驚きの研究結果

今月半ば、「私たちは一週間あたり5グラム、だいたいクレジットカード一枚分と同量のプラスチックを『食べて』いる」というなんともお腹がもぞもぞする研究結果が世界を駆け巡った。

これはWWF(世界自然保護基金)の委託により豪ニューカッスル大学が実施した調査の結果で、52件の研究結果に基づいて「人間が1年間に体内に取り込むプラスチック量は、推定約250グラムに上る」との結論を導き出した。平均的なアメリカ人が飲食物と一緒に体内に取り込んでいる130ミクロン以下のプラスチック粒子は約4万5,000個にのぼり、かつほぼ同量のプラスチック粒子を空気中から吸い込んでいるという。


これで1か月分だ

今週も先週もクレジットカードを食べた覚えなどないが、一体私たちは、そんなけっこうな量のプラスチックをどこから取り込んでいるのだろうか?

内訳を見ると先述のように半分は空気中から吸い込んでいるようで、同研究は「程度の差こそあれ、汚染されていない場所はない」と指摘している。残り半分、つまり飲食物の中で最大の摂取源は飲料水とのこと。例として米国では水道水サンプルの94.4%から、1リットル平均で9.6本の目に見えない大きさのプラスチック繊維が検出されたという。

ではボトル入り飲料水に切り替えればいいかというと、こちらは昨年ニューヨーク州立大学がCBCニュースとの提携で行った9か国11の大手ブランドのボトル入り飲料水調査で既に「93%がマイクロプラスチックを含んでいる」との結論を出している。調査結果を報告したCBCニュースの中で、カナダ人ジャーナリストDavid Common氏は「下手な水道水よりはるかに多くのプラスチックが検出されました」とコメントしている。


いかにもピュアなイメージなのに…

他にも貝や甲殻類といった丸ごと食べることの多い海産物、ビールや海水を原料とする塩などからもマイクロプラスチックが検出された。海に囲まれた土地で暮らし、小魚を含め海産物をよく食べる習慣のある私たち日本人にとっても決して他人ごとではないだろう。現に日本海域周辺はマイクロプラスチックのホットスポットであるという指摘もある。

人体への影響は?

次に疑問その2だが、食べたからといってどうなるのだろうか? つまり、人体に有害な影響があるのだろうか。

これに関しては、慎重な立場を取れば「正直、まだほとんど分かっていない」というのが実際のところのようだ。ボトル入り飲料水の調査を行ったカナダの研究チームが「直径130ミクロン未満のマイクロプラスチックはヒト組織の内部に入り込み、局地的な免疫反応を引き起こす恐れがある」との見方を示し、国連食糧農業機関が「一部の粒子は血流や臓器に十分入り込める小ささである可能性がある」ことについて懸念を表明する一方、欧州食品安全局は「大部分のマイクロプラスチックは身体から排泄される」ことを示唆している。「吸い込んだ空気中のマイクロプラスチックのうち、ほとんどは肺には達しない」との考え方を示す研究者もいる。

しかしそれとは別に、プラスチック自体の影響よりも、プラスチックがスポンジのように吸収して保持している可能性がある有害な化学物質に注目する研究者もいる。分かりやすい説明を提示している一人はカナダでプラスチック汚染を監視する市民団体・CLEARを運営する地質学研究者Max Liboiron氏。

「(プラスチック製の)タッパーウェアに赤トウガラシやスパゲッティを入れた後、染みついたオレンジ色が取れなくなったことがありませんか。これはプラスチックが油性の化学物質を吸収する性質があることを示す一例です」とし、「better safe than sorry――後で後悔するよりも、今慎重になりましょう」と呼びかけている。

マイクロプラスチック問題がまだ海洋汚染の文脈でのみ語られていた時代は、主に魚や海鳥といった海の生き物の消化器系がプラスチックで満たされてしまい、正常な食物の摂取・消化が妨げられることが問題とされていた。年間250グラムは人間にとってはそこまでの量ではないながら、人体に及ぼす影響がまだ全く分からないまま防ぐ術もなく摂取し続けているとなれば、話はちょっと変わってくるのではないだろうか。


これが最終的に私たちのお皿の上に帰ってくる

マイクロプラスチック問題は海洋生態系の一歩先に進み、直接私たちの体に忍び込む脅威として広く認識され始めている。

2種類の「マイクロプラスチック」

さて、疑問その3だが、そんなマイクロプラスチックは一体どこから来るのだろうか。

第一には製品の材料として製造される、いわゆるマイクロビーズ。ボディスクラブや歯磨き粉などに広く使用されていたが、これは既に数年前からヨーロッパをはじめとして官民様々なレベルで排除の取り組みが行われている。


排除されつつあるマイクロビーズ

第二に、大きなプラスチック製品が分解されて結果的に「マイクロ」になったもの。私たちが利用中の製品はもとより、埋め立てられたり河川を漂う膨大な量のプラスチックからじわじわと放出されている。

