう。しかも、米消費者金融保護局の調べでは、60歳以上でまだ返済中という人が300万人以上おり、返済のために社会保障給付金や退職金を当てることもあるという。

負債を抱える主要年齢層は30~39歳。ローンがあるために、マイホームの購入や子づくりを遅らせることも少なくない。こうした行動が国内経済にもマイナスの影響を及ぼしている。返済資金をねん出するために、売春に手を出す女性もいるという。

大学進学のための負債が、人生を左右する人もいるということだ。「大学に行く価値はない」と見切る人がいるのも理解できる。

ランキングは、ローン完済が可能かを見極めるのに便利

大学に見切りをつける人がいる一方で、学士を修める利点を捨てられない人もいる。例えば、給与。大卒者の給与は高卒者より高いのが通例だ。

労働省労働統計局(BLS)によれば、2018年、25歳以上の常勤労働者の週給の中間値は932ドル(約9万9,000円)で、学士を持つ人は1,198ドル(約12万7,000円)、高卒者は730ドル(約7万7,000円)だった。このギャップは大きい。

CNBCによる「学費を支払うだけの価値がある米大学トップ50」は、学資ローンを利用しても大学に進もうという人には、願ってもない情報といえる。CNBCは学士号を授与する大学200校を対象に、独自の方法を用いてランク付けを行い、私立大学、公立大学各々トップ25校を割り出した。

まずは調査対象にする学生選びから着手。教育省が用いる、出身家庭の収入区分、4万8,001ドル(約508万円)~7万5,000ドル(約793万円)に該当し、大学に初めて入学する正規学生を選んだ。

国内の一世帯当たりの所得の中間値、6万1,372ドル(約649万円)を含む区分を取り上げ、一般的な学生についてを調べようというのだ。

ランク付けには、対象学生の学費と勉強に必要な諸費用から、奨学金や教育助成金を差し引いた正味コストの数値を知る必要がある。数値は教育関連情報を提供する非営利組織、ヘッチンガー・レポートによるツール、「チュイション・トラッカー」の情報を採用した。

そして、給与・福利厚生・報酬に関する情報を提供するペイスケールの「カレッジ・サラリー・レポート」から、該当大学を卒業して5年以内、10年以内の人の推定年収で、先の正味コストを割った数値をもとにランキングを行った。


私立大学で全米一に輝いたスタンフォード大学
© Steve Jurvetson (CC BY 2.0)

ここに選ばれた私立・公立大学各25校のうちのトップ10を紹介しよう。

  • 私立大学トップ10
    1. スタンフォード大学
    2. プリンストン大学
    3. シカゴ大学
    4. カリフォルニア工科大学
    5. ハーバード大学
    6. イェール大学
    7. コロンビア大学
    8. マサチューセッツ工科大学
    9. ポモナ・カレッジ
    10. デューク大学

  • 公立大学トップ10
    1. ワシントン大学シアトル校
    2. ワシントン大学ボセル校
    3. マサチューセッツ海事大学
    4. ミシガン大学アナーバー校
    5. ジョージア工科大学アトランタ校
    6. パデュー大学ウェストラファイエット校
    7. ウィリアム&メアリー大学
    8. ミシガン工科大学
    9. カリフォルニア大学ロサンゼルス校
    10. ニューヨーク市立大学バルーク校

上位にランクされたこれら大学には、幾つかの特徴がある。1つは全学生に占める、科学、技術、工学、数学専攻の学生の割合が高いことだ。いわゆる「STEM」分野の専門知識を大学で習得したことで、卒業後、就いた職種に限らず、高い収入を得ることができるのだそう。「STEM」が高収入に通じることは米商務省のレポートでも明らかだ。

良い収入を得たいがために、いわゆる「アイビー・リーグ」と呼ばれる私立名門校に進学する必要性はなく、ほかの大学で、引く手あまたな「STEM」分野の学問を修めれば、問題ないことを示唆しているのだ。ランキングにはそんな事実も隠されている。

大学進学は自己投資。極力、失敗は避けたいものだ。「学費を支払うだけの価値がある米大学トップ50」の情報は、学生たちに大いに活用されるに違いない。しかし、ランク付けに協力したペイスケールのコンテンツ戦略部門部長、リディア・フランクさんは、このランキングのみに頼って、大学を選ぶのは偏りがあると考える。

フランクさんはCNBCに、ローンを通じて学費をねん出する限り、卒業後にそれを完済できるかどうかを本人が見極めることは理にかなっているとしながらも、どの大学が自分に適しているかは、ほかの面からの情報も得、検討すべきと話している。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit