環境に配慮しながらテクノロジーを発展させるまちへ

サグラダファミリア、グエル公園などのガウディ作品で有名なバルセロナ。カタルーニャ州にあり、海と山が楽しめるこのまちは、ピカソが青年期を過ごした場所としても知られ、観光客から高い人気を誇る。だが近年、観光客だけでなく、テクノロジー都市としても注目されていることをご存知だろうか。

1992年のバルセロナ五輪を機に出来た“バルセロネータビーチ” (2024年6月、筆者撮影)

バルセロナがあるカタルーニャ州は国内総生産(GDP)がスペイン全体の24.6%を占め、フィンランドやポルトガルを上回る。観光業のほかに、工業が盛んで、バルセロナでは人口約163万人のうち、IT関連で約8万2,000人が雇用されているなど、今、欧州内屈指のイノベーション拠点として注目を集めている。

先月(6月)に発表された報告書「カタルーニャにおけるイノベーション指標とグリーンおよびデジタル変革」によれば、2023年に技術革新を起こした企業は州内で約60%に上ったそうだ。

多くの企業がテック関連の新製品開発や特許取得などにトライしていて、あるスタートアップが開発した新しい診断機器では、診断精度の向上に貢献したなど、医療機器やバイオテクノロジー分野での開発が大きく発展していることが報告された。

報告書では開発だけでなく、企業が積極的にIoT、ビッグデータ解析、AIといったデジタル技術の活用を導入し、生産性をあげ、運用コストの削減に成功したことについても言及されている。

企業の発展の背景には、テクノロジー分野での産業をしやすい環境があるなどいくつか理由があるが、州政府やバルセロナ市議会からは資金面での支援を受けられることも理由としてあげられる。欧州からも経済面で支援を受けることができるが、そのうちの「欧州委員会の次世代基金(NextGenerationEU)」から恩恵を受ける企業数が増加している。

この基金はEUが新型コロナからの復興を目的として設立した一連の財政支援プログラム。総額7,500億ユーロ(日本円で約130兆円)規模でEU加盟国の経済再建を目指しつつ、デジタル化やグリーンエネルギーへの移行を推進する企業やプロジェクトを支援する内容となっている。

この基金から支援を受けたカタルーニャ州内の企業は2022年には5%だったのが、2023年には23.5%に上昇し、基金が2021年に設立されて以降、2023年6月時点で7億5,000万ユーロ以上の支援をうけた。ヨーロッパで高まる環境やサステナビリティへの機運にも、しっかり適応しながら発展しているカタルーニャ州の企業が増えているといえるだろう。

テックハブでの盛んな活動で、地域への貢献も

スタートアップの拠点として欧州で人気の都市3位にバルセロナが選ばれるなど、カタルーニャ州ではスタートアップの活動が目覚ましい。欧州内でカタルーニャ州にあるスタートアップの数は2023年に2,000を超え、2016年より2倍に膨らんだ。州政府は2030年までに4,000社になることを期待している。

州内にあるスタートアップの内訳を見ると、Eコマース、ヘルステック、ICTと通信などIT関連に取り組む企業などがおよそ半数を占める。こうした州内のスタートアップの総売上高は21億ユーロで、規模はまだまだ拡大すると予想されている。雇用も生まれていて、外国からの人材を含めて、すでに2万600人以上が働く。企業サイズにも変化があり、従業員10人以上の企業は2020年には18%だったのが2023年には32%と増加した。

建設中のサグラダファミリア(2024年2月、筆者撮影)

州内のスタートアップは、“テックハブ”を利用することがある。テックハブとは技術開発とイノベーションを活用し、ビジネスサービスやソリューションなどを提供する企業などの集合体のような機関だ。州内には96のハブがあり、ハブごとに医療関連、ゲーム関連、産業関連など特色を持っている。バルセロナは今や、ロンドン、ベルリンに次ぎ、欧州3番目に大きいスタートアップハブのある都市に成長している。

ハブの規模は大小さまざま。有名なものでいえば、「テックバルセロナ(Tech Barcelona)」だろう。民間の非営利団体に運営されるハブで、約3,000の企業が在籍し、うち2,000社がスタートアップだ。オンラインでの活動も可能で、物理的に“デスク”を置く必要がない。テック企業であれば、世界中どこからでも参加できるので、他のテック企業とのコラボレーションも比較的簡単となった。

またメンバーになれば、バルセロナで行われる国際展示会にも無料で入場することができる。たとえばバルセロナでは毎年2〜3月にモバイルワールドコングレス(MWC)という、AIや5G、IoTなどに関する展示会が開催されてて、2024年は200以上の国と地域が参加した。大規模な国際展示会へのアクセスも簡単にし、新しい技術や開発企業の担当者らと交流できるのも大きな魅力だ。

もともとスタートアップや起業家同士が交流するために2013年に設立されたが、徐々に優秀なスタートアップやテック人材が数多く集まっていると評判になると、ネスレなどの大企業の関心を引き寄せることになった。大企業がスタートアップとの連携を図ることで、新たなイノベーションが次々と生まれることになり、バルセロナ、ひいてはカタルーニャ州での技術革新のスピードが加速。さまざまな産業で新しいビジネスモデルやサービスが展開されるようになった。

このハブから市民の日常生活に大きな影響を与える企業も誕生した。代表的な事例は、フードデリバリースタートアップ「Glovo」やフリーマーケットアプリの「Wallapop」だ。バルセロナの人なら知らない人はいないともいえるサービスを提供している。

国際的なプロジェクトの拠点にも選出

テックシティとして発展しているバルセロナ。スタートアップなどが集まってきただけでなく、新たに国際的なプロジェクトのベースとしても選ばれるようになってきた。

そのプロジェクトの一つが「2Africa」だ。2AfricaはFacebookの「メタ社」など複数社が主導して、アフリカ大陸とヨーロッパ、中東33カ国46地点をつなぐ、全長4万5,000キロメートルに及ぶ大規模な海底ケーブルネットワークプロジェクト。アフリカ大陸全体にデータ通信ルートを提供する初のシステムだという。バルセロナは地理的にもアフリカに近く、テック企業も多いことから拠点となったのだ。

2Africaは2022年に開設された「バルセロナケーブルランディングステーション」を通じて、地上のネットワークに接続され、ヨーロッパ内外のデータ通信を効率的に行うことができるようになるという。

バルセロナは国際的なデータ通信ハブとしても稼働し、地域のデジタルインフラ向上がますます期待されている。とはいえ、電力不足など解決しなければならない課題はある。カタルーニャ州が今後、テックシティとしてどう走り続けていくのか見続けたい。

文:星谷なな
編集:岡徳之(Livit