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AI検索最新動向、ついにClaudeに検索機能が追加
生成AI市場では、「AI検索」への注目がこれまでにないほど高まりを見せている。
AI検索分野をけん引してきたのは、Perplexity、OpenAI、グーグルの3社。2022年11月にChatGPTがリリースされた当初、ウェブ検索機能は実装されておらず、最新情報を含むアウトプットの生成は不可能だった。このギャップを埋める存在として登場したのがPerplexityだ。これに対し、グーグルは検索市場の優位性を生かし、Geminiに最新情報を検索できる機能を追加、またOpenAIもGPT-4に検索機能を実装し、存在感をアピールした。これが1〜2年前ほどの状況だった。
現在、それぞれの検索機能・精度は大幅にアップしており、企業レベルで実際に活用するケースも増えつつある。特に、より高度な検索を実行できる「ディープリサーチ」機能は、金融やコンサルティングなどでも導入が進んでいるとされる。
たとえば、米国の老舗銀行の1つ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY)は、OpenAIと複数年契約を締結。この提携により、BNYはOpenAIのディープリサーチと最新の推論モデルを活用し、同行の内部AIプラットフォーム「Eliza」の機能を大幅に強化する計画だという。
AI検索分野は、OpenAIに並ぶもう1つの主要AI企業Anthropicが検索機能をリリースしたことで、今後さらに競争が熾烈化する見込みだ。
Anthropicは、元OpenAIの研究責任者を務めていたダリオ・アモデイ氏などが設立したAI企業。特にAIの安全性を重視する開発アプローチにより、他社との差別化を図ってきた。安全性を重視していたため、検索機能の実装には、かなり慎重に取り組んできたものと思われる。そして、2025年3月21日、米国を皮切りに、Claudeでウェブ検索機能を使えるようにすることを発表。これにより、AI検索分野の勢力図が大きく変わる可能性が出てきた。
攻勢強めるAnthropic、ウェブ検索ユーザーの囲い込みへ
AnthropicによるClaudeへの検索機能実装は、同社がAI市場における攻勢をさらに強めるシグナルと見られている。
同社はこのほど、シリーズEラウンドにおいて35億ドルの資金調達を実施。評価額は615億ドルに達した。主要な出資者にはライトスピード・ベンチャー・パートナーズ、14%の株式を保有するグーグル、そしてClaudeをAlexa+サービスに統合しているアマゾンが名を連ねる。
またAnthropicのアモデイCEOは、外交問題評議会のイベントで、「今後3〜6カ月以内に、ソフトウェア開発者が現在作成しているコードの90%をAIが書くことになる」と強気の予想を展開。この発言に先立ち、「Claude 3.7 Sonnet」をリリースし、コーディング能力において新たな基準を打ち立てたと主張するなど、攻めの動きを活発化させているのだ。
この攻勢の一環として発表されたのが、長らく待たれたClaudeへのウェブ検索機能の実装となる。
現状、コーディングではClaude、難しめのトピック検索ではOpenAIのディープリサーチ、比較的簡易なトピックではPerplexityの検索、などとタスクごとに棲み分けられているケースが多いが、Anthropicは、検索機能の実装により、検索で利用するユーザーをも取り込む構えを見せる。
プロフィール設定でウェブ検索を有効にすると、Claudeは必要に応じて自動的にインターネット検索を実行し、その結果を応答に反映する仕組みとなっている。なお現時点では、この機能は米国ユーザーに限定されている模様だ。

https://www.anthropic.com/news/web-search
企業ユーザーにとって、この機能は大きな意味を持つ。これまでは検索エンジンとAIツールを行き来しながら、手動で情報を入力する必要があったが、Claudeへの検索機能実装により、このワークフローが大幅に効率化される。たとえば、金融サービス企業では、過去のトレーニングデータと最新ニュースを組み合わせた分析ツールとしての活用が可能になる。
さらにAnthropicは音声機能の開発も進めており、アマゾンやElevenLabsとのパートナーシップも検討中との報道だ。同社の最高製品責任者(CPO)マイク・クリーガー氏は、「Claudeがコンピュータを操作する場合、より自然なユーザーインターフェースとして音声が有効かもしれない」と、音声操作機能の実装可能性をフィナンシャル・タイムズ紙に語っている。
Claudeの検索機能がグローバルで利用可能になったとき、現在の市場シェアにどのような変動が起こるのか、今後の展開が注目されるところだ。
新しいアプローチも続々:LLMと検索エンジンの融合、「SEARCH-R1」の登場
AI検索分野では、新しいアプローチの開発も急ピッチで進んでおり、OpenAIやAnthropic以外にも大きな影響力を持つプレイヤーが登場する可能性もある。
たとえば、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とマサチューセッツ大学アムハースト校の研究チームが発表した「SEARCH-R1」というアプローチ。大規模言語モデル(LLM)が検索クエリを生成し、推論プロセスの中に検索エンジンの結果をシームレスに統合することを可能にするものだ。
現在、検索エンジンとLLMを統合する主要な手法として、検索拡張生成(RAG)とツール活用の2つが存在する。しかし、RAGは検索の不正確さや複数回の検索クエリを必要とする推論タスクへの対応に課題を抱えている。ツール活用についても、プロンプトベースでは汎用性に欠け、トレーニングベースでは大規模な注釈付きデータセットが必要となるという問題があった。
SEARCH-R1は、AIの思考プロセスの中に検索エンジンを直接組み込む新しい方式を採用。これにより、AIが「考える」「検索する」「情報を取り込む」「回答する」という4つの機能を順序立てて実行できるようになった。たとえば、ある質問に対して回答を考える途中で、最新の情報が必要だとAIが判断した場合、自動的にウェブ検索を行い、その結果を取り込んで検討を続けることができるという。
特筆すべきは、このAIが人間の指示がなくても自ら学習できる能力を持つ点だ。従来のAIは人間が作成した正解データを基に学習を進める必要があったが、SEARCH-R1は試行錯誤を繰り返しながら、自律的に検索と推論の能力を向上させていく。また、AIの評価も単純化されており、最終的な回答が正しいかどうかだけを判断基準としている。
実際のテストでは、複数の最新AIモデルを用いて性能を検証。単純な1回の検索から、複数回の検索を必要とする複雑な質問まで、7種類の異なる課題で評価を実施した。その結果、既存のさまざまなAIモデルと比較して、より正確な回答を導き出せることが確認された。
このSEARCH-R1の自律的な検索クエリ生成能力と、リアルタイム情報を推論に統合する機能は、企業アプリケーションに大きな影響を与える可能性を秘めている。カスタマーサポート、ナレッジマネジメント、データ分析など、常に変化するデータへのアクセスと複数ステップの思考プロセスを必要とする分野での活用が期待される。
文:細谷元(Livit)