「お世話になっております」はAIにお任せ メール自動化の極意

ビジネスパーソンの業務時間のうち、実に41%が反復的な雑務タスクに費やされている。その筆頭格がメール対応だ。日本ビジネスメール協会の調査によれば、ビジネスパーソンの1日の平均メール送信数は12.33通、受信数は52.27通にのぼり、送受信にかかる時間は約2時間26分と、業務時間の約3割を占めている現状が浮き彫りとなった。

しかし、AI活用によってこの状況を劇的に改善することが可能だ。

メールに関しては、マイクロソフトOutlookやグーグルWorkspace/Gmailなどのオフィス系ツールから、ChatGPTやClaudeなど、さまざまなツールで作成可能だ。使用ルールを徹底することで、個人情報・機密情報を伏せつつ、社内ルールやコンプライアンスを遵守しながら、安全にメール作成を自動化することができるようになる。

AIを使う際の大原則は、AIがユーザー(あなた)の情報を持っていないという認識を持ち、毎回、文脈と指示を丁寧に説明すること。誰に、何を、どのように、など5W1Hをしっかり指示文(プロンプト)に落とし込むことで、AIの理解力が高まり、結果として高いアウトプット品質を実現できるようになる。この大原則は、メール作成だけなく、文章関連タスク全般に当てはまるので、AIを使う場合、常に意識したいところだ。

以下は、取引先へ未払いの請求書に関する支払い確認メールを作成するための雛形例となる。ChatGPT、Claude、Outlook、Gmailなどツールに関係なく汎用的に利用できるテンプレートのため、カスタマイズ次第でさまざまなシーンに適用できるはずだ。

メール作成プロンプト雛形

### タスク
・取引先へ未払いの請求書に関するお支払い確認の依頼メールを作成してください。

### 文脈
・宛先:◇◇株式会社 経理ご担当C様(※)
・目的:7月発行の請求書のご入金状況を確認し、未払いの場合はお支払い手続きをお願いしたい
・背景:お支払い期日は先週末(7月31日)でしたが、現在まで弊社口座への入金確認が取れておりません

### 出力形式
・600字以内で段落ごとに空行を入れ、敬語で書いてください。

### 制約条件
・請求書番号や期日、振込先口座情報を正確に記載する
・過度な催促と受け取られないよう、丁寧かつ控えめな表現を用いること

ただし、AIが生成した文面をそのまま送信するのは望ましくない。必ず自分の目で間違いがないか、不適切な表現はないか確認することが必要だろう。

また、導入初期には「自分なりの見本メール」を3〜5通ほど用意し、AIにパターンを学習させることが重要となる。たとえば、社内向けメールでは「お疲れ様です」から始まり、社外向けでは「いつもお世話になっております」を使うといった自社の慣習を、具体的な例文としてAIに示すことで、より適切な文面が生成されるようになる。

AIにパターンを学習させる具体的な方法としては、以下のように大きく2つのアプローチが考えられる。

1つは上記プロンプト雛形の中に、「### 参考パターン」という新しいカテゴリを追加し、3〜5個のパターンをそのまま挿入するアプローチだ。その際、「### 出力形式」内に、「以下の参考パターンと同じ形式で出力」などと指示を追加しておけば、AIは参考パターンに沿った形で、出力を生成してくれるようになる。

もう1つは、AIツールのスタイルガイド機能を使うアプローチ。このアプローチは、Claudeなどに限定される。Cluadeでは、3〜5個のパターンを記述したテキストファイルをアップロードしておけば、いつでもそのスタイルを呼び出して使えるようになる。

Claudeのスタイル機能

導入の障壁として、約48%の従業員が業務でのAI利用を上司に報告することをためらっている点は見逃せない。しかし、AIツールを活用した従業員の90%が時間節約を実感し、85%が重要タスクへの集中度向上を報告している事実は、経営の観点から無視できるものではない。

メールという日常業務から始めることで、確実な成果を積み重ねていけるはずだ。

「誰が何をいつまでに」を自動抽出するAI議事録の威力

メール対応と並んで時間を奪う業務が会議関連のタスクだ。特に議事録作成は、会議中のメモ取りから清書まで含めると相当な負担となる。しかし、AI技術の進化により、この状況は一変しつつある。

Zoom Contact Centerの事例では、AI機能を活用することで通話後の処理時間が16.2分から10.4分へと35%も短縮された。さらに注目すべきは、Slack AIユーザーが週平均97分の時間削減を実現している点だ。これらの成果の鍵は、会議中にメモを取る作業そのものをAIに委ねることにある。

