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「水の世紀」ともいわれる21世紀。石油以上に水の価値が高騰する可能性が指摘され「Water business(水ビジネス)」なる言葉も存在する。
実際、水を巡る紛争なども起こっており、イギリスではこのほど環境庁責任者があと25年で水が枯渇してしまう可能性があると国民に警告を発した。
イギリスは霧と雨というイメージがあるが、雨量についてみるとトルコのイスタンブールと同じくらいしか雨が降らないというから驚きだ。水道の漏水などさまざまな要因が重なり、イギリスの水源は急速に縮小している。
水不足の原因は人口増加・気候変動
英国環境庁によると、首都ロンドンでは乾季には水の需要が供給を上回ることから「水不足の危険にある(Water Stressed)都市とされている。また、英国全体として人口は現在の6,700万人から2050年には7,500万人に達する見込みである。
一方、英国各地にある貯水池では、この人口増に耐えられるだけの水はないと言われている。また河川の4分の1が干上がる可能性も指摘されている。
この状況を避けるためには、現在の水利用を3分の1少なくし、水道の水漏れを50%縮小する必要がある。英国の漏水率は現在25%と言われており、これは東京都水道局の漏水率が2016年に3.2%であったことを考えると非常に高い数値である。
温暖化が進むと、地球の気候は変化していくと予測され、それにともない降水量が減り、河川の水も減ると予測されている地域もある。イギリスもここに含まれ、さらには気温が高くなると降雪も減ってしまう。
2019年4月にはロンドンで気候変動への対策を求める大型規模の市民デモが起きた。「Extinction Rebellion(絶滅への反逆)」と名乗る環境活動団体が、温室効果ガス排出による気温・海面上昇に世界の関心を集めようと抗議行動をし、デモでは1,000人を超える逮捕者が出た。
英国環境庁の取り組み「テムズ河口2100計画」
2040年まで、10回夏が来るうちその半数の5回が2003年の夏よりも暑くなり、気温が上昇することによって川の水が干上がることが予想されている。
イギリスにおける気候変動への適応策として特筆すべきものとしては、環境庁が2010年に発表したテムズ河口洪水リスク管理計画Thames Estuary 2100(TE2100)があげられる。
テムズ・バリア(テムズ川の防潮堤)はロンドン中央部の下流にあり、1000年に1回起こり得 る規模の高潮や北海から押し上げられる嵐の高潮により氾濫することを防止するために建てられ、1982年以来操業されている。
年10回程度の高潮に際しても、ゲートを閉じて浸水被害を防ぎ、海面が仮に毎年8mmずつ上昇したとしても、2030年までは高潮に耐えられる設計になっている。
しかし、近年の気候変動による海面上昇により、河口を含めた広い区域で安全度は低下すると推定されている。長期計画を立てることによって長いスパンで計画のべースを作り、段階的にプロジェクトを進めることで過剰な施策を回避し、結果として経済的負担や自然環境への負荷を軽減されるようになっている。
今後100年間のロンドンとテムズ河口を防御するための洪水リスク管理計画が「Thames Estuary 2100(TE2100)」、テムズ河口2100計画である。
このプロジェクトは、海面上昇、気候変化、地盤沈下、洪水防御施設の老朽化、都市開発によって洪水リスクが高まりつつあることを踏まえ、ロンドンおよびテムズ川河口域を2100年までの間、洪水から守り、市民の水資源を監視するための計画である。
TE2100は、1)リスクベース、2)現在から将来までの資産を考慮、3)持続可能、4)全ての利害関係者が参加の4つの原則に基づき、今後100年間に予想される気候変化と多様な社会経済シナリオを背景とする問題に対処する計画である。
英国環境庁は、2010年に発表した防潮堤「テムズ・バリア」プロジェクト計画によると、職員12,000人、毎年9億UKポンド(約1,283億円)を投入し、洪水リスク管理、水資源、淡水生態系などを優先分野として策をたて取り組んでいる。
淡水化プラントの開設も
英国の水道最大手テムズ・ウォーターは英国初となる海水淡水化プラントを2010年6月にロンドン東部・ベックトンに開設した。このプラントは、2005年から2006年にわたる干ばつの経験から、河川と地下水という従来の水資源だけではロンドンの予測需要を満たすことはできないと判断され、建設された。
現在、テムズ・ウォーターはロンドンとテムズバレーに住む850万人に、1日26億リットルもの飲料水を提供している。このプラントを通すことにより、テムズ川の水から最高1億5000万リットル(100万人分)の飲料水に精製してロンドン市民に提供できる。また、プラントは使用済み食用油など廃棄物を活かした再生可能エネルギーによって運営されている。
このベックトンのプラントを設計したスペインのインフラ企業Acciona Agua(アクシオナ・アグア)は2015年、GWI(グローバル・ウォーター・インテリジェンス)誌の2015年最優秀海水淡水化賞を受賞している。同社は2010年と2013年にも同誌の世界最優秀企業賞を受賞している。
この海水淡水化の問題点は、海水淡水化プラントでは塩分を除いた水だけでなく、淡水化処理後に残される高濃度の塩水「ブライン」と呼ばれるものも同時に大量に生まれることである。ブラインでは塩分だけでなくその他の海洋汚染物資の濃度もあがるため、海洋に流れた際に生態系へ悪影響があるのではないかと懸念されている。さらに海水を淡水化する脱塩技術はシステムを稼働するための電力など運転コストが高いという非効率な点を改善する必要がある。
1989年にサッチャー政権下で水道の民営化が行われた英国。現在テムズ・ウォーターは「億万長者銀行」と揶揄されるオーストラリア投資銀行マッコーリー・グループ率いるコンソーシアムが所有している。2018年1月には巨額利益を株主配当と幹部の給与に大きく費やし、税金を支払っていないとフィナンシャル・タイムズ紙に指摘され、物議を呼び、最近は市民の間でも再公営化を望む声が高い。
水不足は作物の不作や食料不足につながり、その結果、経済的損失や環境問題も同時に引き起こす。一部の人々の利権だけのために地球が滅びていくことだけは避けたいものだ。
文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit)