近年、スマートフォンでの動画視聴がますます身近になり、縦型ショート動画が若者を中心に大きな人気を集めている。市場調査によると、2024年の縦型ショート動画市場は246億円規模と推定され、ユーザー層の拡大や視聴時間の増加を背景に、2029年には約2.6倍の636億円に達すると予測されている(※)。

中でも、縦画面で視聴しやすく、1~5分程度の短尺で制作される「ショートドラマ」はスキマ時間を有効活用できる手軽さと、共感性の高いストーリー展開が特徴だ。TikTokなどのSNSで気軽に視聴できるため、若年層を中心に人気が高まり、今後もさらなる成長が見込まれている。

今回AMPでは、2024年4月に立ち上げたばかりにも関わらず、総再生回数が5,800万回を超える青春ショートドラマ「HA-LU学園」を運営・プロデュースする株式会社HA-LUの代表取締役社長 岡春翔氏にインタビューを実施。ショートドラマの可能性やショートドラマ市場で生き残るためのマーケティング戦略、Z世代をターゲットにしたコンテンツ作りのヒントなどについて詳しく聞いた。

株式会社HA-LU
2024年4月設立。ショートドラマシーンを担う次世代が集い、ワカモノの感性/等身大を形づくるショートドラマレーベル。

ショートドラマが拓く、新たなエンタメ

ーはじめに、HA-LUを設立した経緯やきっかけを教えてください。

きっかけはとてもシンプルで、僕が経験できなかった「理想の青春」を取り戻したいと思ったことから始まりました。僕は男子校育ちで、高校3年間はずっと坊主。きゅんきゅんするような青春時代を過ごせなかったんですよ。ドラマであれば、その理想の青春を形にできるんじゃないかと考え、男子高校生と女子高校生の初々しい恋愛をテーマにしたショートドラマをSNSで公開してみたんです。

その結果、1カ月で約2,000万回再生され、大きな話題を呼びました。その後、アカウントのフォロワー数も増加し、代理店を通じて大手企業の公式アカウント用ショートドラマの制作依頼を受けるようになりまして。ありがたいことに、そのドラマも非常に好評で、公開からわずか1日でフォロワーが1万人増加するほどバズったんです。当初はビジネスにするつもりはなかったのですが、案件の依頼が増えてきたことで、起業を決意しました。

株式会社HA-LU 代表取締役社長 岡春翔氏

ーどんなところにショートドラマの魅力や可能性を感じましたか?

僕は、人間は本質的に「楽を求める」生き物だと思っています。身の回りのいろいろなことが、どんどん簡単で効率的になってきていますよね。そうした社会の変化に合わせて、エンタメも同様に「もっと手軽で楽に楽しめるもの」へとシフトしていくだろうと思ったんです。

実際、情報やエンタメの主流は、新聞からラジオ、ラジオからテレビへと変遷し、さらにテレビからYouTube、そしてYouTubeからTikTokへと変化してきました。ショートドラマの魅力は、従来の1話1時間だったドラマを、わずか数分で楽しめる点にあります。また、スマホで手軽に視聴できるため、いつでもどこでもコンテンツを簡単にインプットできます。この「楽を求める」社会の流れにおいて、ショートドラマはこれからのエンタメの主流になるだろうと感じました。

広告宣伝費を一切かけずに総再生回数が5,800万回を超える「HA-LU学園」 ヒットの秘密

ーZ世代の共感を呼ぶコンテンツを作るために大切にしていることを教えてください。

シンプルなことですが、「広告感を出さないこと」を常に意識しています。例えば、動画の冒頭から商品を前面に押し出したり、コンテンツの中で商品の説明をただ読み上げて紹介したりするような動画は、絶対に作らないようにしています。

Z世代は広告に対して非常に敏感です。僕自身もそうですが、広告っぽさがあると一気に興味を失ってしまいます。加えて、広告に対するリテラシーは高まっており、以前なら見逃されていたような広告も今はすぐに見抜かれ、一瞬でスワイプされてしまいます。

