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ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン合同会社(BATジャパン)主催のもと、4月23日に「日本の公衆衛生と政策の新たな道を探るフォーラム」が都内で開催された。
日本のたばこ市場が転換期を迎える中、スモークレス先進国で浸透する「ハームリダクション」という考え方が紹介された。ハームリダクションとは、禁煙のように依存性があるものの使用を完全に止めるのではなく、健康への害(ハーム)を可能な限り軽減(リダクション)するためのアプローチや考え方のことを指す。ニコチンには依存性がある一方で、たばこに関するエビデンスも数多く登場した本フォーラムについて、レポートしていく。
加熱式たばこがついに過半数へ。日本のたばこ市場で起こるパラダイムシフト
BATジャパン社長のエマ・ディーン氏は、日本のたばこ市場が大きな転換期を迎えていることを指摘した。
2024年時点で、加熱式たばこは全たばこ販売数量の45.2%を占めるまでに成長。一方でこの10年、紙巻たばこのシェアは100%から54.8%にまで減少したと言う。
この急激な変化の背景には、製品への関心の高さ、健康志向など、日本特有の社会的・文化的な要因があると同氏は分析する。そして、2025年末までには加熱式たばこの市場シェアが紙巻たばこを上回るとの予想も出ており、日本は世界で初めて加熱式たばこが市場の過半数を占める国になる可能性があると述べた。

世界のスモークレス先進国で浸透する「たばこハームリダクション」
本フォーラムでは、海外の事例も紹介された。例えばニュージーランドでは、電子たばこに対する適切な規制のもと、紙巻たばこの喫煙率が2012年の16.4%から2023年には6.8%へと低下。スウェーデンでは、成人喫煙者がオーラルたばこやニコチンパウチといったスモークレス代替製品へ容易にアクセスできる環境を整備した結果、紙巻たばこの喫煙率は12年間で50%以上も減少したと言う。
これらの国々で共通するのは、「たばこハームリダクション」という考え方だ。
喫煙をやめられない成人喫煙者に対し、燃焼を伴わないスモークレス代替製品への切り替えを促すことで、たばこによる健康被害を低減させるという公衆衛生の考え方である。
BATの最高企業責任者であるキングズリー・ウィートン氏は、「たばこハームリダクションが現実的な代替策として浮上しています。この考え方はすでに、世界各国の公衆衛生政策に取り入れられ始めています」と語った。

さらにフォーラムでは、たばこハームリダクションに関する科学的エビデンスなどをまとめた情報リソース「Omni™(オムニ)」の日本語版エグゼクティブサマリーも発表された。
Omni™には、80以上の市場におけるデータ、BATによる270本以上の科学論文、第三者による600本を超える査読付き研究が収録されている。まさに、たばこハームリダクションを実践するうえで必要となる、「エビデンスの宝庫」だ。
キングズリー・ウィートン氏は「Omni™は、科学的エビデンスに基づく規制枠組みの構築に貢献する、貴重な情報源となるはずです」と述べた。
政策、医療、経済の視点からたばこハームリダクションの意義を議論
パネルディスカッションでは、今回のモデレーターであり、元参議院議員・元アナウンサーとして知られる丸川珠代氏の進行のもと、政策、医療、経済の視点からたばこハームリダクションの意義について議論が交わされた。

自由民主党で、国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟の会長を務める田中和徳衆議院議員は、加熱式たばこなどのスモークレス製品に対して「リスクに応じた課税と規制の必要性」を強調。スモークレス製品には軽減税率を適用しているという海外の事例に触れながら、「日本ではその逆の構造になっています」と指摘した。

元厚生労働省医政局長で、岩手医科大学 医学部の客員教授でもある武田俊彦氏は、保健指導の現場ではタバコ対策として「禁煙」一辺倒の傾向があり、「ハームリダクション」という考え方はあまり重視されてこなかったと言及。タバコの選択肢を示すという考え方が世界的に広がっていることを認識しつつ、「たばこハームリダクションを実践するために必要なエビデンスを、現場に浸透させていく必要があります」と述べた。

パシフィック・アライアンス総研所長で、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏は、経済的側面に焦点を当て「火災など、喫煙がもたらす社会的・経済的損失は、すでに国にとって大きな負担となっています」と指摘。「スモークレス製品の価値を活かしつつ、健康増進や疾病予防に貢献する合理的な財政政策を進めることで、新たな経済機会や研究開発投資の創出も期待できます」と語った。

パネルディスカッションに加わったジェームズ・マーフィー氏は、スモークレス製品に関する根強い認識の溝があることに触れ、それが一部に慎重な見方をもたらしている現状を指摘。「紙巻たばこが過去のものとなり、公衆衛生に良い影響をもたらす未来をともに想像していただきたい。そして懐疑ではなく、確かな科学的エビデンスに基づいた対話が進むことを期待しています」と締めくくった。
フォーラムの最後にはキングズリー・ウィートン氏が登壇し、出席者への謝意を表すとともに「たばこハームリダクションは、公衆衛生の大きな機会のひとつです」と強調。さらに、BATとして技術革新とハームリダクションを軸に、日本の持続可能な社会づくりに積極的に貢献していく姿勢を表明した。
たばこハームリダクションを巡る海外の最新動向に触れつつ、日本の現状や未来について話が及んだ今回。我々の選択が未来の社会を形作っていくことを考えると、こうした公衆衛生に関する施策について、議論への積極的な参加が求められるだろう。