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最新の調査によると、外国人駐在員にとって最も生活費の高い都市は3年連続で香港だった。2位にはシンガポールがランクイン。同調査は、グローバル人事コンサルティング会社マーサーが発表した2024年版「Cost of Living City Ranking」。3位以降にはスイスの都市がランクインしている。3位にチューリッヒ、4位ジュネーブ、5位バーゼル、6位ベルンと3位から6位までを占めたが、1、2位はアジアの金融ハブとなった。ちなみに東京は49位(前年19位)、大阪は146位(前年93位)となっている。
“外国人駐在員にとって最も生活費の高い都市”の実態
香港はこれまでに何度も1位になっている。生活費が高い理由は、シンガポールともに、世界の経済拠点であるため、海外駐在員が集まりやすいことがその要因の一つとなっている。
2023年6月時点で、香港外に親会社がある企業は9,000社以上に上る。中国企業が最も多く2,000社以上だが、次いで日本企業が約1,400社、アメリカが約1,200社、イギリスが約640社、シンガポールが約470社の順になっている。
地政学的なリスクからアメリカ企業などが撤退しているという話もあるが、依然として海外駐在先として高い人気があるという。
駐在員の中には高い生活水準を求める人も多く、自然と高品質なサービスなどを選ぶようになる。海外駐在員の中にはインターナショナルスクールに子どもを通わせる人も多くいるが、ある高校では一年間で20万香港ドル(日本円で約400万円)かかる。人気が高い学校ではさらに費用がかさむそうだ。
また、医療費も高額になることがある。香港の医療レベルは高水準で、公立病院であれば少ない費用負担で最新治療が受けられるのだが、予約が取りにくく、言葉の壁もある。そのため日本人を含む外国人は私立の病院やクリニックを利用する機会が多いそうだが、治療費が高くなる。別途保険の加入をしていないと費用は自己負担となり、例えば、風邪で私立の病院を受診した場合には診察料が公立病院より4倍となることもある。
ただ、なによりも生活費を押し上げているのが住宅費と物価高だ。住居については、住宅供給が限られているため出費が大きくなっている。香港の面積は小さく、約1,100平方キロメートルで、札幌市ほどの大きさしかない。そこに埼玉県の人口にも匹敵する700万人以上が暮らし、その数は増え続けている。2022年の国連統計データによる世界の人口密度ランキングで香港は4位となったほどだ。
さらに、2008年から2013年にかけて、香港の住宅価格は世界的な金融危機をきっかけに流入した資金の影響で134%急騰したという。香港は金融市場、都市全体の発展のために法人税や所得税が限りなく低くする「タックスヘイブン」を採用していて、世界中の富裕層が香港の不動産を購入し、投機的運用をするようになったのだ。
最近は住宅価格が下落し、住宅購入が以前よりはしやすくなったという見方もあるものの、香港の不動産市場は12年連続、世界で最も購入しにくい市場となっている。家賃の相場としては、1DKで約7万2,000円~約17万円、2LDKでは約8万8,000円~約22万円で割高感は否めない。ここに光熱費がプラスされると大きな痛手になるのは間違いない。
企業は駐在員の声を聞きながら手当などの対応を柔軟に
調査を行ったマーサーのグローバルモビリティリーダーは報告書について「生計費の問題は、多国籍企業と従業員に大きな影響を与えている」とコメント。企業は生計費の動向やインフレ率に関する情報を調べ、駐在員たちの声に耳を傾けることが大事だと述べている。
「生計費の高騰により海外駐在員はそれぞれのライフスタイルを調整したり裁量的支出を抑えたり、あるいは基本的なニーズを満たすのに苦労することになるかもしれません。こうした課題を解消するために、企業は住宅手当や追加手当を含む報酬パッケージやその他の支援施策を提供することも考えられます。また、代替的な人材調達戦略を検討することもできます」
企業が駐在員に対して行う手当というと、生活費調整手当がまず思い浮かぶ。これは駐在先の生活費が本国より高い場合、その差額を補填するために追加手当として生活費調整手当を支給されるもので、駐在先の物価水準に応じて金額が決まる。このほかに、住宅手当、教育手当、医療保険など現地での生活をサポートする手当があるが、これらの支給額が妥当なものか、企業は駐在員の声や実際の現地の物価上昇の程度をみて、都度変更していく必要がある。さもないと、駐在員が必要以上に身銭を切ることになってしまう。
物価高が変えた駐在のあり方
駐在員への手当てなどが増えたことにより、コストを抑えるための見直しを図る企業も見られるようだ。
例えば、駐在期間の短縮がその一つ。これまでは長期的に5年以上の長いスパンで駐在させていたところ、短期的なプロジェクトベースに切り替えるといった策だ。その上、リモートでできる仕事は本国からリモートで行わせるなど、駐在員を置かない、または駐在員の数を減らす工夫をする会社も出てきているそう。
一方で、香港はビジネスのしやすさランキングで世界第3位にランクインしており、支社などを置き続けたい企業は多い。ご存知の通り、税制的に利点があるほか、香港では輸出入の手続きの煩雑さがなく、関税もかからない。輸出入でのストレスやコストが削減され、スピード感あるビジネスが期待できる。経済大国・中国への玄関口であり、他のアジア主要都市へのアクセスも抜群だ。
また金融都市としての香港だけでなく、テックハブとしての役割も大きくなっている。
2002年に開業した香港サイエンスパーク(HKSTP)は、香港最大規模のイノベーション支援機構として、日系企業を含めた1,700社以上の企業が入居している。ヘルステック、AI、ロボティックス、フィンテック、スマートシティテックなど幅広い分野のスタートアップ企業も技術研究などを行っており、資金援助や研究開発設備、コワーキングスペースを利用できる。
現地にいるからこそ享受できる魅力もある。手当が高くなっても、将来的に得られる利益がいかほどか次第だろう。
文:星谷なな
編集:岡徳之(Livit)