そのため、企業とタイアップをする際には、広告感を極力抑え、商品をいかに自然な形でコンテンツに溶け込ませるかを非常に重視しています。同時に、商品の魅力をきちんと伝えるために、企業としっかり方向性をすり合わせながらコンテンツを作り上げています。

ーショートドラマのテーマを決める際に意識していることはありますか。

共感できるコンテンツを作ることを重視しています。今の若い世代は「共感」を非常に大事にしており、自分ごととして捉えられるストーリーを好む傾向があります。例えば、恋愛リアリティショーが流行したのも、そのストーリーが視聴者にとって自分ごと化しやすく、感情移入しやすかったからだと思うんですよね。

そのため、「こういうことあるよね」といった共感を得やすい場面や、「私だったらこうするのに」と視聴者が自分を主人公に重ね合わせたコメントが返ってくるコンテンツ作りを意識しています。

ーその中で、コンテンツのアイデアはどのように生み出しているのでしょうか?

社内で企画会議を開き、社員それぞれの原体験をもとに議論を重ねてアイデアを生み出しています。一人ひとり経験した青春は違うので、複数人でアイデアを出し合い、異なる青春エピソードを組み合わせたり、みんなの「きゅん」とするポイントを取り入れたりしています。そうすることで、多くの人が共感できるコンテンツが生まれているのではないかと思います。

また、視聴者の共感をより得やすくするため、撮影前に内容を決めすぎず、演者の素の反応をそのまま採用し、リアルな青春を演出することもあります。

Z世代をターゲットにするHA-LUのマーケティング施策とノウハウ

ーコンテンツ作りにおいて、マーケティング視点で意識していることを教えてください。

コンテンツ作りにおいては「マーケター目線」と「ユーザー目線」の2つがあると思っています。その中でマーケット目線に立った場合、今流行っているモノや音楽、ダンス、ユーザーの年齢、性別など、SNSの“市場”にどれだけ刺さるかという観点でコンテンツを作ります。しかし、それだと表面的なコンテンツになってしまいがちで、数字が伸びない場合が多いんですよね。

そこで最初に、広くは刺さらないかもしれないけれど、誰かには深く刺さるようなコンテンツを作ったんです。刺さるか刺さらないか、ギリギリを狙ったコンテンツでしたが、見事に深く刺さって大きくバズり、一気に多くの人に広まっていきました。

このように「ユーザー目線」で認知度を上げてから、「マーケター目線」でのコンテンツ作りも意識し、より幅広いユーザーに刺さるようにしています。

ー作ったコンテンツが狙ったユーザーに刺さっているかどうか、どのように把握していますか?

コメントや再生数は、分かりやすい指標だと思います。再生数が伸びたり、共感や自分ごととして受け取った反応をしているコメントが多かったりしたら、ちゃんとユーザーに刺さっていることが分かります。

特にTikTokなどのSNSは、コンテンツを公開してから、視聴されたりコメントされたりといったユーザーの反応が速いため、何度でも検証が可能です。狙った反応が得られなかった場合は、コメント欄を確認したり、ユーザーにリサーチを行ったりして、フィードバックを集めます。そのデータをもとに、新しい動画を作成して公開することを繰り返して、若者に刺さるコンテンツを探っています。

ーコンテンツを配信するプラットフォームはどのように使い分けていますか?

各プラットフォームの特徴を生かして、意識的に使い分けをしています。TikTokは、圧倒的に接触機会が多く広範囲にリーチできるため、多くの人にコンテンツを届ける場として活用しています。Instagramはビジュアルを魅せるSNSなのでブランドイメージの構築に適しており、ブランディングを強化する目的で使用しています。YouTubeは、ユーザーが能動的にコンテンツを見るため、ファン化を促進する場として活用しています。

TikTokで多くの人にリーチし、InstagramとYouTubeでファンを獲得していくようなイメージです。

ーフォロワーを増やすために意識していることはありますか?