意外?な発生源・衣類

そして後者の中で、海洋に漂うマイクロプラスチックのうち35%を占める可能性も指摘されているのが、洗濯した衣類からほつれ出て各家庭の排水に入り込む繊維状のマイクロプラスチック、いわゆる「マイクロファイバー」である。

現代においては世界の衣類の60%はポリエステルやナイロンといった化学繊維であり、そうした材質でできた服は、着ている人が動くたび、そして洗濯されるたびにマイクロファイバーを排出している。そのうち60%は通常の下水処理プロセスで取り除かれるが、残り40%、重量にして毎年50万トンが河川から海にたどり着くという。

各国で続々開発されるマイクロファイバー対策商品

各家庭でそのマイクロファイバーの発生を抑える方法としては、「天然素材の服を選んで購入する」「化学繊維の服はなるべく洗濯しない」「摩擦を減らすため、なるべく洗濯機を一杯にしてから回す」「液体洗剤を使う」などが呼び掛けられているが、その一方、新製品の開発によりマイクロファイバーの発生・流出を最小限に抑えようという試みも加速している。

イタリアは主にお家芸ともいえる繊維業からアプローチ。昨年「洗濯してもマイクロプラスチックを出さないフリース」を発表したPontetorto社や、繊維をペクチンでコーティングすることで洗濯時のマイクロファイバーの発生を80%抑える技術を開発したCNR社がリードしている。

スロベニア発のスタートアップ企業・Planet Careは、洗濯の過程で発生したマイクロファイバーを80%キャッチするフィルターを開発。洗濯機を製造するメーカー向けのビルドインフィルター、既存の洗濯機に取り付けることができる家庭向けのアドオンフィルター、そして10機までの洗濯機に対応できる洗濯関連業者のための外付けフィルターユニットの3種類だ。


Planet Care社のアドオンフィルター(公式HPより)

気になるお値段は家庭用アドオンフィルターが35ユーロ(4,300円弱)、ひとつにつき洗濯20回分までの容量が保証されているフィルターカートリッジが6個セットで4.80ユーロ(590円弱)と、環境だけでなくお財布にもやさしい設定で現在オンライン販売されている。

「(集められたマイクロファイバーは)最終的にはゴミとして処理される必要がありますが、排水中に垂れ流すよりずっとましです」という公式コメントに納得させられる。

有名ブランドの中でこの問題に関して一歩リードする形を取ったのは、米アウトドアブランドのPatagonia。同社は昨年、マイクロファイバーの発生源として悪名高いフリースを大量に製造・販売する企業としての責任を認識しているとの声明を発表。「いま、できること」として、ドイツNPO団体STOP! Micro Wasteとの協働により、「GUPPYFRIENDウォッシング・バッグ」という洗濯ネットを発売した。


GUPPYFRIENDウォッシング・バッグ(公式HPより)

日本国内の直営店やウェブサイトでも入手できるこのバッグは、税込3,996円と洗濯ネットとしてはいいお値段ながら、同社のフリースを洗濯した際に発生するマイクロファイバーを86%も抑えることができ、海洋汚染の防止と同時に衣類をより長持ちさせるという二重の効果が期待できることを考えれば悪くない投資。

繰り返し使って使用不可能になった製品は本社に返送すれば、リユース・リサイクルに回してもらえ、製品の販売により生み出された利益は更なるマイクロファイバー問題解決への取り組み(新製品の開発や啓もう活動など)に還元されると、細部までとことん考えつくされた製品だ。ちなみにもちろんこのバッグ自体は、マイクロファイバーを発生させない素材でできている。

最後に、昨年キックスターターで大成功を収めて発売されたアメリカ発「Cora Ball」を紹介したい。ハチの巣のような形をしたカラフルなこのボールは、洗濯時に衣類と一緒に洗濯機に入れることで、幾重にも重なった柔らかいプラスチックがマイクロファイバーをキャッチしてくれる。


Cora Ball(公式HPより)

海洋環境をケアする製品にふさわしく、サンゴが微生物を吸着する構造にヒントを得たという。かわいい見た目にもかかわらず、通常の家庭の洗濯で発生するマイクロファイバーを26%捕獲してくれる。

お値段は37.99ドル(4,100円強)+送料と、キュートな見た目とややギャップを感じるが、「数回の利用ではなく、何十年もの利用を想定して設計されている」と公式HPでコメントしている通り一度購入すれば長期間使うことができ、更にこまめな掃除も必要ない(むしろペットの毛など比較的大きな繊維をつけっ放しにしておいた方が、さらに細かいマイクロファイバーを絡めとる手助けになるそうだ)、使い方も洗濯物と一緒に放り込むだけ…となれば、現時点で販売されているマイクロファイバー対策商品の中でお手軽さに関しては一番かと思う。

目に見えない敵・マイクロプラスチックと私たちの関係は始まったばかり。とにかく今は一人一人が意識し、行動することでしか、明日私たちのコップの中に入っている、お皿の上に乗っているマイクロプラスチックは減っていかないのだろう。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit