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経済や産業の進化に不可欠なBtoB企業に焦点を当て、強みや社会的価値を可視化することで、そのダイナミズムと未来における価値成長を紐解く企画「Social Shifter〜進化を加速させる日本のBtoB」。今回は、人材サービスとそれに伴うDXサービスを展開するディップ株式会社を取り上げる。
人手不足が深刻化し続けるなか、多くの企業が「人材採用」と同時に「業務負担の軽減」に取り組んでいる。これらの課題に正面から向き合い、“はたらく”の未来を支えているのがディップだ。
パート・アルバイト領域を中心とした求人広告に加え、業務効率化を図るDX支援までを一貫して手がける同社のBtoBビジネス。企業の成長に寄り添うアプローチの根底には、「労働力が最大限に活きる環境をつくりたい」という強い信念がある。今回は、同社の常務執行役員 ソリューション事業本部 本部長の藤原彰二氏に話をうかがい、アルバイト雇用から企業変革を後押しするディップの現在地と未来を追う。

- <企業概要>
- ディップ株式会社
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「バイトル」をはじめとする数々の求人広告サービスや、「コボットシリーズ」「dipAI」「バイトルトーク」といったDXサービスを展開する人材ソリューションカンパニー。
- 企業公式サイト: https://www.dip-net.co.jp/
人材採用から労働力の最適化へ。BtoBビジネスの現在地
長年にわたり求人広告による人材サービスを展開してきたディップだが、2024年にはDXソリューションを立て続けにリリースした。AIを活用し、会話から最適な求人情報を提案する『dipAI』、単発バイトのマッチングサービス『スポットバイトル』、そして、責任者とアルバイトスタッフのコミュニケーションアプリ『バイトルトーク』だ。一連のリリースは「労働力の最適化」が狙いだと藤原氏は語る。
「従来は企業と求職者のマッチングに注力していましたが、5年ほど前から企業向けのDXサービスを開始しました。私たちのビジョンは“Labor force solution company”。働く方一人ひとりの力を最大限に活かし、現場全体の労働力を最適化することで誰もが働く喜びと幸せを感じられる社会の実現が使命です。ビジョンを体現するため、『コボットシリーズ』に加えて『dipAI』『スポットバイトル』『バイトルトーク』をリリースしました。現在はこれらを活用し、店長業務の最適化や面接設定の自動化、リアルタイムの人材補填、現場コミュニケーションの効率化など、人材に関わる企業運営全体を支援しています」
藤原氏は「採用の現場には矛盾が存在する」と指摘する。求人は人手不足を解消するために行うにもかかわらず、採用や新人教育で余計に業務リソースがひっ迫される矛盾だ。パート・アルバイトを多く抱える現場では、採用・研修・シフト管理など、人材運用に関わる業務負担は想像以上に大きい。
「人材採用における矛盾の解消に加え、頑張る人の成果をデジタル化して賃金を上げていきたい思いもあります。そのために、人でなくてもできる仕事はAIやロボットに任せ、人が本来注力すべき仕事に集中できる環境をつくりたい。だからこそDX開発を積極的に進めています」
テクノロジーで多角的に“現場”を支えるプロダクト
ディップは、企業と求職者のマッチングのみならず、多角的に現場の課題を見つめてきた。
非正規雇用が中心の現場では、PCや業務用メールアドレスが割り当てられないケースも多く、コミュニケーションが私用アプリに依存している職場も少なくない。すると、情報共有の非効率や現場の負担が慢性化してしまう。有期雇用市場に長年向き合ってきたからこそ把握できた課題だ。
「実際に、多くのアルバイトスタッフから『私用アプリで業務連絡をしたくない』という声が寄せられています。また、採用窓口となる責任者にも個別のメールアドレスがないケースもあるのです。私用アプリではシフト提出のフォーマットがなく、責任者がバラバラに届くシフトを手入力でExcel管理するなど、管理の面でも大きな負担が生じていました。さらに、急な欠勤などでシフトの交代が必要な際には、連絡網が整備されていないと対応が遅れるリスクもある。近隣店舗とのつながりがない場合は、ヘルプ依頼もできないような事態が日常的に発生しています」
こうしたコミュニケーション課題を解決するのが『バイトルトーク』だ。
「店舗運営に特化・フォーマット化されたコミュニケーション機能を提供し、シフト調整・欠勤連絡・他店舗へのヘルプ要請までを効率化しています。パワハラ・セクハラ防止の観点からやり取りを可視化するだけでなく、AIがトーク内容から責任者の性格や店舗の雰囲気も分析。将来的には店舗に合う人材の紹介にもつなげていきます」
企業のコミュニケーション課題を解決するため、『バイトルトーク』は無償で提供されている。求人広告やDX商材など別のサービスで売上が立っていることもあり、バイトルブランド全体の価値向上につながる取り組みとして位置づけられているのだ。導入により欠員や離職状況が可視化されるため、最適な求人タイミングの把握にも役立つ。
「本来は有償サービスですが、私たちは『入口はバイトル、出口はバイトルトーク』という視点で、企業と働く人の双方に価値を届けられる仕組みを考えています。現場のリアルを可視化し、2,000名規模の営業部隊がデータを分析して提案できる環境を整えることで、業務効率化やコミュニケーション活性化につなげています。また、現場が円滑に回ることで人材定着や事業拡大にも寄与し、結果的に企業の追加発注にもつながると考えています」
加えて、『バイトルトーク』にはAIによる性格16診断機能も備わっており、導入企業の人材特性や店舗の雰囲気を把握することが可能だ。こうしたデータを活用することで、企業の採用や現場運営の最適化にさらに貢献していくという。
店舗運営に欠かせないポータルを目指す
『バイトルトーク』はコミュニケーションツールにとどまらず、「店舗運営に欠かせないポータル」を目指している。今後、責任者向けには業種別のDXサービスを付帯し、アルバイトスタッフ向けには勤務実績や評価に基づく福利厚生の提供を拡充する構想があるという。
「頑張る人が正当に評価され、時給アップやインセンティブが得られる環境を提供すべく、勤務実績や行動データを評価する仕組みの整備も進めています。そして、これまでは福利厚生としてスタッフに自社クーポンを発行する場合、制作や配布にかなりのコストが生じていました。しかし、ポイントやデジタルクーポン化すれば、よりスマートな運用が可能です」
基本的な機能は無償であるが、付帯サービスは企業のニーズに応じてカスタマイズが必要になるため、今後は有償サービスとなる見込みだ。人材採用から店舗運営、スタッフの評価制度まで、“バイトルブランド”による一元的な現場支援を目指す。
BtoBの原点に立ち返る、「営業」から始まる変革
BtoBビジネスの根幹は営業にあるという藤原氏。2,000人ほどの営業部隊を抱えているディップは、ソリューション営業体制のもと「企業の成長を支援すること」を営業ミッションに掲げている。