実践方法は驚くほど簡単だ。ZoomやマイクロソフトTeamsの自動文字起こし機能を有効にすれば、話者ごとに発言内容が記録される。設定は会議開始前に「文字起こし」または「トランスクリプト」のボタンをクリックするだけ。日本語の認識精度を高めるには、事前に専門用語や固有名詞を辞書登録しておくことが効果的だ。プロジェクト名や製品名、頻出する業界用語などを登録することで、誤変換を大幅に減らせるようになる。

会議後の処理はさらに効率的になる。TeamsのIntelligent RecapSlackのハドルノート機能を使えば、「決定事項」「アクションアイテム」「期限」が自動的に抽出される。会議中に「来週火曜までに資料提出」「山田さんが予算案を作成」といった発言があれば、AIが自動的にタスクとして認識し、担当者と期限を明確に整理してくれる。

フォローアップの自動化も重要なポイントだ。抽出されたアクションアイテムは、Slackなどのタスク管理ツールと連携させることで、自動的にタスクとして登録される。期限の前日には担当者へリマインダーが送信されるため、タスクの抜け漏れを防げるようになり、マネジメントの質向上につながることが期待できる。実際、66%の管理職がAI要約により品質管理が向上、47%が部下の指導・コーチングが改善したと報告している。

ただし、AIによる議事録作成を過信してはいけない。会議終了後は必ず生成された要約を確認し、重要な決定事項や数値に誤りがないかチェックする習慣が不可欠だ。また、機密性の高い内容を扱う会議では、録音機能の使用について事前に参加者の同意を得ることも忘れてはならない。

議事録AIツールの使い分けポイント

・料金を抑えたい場合は、ビデオ会議サービスにAI機能が含まれており、追加費用がかからないZoom(AI Companion)が最有力候補。

・Google Workspaceを導入済みでドキュメント管理を一元化したい場合は、Geminiの「Take Notes for Me」を使うと議事録が自動的にGoogleドキュメントへ保存され、共有や編集が簡単になる。ただし、Business Standard以上のプラン契約が必要

・高度な要約やタスク抽出を重視する場合は、マイクロソフトTeams PremiumのIntelligent Recapが豊富なAIノート機能を提供するが、専用ライセンスが必要で管理者設定も必須。

・Slackで日常的にやり取りしているチームには、会話の要約やアクション提案を行うSlack AIが便利。ただし、有料版への登録が必須。

「売上トップ5を教えて」で完了するAI時代の新エクセル活用法

メールや会議に続いて、多くのビジネスパーソンが苦手意識を持つのがエクセルでのデータ処理だろう。複雑な関数やピボットテーブルの設定に四苦八苦した経験は誰にでもあるはずだ。しかし、ExcelのCopilot AI機能を使えば、自然な日本語での指示だけで高度な分析が可能になる。

まず、ExcelでCopilotをうまく使うには、データをテーブル形式に変換しておくことが望ましい。この一手間により、Copilotがデータを正確に認識し、より的確な分析結果を提供できるようになる。

実際の操作は驚くほどシンプルだ。セルを選択すると表示されるCopilotアイコンをクリックし、「売上データから上位5社を教えて」「昨年比で成長率が高い部門を3つ挙げて」といった自然な言葉で質問するだけで、従来なら複雑な数式を組む必要があった分析も、AIが瞬時に処理してくれる。

Copilotの使用例(マイクロソフトウェブサイトより)

特に便利なのが条件付き書式の自動設定機能だ。「10万円以上の売上で、かつ前年比120%以上の項目を強調して」と入力すれば、該当するセルが自動的にハイライトされる。さらに高度な分析が必要な場合は、「Pythonを使用した詳細分析」オプションを選択することで、統計的な洞察や予測分析まで実行可能だ。

「Pythonを使用した詳細分析」などのさまざまなオプションを提示するCopilot
マイクロソフトウェブサイトより)

定型レポートの作成も大幅に効率化される。月次報告書などのフォーマットが決まっている文書では、必要なデータ項目(期間、目標値、実績値など)をCopilotに指示するだけで、グラフや表を含む完成度の高いドラフトが生成される。たとえば「2024年第4四半期の販売実績を部門別に集計し、前年同期比とともにグラフで表示」といった指示で、見栄えの良い資料が数分で完成する。

ただし、AIが生成した結果を鵜呑みにするのは避けるべきだ。特に数値データについては、元データと照合して正確性を確認する習慣が不可欠である。また、機密性の高い財務データを扱う際は、組織のセキュリティポリシーに従い、適切な権限設定のもとで利用することが求められる。

文:細谷 元(Livit