「フォロー」のボタンを押してもらうまでの流れを、できるだけ詳細に考えることが重要だと思います。単に「動画を作ってバズればいい」という感覚では、再生数は伸びてもフォロワーの数に繋がらないことが多いです。

例えば、視聴者がコンテンツを見ている最中にどうすれば手を止めて、プロフィールに飛び、フォローボタンを押すのか。これを具体的に想像します。そのために必要な要素をすべて洗い出し、「こうしたら絶対にフォローボタンを押してくれるだろう」というところまで落とし込むと、それに合わせてコンテンツや行動も自然と変わっていきます。

加えて、各プラットフォームの特性に合ったコンテンツ作りをすることも意識しています。例えば、TikTokはユーザーが受動的に視聴するため、最初の数秒でスワイプを止めさせ、最後までぼーっと見続けたくなるような動画と相性がいいんです。こうした各プラットフォームの性質を踏まえ、コンテンツを試行錯誤してきました。

成長する市場とHA-LUの展望

ー直近で新たに挑戦することがあれば教えてください。

現在、1話1~2分で全30話からなる長編ドラマの制作に挑戦しています。この作品は、今年の冬に株式会社Minto、株式会社NTTドコモ・スタジオ&ライブ、株式会社FANYがリリースする縦型ショートドラマプラットフォームで公開される予定です。これまではTikTokといったSNSプラットフォーム内で公開していましたが、今回はショートドラマ専用のプラットフォームでの展開になります。新しい領域での試みなので、どんな反響があるか楽しみです。

ーこれからショート動画はどのように変化していくと思われますか?

今以上に一般的なものになり、生活に定着するのではないかと思います。現在「ドラマ」といえば、地上波のドラマを思い浮かべる人が多いと思いますが、今後、ショートドラマにも大物俳優や芸能人が出演する機会が増えていけば、ショートドラマも広く認知されるようになるでしょう。僕たちも、そうした流れの一端を担っていきたいと思っています。

それこそ、YouTubeも同様の変化を遂げています。現在では、大物俳優やお笑い芸人が出演することも当たり前になっており、ショートドラマも同じような流れを辿るのではないかと感じます。

さらに未来の話をすると、Apple Visionのようなデバイスがインフラとして普及し、今よりコンパクト化された世界では、ショートドラマの枠組みは残りつつも、視聴者がより没入して楽しめるコンテンツへ進化していくかもしれません。

ー今後目指すビジョンを教えてください。

HA-LUとして目指しているのは、「数秒で心が夢中になるコンテンツを作る」こと。そしてそのコンテンツを通じて、自分の純粋な気持ちを大切にして生きていく大人を増やしていきたいです。

例えば、小中学生がサッカー選手や野球選手になりたいと無心で練習に励むように、自分の思いに対してフィルターがかかっていない、まっすぐな感覚って素晴らしいと思うんです。

でも、大人になると会社や人間関係、お金といった雑音が入り、自分の行動や思いにフィルターがかかるじゃないですか。自分にはできないとか、そもそも夢って何だったっけと迷うこともある。その状態が僕はすごく嫌で、大人になっても自分の気持ちにフィルターをかけずに夢中で生きていきたいと感じています。

こうした大人になってもピュアな気持ちを持って青春しようという思いを、第2の青春「青春2.0」と呼んでいます。この青春2.0をテーマにしたコンテンツを作り続けることで、大人になってもピュアな気持ちを持って生きていける人を増やしていきたいですね。

今まさに成長しているショートドラマ市場。SNSでショートドラマを用いた広告を目にすることも増えてきており、市場の変化を目の当たりにしているのだと実感する。大手企業が参入を始める中、HA-LUは良い意味で“若い”会社だ。社員の平均年齢が20代前半と、社内の大半がZ世代かつ、SNSによる消費の最前線を走る世代。彼らが自らの感覚を取り入れて、若者に刺さるコンテンツのテーマや方針を決めていることに加え、スタートアップならではの行動の速さ、柔軟さを持ち合わせていることは、HA-LUにしかない強みだろう。これから急速に進化していくであろうHA-LUと、日々変化していくショートドラマ市場から目が離せない。