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ガートナー、Capgeminiも注目、エージェントAIに関する最新予測
AI分野における焦点は、単一の「大規模言語モデル(LLM)」から、複数のモデルによる「エージェントAI(Agentic AI)」にシフトしつつある。ガートナーの最新予測によると、2024年時点で1%未満に過ぎないエージェントAIの企業向けソフトウェアアプリケーションへの組み込み率は、2028年までに33%に達する見込みだ。これにより、日々の業務における意思決定の15%が自律的に遂行される可能性があるという。
エージェントAIとは、人間の監視を最小限に抑えながら、自律的に動作し、自己改善を図り、複雑な環境下での意思決定を効果的に行えるAIシステムを指す。セールスフォースによれば、AIの発展は3つの波に分類できる。第1波は予測AI、第2波は生成AI、そして現在、第3波としてエージェントAIの時代が到来しているという。
Capgeminiが大手企業幹部1,100名を対象に実施した最新の調査によれば、すでに10%の組織がAIエージェントを活用しており、半数以上が来年度中の導入を計画、82%が3年以内の導入を予定しているという。また、71%がエージェントAIによってワークフローの自動化が促進される、64%が顧客サービスと満足度が改善する、57%が生産性向上のメリットがリスクを上回ると評価している。
IDCの最新レポート「The Global Impact of Artificial Intelligence on the Economy and Jobs」は、AIの採用や既存業務へのAI活用、AIを活用した製品・サービス提供に向けた企業の投資が、2030年までに累積で19兆9,000億ドルの経済効果をもたらすと試算。また、2030年には世界GDPの3.5%を占めるまでに成長すると予測、さらにAIソリューションとサービスへの新規投資1ドルあたり、間接的・誘発的効果として4.60ドルの経済効果が生まれると分析している。
とはいえ、企業のエージェントAI導入には課題も存在する。ガートナーは、ガバナンスやトラッキングが不十分な状態での急速な普及、低品質データ依存による不適切なアウトプット、従業員の抵抗、サイバー攻撃を可能にするスマートマルウェアなどのリスクを指摘。エージェントAIの導入には、高度なツールと厳格なガードレールが必要だと強調している。
エージェントAIの実装例、保険ブローカー企業の事例から見える可能性
エージェントAIの実力を示す興味深い事例が、ある欧州の保険ブローカー企業から報告されている。同社は競合他社に運用チーム全体を引き抜かれるという事態に直面。この危機的状況を打開するため、コンピュータサイエンティストの知人に支援を要請。その結果、AIエージェントのみで構成される新たな運用チームを構築することに成功した。
AIエージェントチームは、商業マネージャー、保険数理・引受機能、会計士、カスタマーケアマネージャー、ITスタッフなど、多岐にわたる役割を担当。3カ月という短期間でチームが立ち上がり、保険金請求率の目標を2倍上回る成果を上げた。人件費、福利厚生費、給与税などが運用費用の約65%を占める保険ブローカー業界において、AIエージェントの導入によりこれらのコストをゼロに抑制することにも成功している。
通常、保険引受業務における純利益(保険料から保険金支払いと運用費用を差し引いた額)は、好調な年でも5%程度。これに対し、AIエージェントチームは45%という前例のない純利益率を達成。ただし、この数値は「倫理的に問題がある」と判断され、後に調整が必要になったという。
その理由は、AIエージェントが保険業界の基本原則である「相互化」や「リスクプーリング」の概念を超えた判断を行ったことにある。AIエージェントは無限に近い認知能力を活用し、データを新たな方法で分析。特定の顧客が保険金を請求する可能性が高い時期や状況を特定し、そうした顧客を拒否したり、特定のタイミングで解約を促したり、価格設定や契約条件を調整したりする介入を迅速に実施した。これらの施策は技術的には合法であったものの、保険業界の倫理的観点からは問題があると判断された。その後、同社はAIエージェントに倫理的な調整を行い、非倫理的な行動を抑制することに成功。この経験を生かし、同システムを他部門でも展開しているという。
この事例は、エージェントAIの可能性と課題を同時に浮き彫りとするもの。AIエージェントは人間を超える分析能力と実行力を持つ一方で、業界の基本原則や倫理的価値観との整合性を保つための訓練が必要不可欠であることを明らかにした。
エンタープライズデータ運用に進出するエージェントAI、Altimate AIの挑戦
エージェントAIの応用領域は、企業のデータオペレーションにも広がりを見せている。サンフランシスコを拠点とするスタートアップAltimate AIは、エージェントAIの概念と能力を企業のデータ運用に適用する「DataMates」技術を発表。データドキュメンテーションからパフォーマンス最適化まで、幅広いタスクを自動化・加速化するAIエージェントシステムだ。
2022年に設立されたAltimate AIは、シスコの元CEOであるジョン・チェンバース氏が率いるJC2 Venturesからの支援を受けている。同社はすでにデータ自動化機能を提供する「DataPilot」プラットフォームを市場に投入しており、新たなDataMatesサービスはこのDataPilotの統合機能として、AIエージェントによるデータオペレーションの加速を実現する。
DataMatesシステムは、複数の言語モデル、関数呼び出しメカニズム、カスタムビルトの知識グラフを組み合わせた独自のフレームワーク上に構築されている。これにより、データモデルの作成、自動ドキュメンテーション、テスト生成と実行、コードレビューと最適化、パフォーマンス分析とチューニングなど、幅広いタスクを実行できる。VS Code、Git、Slackなど、データチームが日常的に使用するツールとも統合されている。
さらにAltimate AIは、アンビエントAI(Ambient AI)と呼ばれる層を統合。これは継続的なインテリジェント監視システムとして機能し、データインフラストラクチャを分析してデータチームに事前対策的な提案を行う仕組みだ。データチームが手動で介入する必要性を最小限に抑えながら、インサイトと推奨事項を提供することで、チームがより高度なタスクに集中できる環境の実現を目指す。
エージェントAIをめぐっては、OpenAI、Anthropic、グーグル、マイクロソフト、メタなども取り組みを拡大している。NVIDIAは、2030年までに社員(現在約3万人)を5万人に拡大しつつ、1億人分のAIエージェントを構築する計画だ。エージェントAIをめぐる動きは、今後さらに活発化することが見込まれる。
文:細谷元(Livit)