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5月、英国の教育専門誌「Times Higher Education(THE)」が発表した世界大学ランキングによって、世界中の高等教育機関における最新の実力分布が明らかとなった。
このランキングは、教育・研究環境・研究の質(引用数)・産業界からの収入・国際性という5つの指標を用い、2,000校以上の大学を評価したもの。単なる学術的順位ではなく、大学の総合力と国際社会における競争力を測る鏡として、企業や研究者のみならず、グローバル志向を持つZ世代にも不可欠な指標となっている。
世界トップ大学の顔ぶれと動向:MITがスタンフォードを逆転、オックスフォードは王座を維持
2025年版ランキングの首位は、オックスフォード大学(英国)が9年連続で獲得した。教育と研究のバランスに加え、近年は産業界との連携強化が顕著であり、それが総合評価の安定に寄与している。第2位にはマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)が浮上。研究の質や引用数に加え、テック企業との密接な関係性によってスコアを伸ばし、前年の3位から1つ順位を上げた。
一方、スタンフォード大学は第6位に転落。依然として高水準の研究力を誇るものの、他大学の追い上げと比較して伸び率が鈍化した点が影響した。第3位はハーバード大学(前年4位)、第4位はプリンストン大学(前年6位)、第5位はケンブリッジ大学が続いた。そのほかトップ10には、イェール大学(米)、カリフォルニア工科大学(米)、カリフォルニア大学バークレー校(米)、インペリアル・カレッジ・ロンドン(英)といったおなじみの名門校が名を連ねている。
台頭する中国と新興圏:注目のグローバル・トレンド
2025年のランキングで際立った動きの一つは、中国の大学がトップ10にさらに近づいたことである。清華大学、北京大学はともに研究の質と国際的影響力を高めており、世界の学術地図における存在感を一層強めている。
その一方で、オーストラリアの主要5大学はいずれも順位を下げた。主因は「国際的展望(international outlook)」と「学術的な評判」の両面でスコアが低下したことであり、コロナ禍後の国際交流の減速が影響した可能性が高い。
さらに注目すべきは、ブラジル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の3カ国が初めてトップ200に入ったことである。この動きは、グローバルな高等教育の軸足が英米中心から新興圏へと確実に広がっていることを示している。
ブラジルのサンパウロ大学は公立機関として国内外での研究ネットワークを広げ、国際論文共著数と研究インパクトを着実に伸ばしている。サウジアラビアのキング・アブドゥラ科学技術大学(KAUST)は、豊富な国家予算とトップ研究者の積極登用で「中東のMIT」として急浮上中だ。アラブ首長国連邦でも、アブダビの大学群を中心にAIや再生可能エネルギーの分野での国際評価が進んでいる。
これらの台頭は、「教育=先進国の特権」という時代の終焉を象徴していると言える。
日本の大学の現在地:上昇と限界が交錯する
日本勢では、東京大学が28位(前年29位)とわずかに順位を上げた。研究成果の国際的な引用数が増加し、国際共著論文もやや増えたが、依然として国際性スコア(留学生比率、外国人教員比率)は世界水準に及ばない。
京都大学は55位で前年と変わらず。伝統的な研究基盤の強さを維持する一方で、アジアの躍進校と比較すると国際共同研究や英語プログラムの充実度では後れを取っている。
東北大学は120位(前年130位)と大幅に順位を上げた。特に教育指標での高評価が寄与しており、国際戦略の成果が少しずつ形になりつつある。大阪大学も162位(前年175位)に浮上。医療・工学系分野での研究被引用数の向上がスコアを押し上げた。
一方、東京工科大学は195位(前年191位)でやや順位を落としたが、教育と産業界連携の評価は引き続き高く、今後の戦略次第で再浮上が期待される。
日本の課題と未来:変化への対応力が鍵を握る
日本の大学が構造的に抱える課題は3つに集約される。
1.国際性の低さ
英語教育の整備不足、外国人教員の登用の少なさ、留学生の受け入れ規模などがスコアの足を引っ張っている。
2.研究成果の発信力不足
質の高い研究は多数存在するが、それが国際的な可視化(=引用や共著)に結びついていない。
3.産業界との連携力のばらつき
一部の大学では企業連携が強みとなっているが、全体としては戦略的に進めているとは言い難い。
グローバルランキングにおいては、単なる学問の評価だけでなく、国際社会における知の生産・循環・実装の「総合戦略」が問われている。Z世代にとっては、大学選びやキャリア設計をする際、このような多元的な視点が不可欠となる。
大学ランキングは未来の社会構造を映す鏡
世界大学ランキング2025は、単なる順位表ではなく、教育と研究の未来を先取りする羅針盤でもある。オックスフォードやMITのように変革に強い大学は、教育機関としてだけでなく社会変革のエンジンにもなり得るのだ。
日本の大学が国際舞台で再び存在感を発揮するためには、旧来的な「国内競争モデル」から脱却し、「世界と共創するモデル」へと舵を切る必要がある。Z世代にとって、それは学びの場の選定だけでなく、自らが参画すべき社会・組織の在り方を見極めるヒントとなるだろう。
文:岡徳之(Livit)