2024年2月9日〜11日、第4回目となる「Femtech Fes!(フェムテック・フェス)」が六本木アカデミーヒルズで開催され、過去最高の5,150名が参加した。同フェスを主催するのはフェムテック関連ビジネスを展開するfermata(フェルマータ)社で、会場には世界23カ国5地域から200以上のフェムテックサービス・プロダクトがそろった。

世界中からも起業家が多く訪れ、中には「Femtech(フェムテック)」という言葉の産みの親であり、生理周期管理アプリ「Clue」の共同創業者・元CEO、現会長のイダ・ティン氏の姿も。その他、モデルやタレントを含む多くのゲストも登壇した。

本記事では、9日のビジネスデーに開催された基調講演とピッチに登壇したグローバル企業を抜粋して紹介したい。

イダ・ティン氏とfermataのCEOによる基調講演

2月9日は初来日したイダ・ティン氏と、fermata社の創業者、兼代表取締役の杉本亜美奈氏による基調講演「グローバルフェムテック市場の現在地」がおこなわれた。

初来日したイダ・ティン氏(写真中央)は、fermataの代表取締役 杉本亜美奈氏(右)と共に、フェムテックの意義を主張した(筆者撮影)

デンマーク人の起業家であるティン氏は、2015年頃に「フェムテック」という言葉を生み出した業界の第一人者として知られる。テクノロジーを利用して女性特有の体のサイクルを理解・改善することは、社会にとって役立つことであると考えたティン氏は、この分野への投資やイノベーションを促進する目的で、フェムテックという言葉を作ったという。

「この言葉を作って約8年が経過した今日、この言葉が広く使われているのは“必要であった”ことの証明です。私の一番の観点は『女性の健康』であり、女性が自分自身の体をコントロールできれば、私たちは個人として進化し、社会全体が向上するはずです」(ティン氏)

杉本氏はフェムテック市場をつくるために行った自社の取り組みを振り返った(筆者撮影)

フェルマータ社を創業した杉本氏は、2018年に女性のホルモン値を計測できる米国発のフェムテック製品と出会い、その可能性を感じたという。一方、自身が心から欲しいと感じ、市場のニーズが予想される製品に対し、男性投資家が見向きもしない現状に違和感を覚えたそうだ。

ヘルスケア領域には潜在的なニーズが無数にあると確信した杉本氏は、市場化を目指してフェルマータ社を創業。現在は、フェスの開催やフェムッテック専門オンラインストアの運営、事業開発サポートに各省庁との連携まで幅広く展開している。

「フェムテックの認知を高めて市場を作るために、2019年からフェスを開催しています。5年を経てメディアからも注目を集めるイベントに成長しました。フェムテックの必要性をステークホルダーに伝えるにあたり、省庁に生理用ナプキン、吸水ショーツ、月経カップなどを持ち込み、その進化が男性でも感覚的にわかるように説明するなどの活動を重ねてきました」(杉本氏)

ティン氏は「フェムテック市場は、女性たちの不満や怒りによって進化してきたと思う。テクノロジーは女性たちが強くなることを助ける」と力強く訴えた。杉本氏も「フェムテックが単なる流行りで終わらないよう、引き続き市場を広げていく」と意気込みを示した。

注目のグローバルフェムテック企業5社

続いて、フェムテック市場に挑むグローバル起業家による「グローバルマーケットリーダートーク」から5つの企業のプロダクトを抜粋して伝えたい。

●早産を検知するスマートナプキン

付着したおりものを分析する機能を持つナプキン(Rea Diagnosticsの公式ユーチューブより)

2022年にスイスで創業したRea Diagnosticsは、腟分泌物(おりもの)の分析を通じて早産のリスクを検知するスマートナプキンを開発する。ローザンヌのスイス連邦工科大学とローザンヌ大学病院から独立した企業だ。

