企業の成長過程における“分岐点”に焦点を当て、直面した問題やその後の成功への道筋に迫る企画「Turning Point」。今回登場するのは、ハイブリッド学習塾「個別指導 コノ塾」を運営する株式会社コノセルだ。会社設立わずか3か月でコロナ禍に直面しながらも、“学習塾版のユニクロ”をコンセプトに新しい教育の形を模索し続けた。デジタルツールの使用を前提とした教育とは?CEOを務める田辺理氏に話を伺いながら、同社のターニングポイントに迫る。

【株式会社コノセル】

設立 2020年1月
本社所在地 東京都新宿区西新宿7-1-12 クロスオフィス新宿503
事業内容 ハイブリッド学習塾「個別指導 コノ塾」の運営、アプリ・教材の企画開発
企業の成長過程における
ターニングポイント
会社設立から3ヶ月でコロナ禍に。学校も休校するなか、事業の運営・展開を継続。なかなか家から出られない状況で学校以外の居場所を求める親子に喜ばれ、危機を乗り越える。

掲げるのは“学習塾版のユニクロ”。高品質で手頃な教育を日本中に届ける仕組みづくり

コノセルの中核を担う事業「コノ塾」は、高品質な教育を誰もが驚く価格で受けられる世界を目指し展開している。創業者の田辺氏は、国内最大級のオンライン学習サービス「スタディサプリ」の事業責任者出身。教育業界におけるデジタルテクノロジー活用の経験を活かし、人と場とテクノロジーを融合したこれまでにない学習塾サービスを立ち上げた。

「教育業界において、スタディサプリは日本で普及しているデジタル教材では非常に成功したサービスだと思います。一方で、自分一人では使いこなせない子どもたちも多く、非常にもったいないと感じており、テクノロジーを用いた高品質で効率のいい教育を提供するためには、違うアプローチが必要だと常々考えていました。

全く新しい形で、教育現場をゼロからデザインして自分たちのツールを入れていく。今ある教育の仕組みに新しいデジタルツールを導入する足し算の考え方ではなく、デジタルツールの使用を前提とした教育現場を新たに構築しようと思い、学習塾サービスを立ち上げることに至りました」

2020年冬のオープン以来、「コノ塾」は多くの都立・公立高校合格の実績などが支持され、生徒数も順調に増加している。2023年10月には関西の大手学習塾「京進」との業務提携を発表し、関西エリアへの展開も進めた。2024年度は東京・大阪・神奈川に新規41校、2025年は3月時点で全国91校まで拡大。前年度比で約1.8倍と驚異の成長スピードを誇る。

社会課題である「教育の経済格差解消」と「教育現場の労働環境」を変えるべく、掲げるコンセプトは“学習塾版のユニクロ”だ。

「創業して1年ぐらいから、“学習塾版のユニクロ”という表現をずっと使っています。ユニクロは、手頃な値段で多くの人にとってど真ん中の服を作り続けています。誰もが日常で着やすい服を高品質かつ手頃に、日本中に届けている印象です。これが僕の目指すべき指標になっています。また、ユニクロは昔と比べるとかなりかっこよくなっていますよね。サービスを改善し続ける象徴としても模範になると思っています」

精神的には一番大変だった。あのコロナ禍を乗り越え見えてきたこと

ターニングポイントについて伺うと、「ターニングポイントらしいターニングポイントはないかもしれせん」と語った田辺氏。

しかしながら、外部環境の影響は避けられない。会社設立3か月で訪れたコロナ禍は、塾の在り方を考えるきっかけになった。

「塾を始めようと考えたタイミングでコロナが流行し始めました。学校も休校が相次ぐ状況で、塾って存在していていいのかな?と考えさせられました。周囲の助言もあり、コロナ終息を見据えて塾を展開しましたが、結果的によい方向に進んだと思います。コロナで外に出なくなったからこそ、親も子供も別の居場所を求めていたようで、塾に来られるのを非常に喜んでくれました。設立早々のシビアな経験を経たからこそ、事業拡大に伴う様々な課題を乗り越えやすくなった気がします」

コロナ禍の大きな壁を乗り越え、拡大を広げていく「コノ塾」。順調だからこその課題も少しずつ見えてきたという。

「コロナ禍でもサービスの提供を続けたおかげでユーザーが増え続けている今だからこそ、サービス品質の担保と、従業員が幸せに働ける環境づくりには、常に課題を感じています。とくにサービスの品質で言えば、アプリの開発の難しさが顕著です。

ユーザーが増えるほど、「全員が納得できるサービス」の提供は難しくなっていきます。だからこそどのようなサービスを作ったら、より多くのユーザーに納得してもらえるか?ここに、課題がありますね」

「コノ塾」での学びが蓄積された今、それをどのように発展させるか

最後に、さらなる成長を目指す「コノ塾」として今後の展望を教えてもらった。

「開校数、生徒数が伸びているとはいえ、まだまだ知名度も低く、学習塾業界に絞ってもシェアも小さいのが実情です。新しい教育の形を世の中に伝えるため、今後も規模を広げる必要がありますが、サービスの質が落ちては全く意味がありません。規模と質、同時に求めていきたいと思っています。

今は、ようやく蓄積されてきた実績や学びのデータを参考にしながら、どのように発展させていくかを考えるフェーズに入ってきました。規模が大きくなっているにもかかわらず、経営陣のマインドやスキルが同じままではいけないので、常にアップデートするよう心がけたいです」

コノ塾で培われた実績や学びの一つとして挙げられるのが「個別最適な学び」だ。

「個別最適な学び」と聞くと、生徒ごとに出す問題を変える、AIが自動で学習計画を作るなどをイメージするかもしれないが、重要なポイントは別にある。生徒の学習行動のどこにつまずきがあるのかを見つけ、打ち手を変える。つまり、『出す問題を変える』ことではなく、『生徒が適切な学習行動を取れるようにする』ことこそが、学びの個別最適化と捉えられる。コノ塾が実践している「個別最適な学び」のノウハウを、学校の先生に無償で開放するプロジェクト「先生の駆け込み塾」の募集が4月から開始された。田辺氏はじめ、アップデートし続ける経営陣の今後の一手にも注目が高まるばかりだ。

田辺 理
Co-founder 兼 CEO

日本政策投資銀行、米国留学(UC Berkeley MBA)、BCGを経てQuipperに入社。同社にてスタディサプリの事業責任者、グローバルでのプロダクト責任者等を歴任。2020年1月、株式会社コノセルを共同創業。