2025年10月30日から11月9日の期間、東京ビッグサイトで開催される「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」(以下、JMS2025)。人手不足や荷待ち時間、都市部の渋滞、脱炭素への対応――物流を取り巻く社会課題が深刻さを増すなか、いすゞグループは自社の取り組みを具体的に伝える場として出展した。

掲げたコンセプトは「『運ぶ』で描こう、みんなの未来。」。物流や公共交通の最前線で培った技術と運用知見をベースに、電動化・コネクテッド・自動運転などの取り組みを“いま”と“これから”を提示する展示となっている。ワールドプレミアのコンセプトカー「VCCC」をはじめ、「エルガEV 自動運転バス」や小型トラック「エルフEV塵芥車」などの実機と社会実装のアイデアを通じて、モノと人の移動を未来へつなげる。いすゞグループが描く、私たちの暮らしと地域を前に進めるための「運ぶ」の仕組みを取材した。

「運ぶ」を再定義 便利を超え、出会いと創造を走らせるいすゞグループの挑戦

いすゞグループがJMS2025で掲げた「『運ぶ』で描こう、みんなの未来。」は、単なるスローガンではない。ドライバー不足や荷待ち、地域交通の維持といった物流における社会課題を直視しつつ、“運ぶ=社会の可能性をひらく仕組み”へと意味を拡張する宣言だ。10月29日に実施されたプレスカンファレンスには、いすゞ自動車株式会社 代表取締役社長 COO 南 真氏と、UDトラックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 伊藤 公一氏が登壇した。

南氏はスピーチ冒頭で「皆さまが日々当たり前に受け取る荷物は物流の現場を支える人の努力によって支えられています。その一方で、物流業界にはさまざまな課題が山積みです」と語り、伊藤氏も「自動車業界は100年に一度の変革期と言われていますが、これは努力だけでは乗り越えられるものではない」と、物流を取り巻く現状に強い危機感を示した。

左から、いすゞ自動車株式会社 代表取締役社長 COO 南 真氏、UDトラックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 伊藤 公一氏

そして、いすゞ自動車の「地球の『運ぶ』を創造する」というパーパスのもと、課題解決に向けて知見と技術を駆使しながら、商用車の在り方を変え、物流の可能性を広げていく決意を示した。

その言葉どおり、ブースでは新型車両の展示だけではなく、移動の体験と運用の現実をつなぐ形で構成されている。広報担当者からは「『運ぶ』の未来を提示することで、来場者にも『運ぶ』が起点となるウェルビーイングな未来社会へ興味を持ってもらいたい」と、JMS2025への強い思いが語られた。

見る・乗る・参加する 体験で「運ぶ」未来を自分ごとに

いすゞグループのブースはZone1からZone5からなる5つのステージで構成され、来場者に見る→乗る→参加するという順で段階を追って「未来の運ぶ」を体験してもらう仕組みになっている。

導入のZone1では商用車をより身近に感じてもらうための未来社会を提示し、Zone2では“未来のバス”に模した没入空間での映像体験を通して自動運転が進化した未来を想像してもらう。さらにZone3の参加型コンテンツでは、自分の興味関心に合う「運ぶ」をイメージできる設計をつくり、ステッカー化することで「運ぶ」に対してより自分ごと化してもらうという仕組みだ。

また、ステージ上に設置されたコンセプトカーのZone4に続き、展示終盤のZone5では、カーボンニュートラル・コネクテッド・自動運転を、“街のシーン”として体感できるよう、未来の暮らしがイメージできるVRやジオラマを設置。さらに、マルチフューエルエンジンやEV塵芥車、自動運転バスの実機まで並べ、“社会実装の予告編”としての役割を担う。

担当者は、「会場は白色をベースにしたカラフルな色使いで、大型トラックを始め、一般の方には親しみがない商用車のイメージを払拭することを意識しました。展示物や映像に盛り込まれた多種多様な人々のイラストには『ひとりひとりがイキイキした生活を送る未来』への願いが込められています」と語る。

いすゞグループのソリューションから見る、新たな未来

展示物の中でも特に目を引くのはZone4のステージに展示されたコンセプトカー「VCCC(Vertical Core Cycle Concept)」だ。画期的な縦型の車両フレームを採用し、積載部をモジュール化。荷物や環境に合わせた柔軟な輸送と循環活用を実現。荷物の積み替えの不要による運転手の負担軽減や待ち時間の短縮化、配送困難地域への対応など、課題解決に向けたアイデアを具現化している。

VCCC(Vertical Core Cycle Concept)

VCCCはあくまでもコンセプトモデルであり、社会実装にはクリアすべきハードルはあるが、担当者が「従来の車両と荷台が一体となったつくりから、『ラストワンマイル』を想定した荷物の好循環化が時間と安全を生みます。2040年の実用化を想定しつつ、隊列走行はすでに研究段階にあります。またパートナーとの共創により、用途の拡大を狙いたいです」と語るように、輸送の可能性を大きく広げる試みであることは間違いない。

また、生活道路の風景を変えるのは「エルフEV塵芥車」。電動PTOで架装を駆動し、BEVならではの静粛性とCO2排出量の削減を両立している。Zone5では実車として明示され、朝の住宅街に“静かで清潔な回収”を届ける姿が示される。

エルフEV塵芥車

公共交通のアップデートは、BEVフルフラット路線バス「エルガEV」をベースに、新たに開発中の自動運転路線バス「エルガEV 自動運転バス」。 カメラ、LiDAR、ミリ波レーダーなど複数のセンサーによる周囲認識と、各コンポーネントを協調させる車両統合制御技術により、安全かつ安定した自動走行を実現。同車両は2025 年 12 月中旬から神奈川県平塚市内の既存バス路線での実証運行も決定しており、実用化に向けて期待がかかる。

エルガEV 自動運転バス

街単位の最適化へ 車両×インフラ×運用で進める社会実装

いすゞグループの展示を貫くのは、車両だけでは完結しないという前提だ。プレスカンファレンスでも「2030年を目指し、商用車メーカーとして培った知見の技術を駆使して、マルチパスウェイの考え方による多様な選択肢の提供と、効率的な物流の創造に取り組む」(南氏)、「スタートアップやアカデミアを含むさまざまなパートナーと共創・協働し、新たな挑戦を加速させていく」(伊藤氏)と、「『運ぶ』で人々の生活を支えるインフラカンパニー」への変革の決意が語られた。

JMS2025でいすゞグループが描いたのは、商用車の進化が単なる産業の変革にとどまらず、「暮らしを前に進める技術」であるという確信だ。今回の展示で「運ぶ」がもたらす“新しいインフラ”のかたちを示した。そこに見えるのは、ウェルビーイングな未来を街単位で実装していくための現実的な地図になるかもしれない。