ユニセフでは「生まれてきた赤ちゃんのうち10人に1人が早産で、そのうち40秒に1人が亡くなっている」として早産予防の行動を呼びかけている。それでも早産率は、世界のどの地域でも過去10年間ほぼ変化がない状態だという。

●アプリと連動した生殖能力トラッカー

デバイスを膣に挿入して、おりものを測定することで妊娠しやすいタイミングを把握できる(筆者撮影)

2017年に米国で創業したLady Technologiesは、子宮頸管粘液の電解質レベルの変化を測定するセンシング技術を活用し、妊娠しやすいタイミングを把握できる生殖能力トラッカー「kegg」を展開する。1日1回デバイスを膣に入れ、締めたり、緩めたりを繰り返して測定する。データはアプリ上で確認できる。

同社の創業者、兼CEOのKristina Cahojova氏は、不妊治療を受けていた際、専門医から「おりものの色や粘度を自身で確認するように」と言われ、それを助ける方法がないことに驚き、自身が苦労したことから創業にいたったという。

●避妊や女性特有の課題解消に役立つ子宮内器具

左から避妊を可能にする「IUB® BALLERINE®」、異常子宮出血や大量の経血を治療する「IUB® SEAD®」、子宮内膜症や子宮筋腫を治療する「IUB® PRIMA®」(OCON Therapeuticsのプレスリリースより)

2020年にイスラエルで創業したOCON Therapeuticsは、子宮内ドラッグデリバリー技術(必要なときに必要な分量の薬剤を子宮内から直接投与する技術)を導入した3つの子宮内器具を展開する。

「IUB® BALLERINE®」はホルモンを必要とせず、最長5年間にわたる避妊を可能とする。同製品が子宮に挿入されると少量の銅が放出され、同社いわく99%以上の避妊効果だという。利用者自身で出し入れができる。

「IUB® SEAD®」 は、異常子宮出血や大量の月経出血の際に利用する使い捨ての器具で、症状があったタイミングで消費者自身が挿入する。同社いわく挿入時に痛みはなく、現在の治療法と比較して費用は1/2未満だという。

「IUB® PRIMA®」は、子宮内膜症や子宮筋腫の症状に対して、一定期間にわたって子宮内でさまざまな薬剤を持続放出する。子宮から直接投与することで全身性の副作用を回避するとしている。

●尿もれを軽減するトレーニング機器

電気筋肉刺激による治療で尿もれに高い効果を発揮するという(ELITONEの公式ユーチューブより)

2014年に米国で創業したELITONEは、尿もれの軽減に役立つトレーニング機器を提供する。創業者でCEOのGloria Kolb氏は、双子の出産後に尿もれが始まったが、負担の少ないトレーニング機器を見つけられず、効率的な治療ツールとして同機器を開発した。

これを会陰 (恥骨) 領域に装着し、コントローラーのスイッチを押すと電気筋肉刺激による治療ができる。同社の臨床研究によれば、約6週間の使用で70%以上の人が尿もれの軽減を実感したという。8年間の研究により開発された同機器は、FDA認証を取得している。

●骨粗鬆症を治療する振動ベルト

腰に巻いて機械的刺激によって骨粗鬆症を治療する(Bone Health Technologiesの公式ホームページより)

2018年に米国で創業したBone Health Technologiesは、閉経後の女性に増える骨粗鬆症の治療デバイス「OsteoBoost」を開発している。ベルトを腰に装着して電源を押すと、腰と背骨に穏やかな機械的刺激を加える。1回30分、週に5日以上使用することで骨の強度向上に役立つという。

同デバイスはNASAで実証済みのテクノロジーに基づいて開発されており、1 回の治療で骨形成や骨吸収の活性度を評価する骨代謝マーカーの大幅な減少を示したパイロット研究もあるそうだ。

所狭しとフェムテック製品が並べられ、会場内は1日中混雑していた(筆者撮影)

後編では、出展企業の中から話題の新製品や大企業の取り組み、会場で見つけたユニークなプロダクトなどをピックアップしてお届けする。

取材・文:小林香織