「やはりフロントに立つのは営業です。どんなにDXが進んでも、企業の課題を直接拾い上げられる営業人材は不可欠でしょう。当社は課題解決のために社会実装するモノづくり部隊と連携し、営業もモノづくりも強い企業を目指していきます」
藤原氏は「従来の人材サービスは一期一会であった」と振り返る。採用が達成され、求人広告の掲載も終了したら、企業とのつながりは途絶えるからだ。しかし『バイトルトーク』を通じて企業や現場とつながり続けられるという。
「DXサービス群の活用を通し、持続的につながっていけるようになりました。それにより、従来の求人情報では見えなかった働き先としての魅力を発見し、競合他社にはない情報を求職者に提供できるようになるでしょう。企業の成長は、私たちの価値の源泉です。最適な人材の採用は売り上げにつながりますし、売り上げにつながれば賃金もアップし、新たな求人の需要にもつながる——。企業もスタッフもハッピーになれる循環が生まれれば、人材採用の入口となる私たちディップの価値も向上していくと信じています」
採用現場の未来をつくる柔軟なDXサービス
最後に、ディップが描くDXの未来像をたずねた。キーワードは“柔軟性”だ。
「DX事業が発展した結果、業務フローの効率化に偏りすぎて、現場の柔軟な対応を損なうケースも見られました。例えば、飲食店のネット予約では電話や店頭なら対応できる細かい要望の設定ができなかったり、アルバイトの応募も履歴書がないと面接に進めなかったり……。本来、人間同士のやり取りには柔軟さが存在していたはずですが、DXの導入で画一化され、現場の行動が制限されている部分は否めません。しかし、近年著しい進化を遂げるAIを活用すれば、効率化と柔軟性は両立し得るんです」
柔軟性のあるDXサービスとして誕生した『dipAI』は、応募から面接、勤務、定着までのプロセスでユーザーともつながり続け、企業の円滑な業務フロー進行と働く人に寄り添った対応を両立させる BPaaS(Business Process as a Service)の役割を果たしている。

「効率化の実現だけでなく、ユーザーの思いにも真摯に向き合うDXこそが、私たちの目指す姿。企業とスタッフ、双方の生産性と満足度を高める未来を実現していきたいです」
ディップが目指すのは、ただの採用支援にとどまらない労働力の最適化。“はたらく”を支えるすべての現場とともに、進化し続ける人材ソリューションだ。
取材・文:安海 まりこ
写真:小笠原 大介


