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企業のAI投資、ROIの現状が明らかに
企業の生成AI利用に関するさまざまなレポートが発表されており、どのようなシーンで、どれほど活用されているのか、生成AIをめぐる現状が浮き彫りとなりつつある。
結論からいうと、生成AIを含む広義のAI投資は拡大しており、大きなROIを生み出しているが、生成AIに関してはROIが未知数であることから、テクノロジー投資全体に占める生成AIの比率は依然小さなものとなっている。しかし、生成AI投資を拡大する予定の企業は多く、2024年以降からROIが見え始めると予想されている。
直近で最も包括的なAI関連のレポートとなるのが、テクノロジー専門コンサルティングIDCが発表したものだろう。2023年11月2日、VentureBeatが同レポートの担当者へのインタビューとともに、調査で明らかになった企業のAI投資の現状を伝えている。
この調査を委託したのはマイクロソフト。企業がAIをどのように活用し価値を生み出しているのかを把握し、AIの可能性を探ることが目的という。調査対象となったのはグローバル企業におけるビジネスリーダーや意思決定者2100人、調査時期は2023年9月。ChatGPTが登場して以来、初のAI投資リターンに関する包括的なレポートといわれており、その内容が注目されるところ。
調査の結果、明らかになったのは広義のAI投資は250%という驚異のROIを生み出しているということだ。
企業のリーダーのうち、すでにAIを活用していると回答した割合は71%に上り、今後12カ月以内にAIを活用する予定との回答は22%となった。企業内におけるAIの実装に要する期間に関しては、92%が12カ月以内だったと答えており、AI以前のテクノロジーに比べ、短期間での実装が実現している状況も明らかになった。
特筆されるのは、この調査が初めて調査対象者に具体的なAI投資のROIを聞いたことだ。回答の選択肢には、2倍、3倍、4倍、5倍、また、ROIがない場合は、ゼロ、または、分からない、という選択肢が用意された。その結果、平均値として算出されたのが、3.5倍という結果だった。1ドルの投資に対し、3.5ドルのROIが実現されたという。これをパーセンテージ換算すると250%になる。AI投資の成果は、主に顧客満足度、社員の生産性、市場シェアの向上となってあらわれているという。
今年の調査では、AIへの関心がこれまでにないほどに高まり、AI以外の領域における投資の優先順位が下げられるという現象が初めて確認された。調査対象者の32%は、AI投資を増やすために、その他の投資を平均11%下げたと回答。特ににアドミンサポート/サービス、オペレーション、テックサポート、人事、カスタマーサービス部門などが影響を受けたという。
これらのAI投資は生成AIではない既存AI分野への投資となるが、このAI投資の加速を引き起こした主要因となるのは生成AIだと、レポートの調査責任者は指摘している。AIはこれまで非常にテクニカルなもので、企業内でも扱うのはIT部門に限定されており、多くの人にとって「見えない存在」であった。しかしChatGPTの登場以来、AIが非常に身近なものになり、経営層のAIに対する認識が高まり、AI投資の拡大にながった。
同調査責任者は、生成AI関する活用事例や投資は増えつつあるものの、ROIを算出するのは時期尚早と述べている。
生成AI投資はこれから本格化
2023年11月に発表されたもう1つのレポートでも、企業のクラウド投資全体の中で、生成AIの比率は依然として小さなものであることが報告されている。
このレポートを発表したのは、OpenAIの主力対抗馬であるAnthropicや生成AIインフラ企業の1つPineconeなどに資金を投じているベンチャーキャピタル、Menlo Venturesだ。
同社は米国と欧州における企業の経営幹部450人以上を対象に生成AIに関する取り組みや投資動向を聞いた。
調査の結果、2023年の企業の生成AI投資額は25億ドルと推計され、4,000億ドルといわれるクラウド投資全体のうち1%未満であることが分かった。一方、広義のAI投資(コンピュータビジョンやディープラーニングなど)は700億ドルで、クラウド投資全体の18%を占めた。
生成AI投資は、現在クラウド投資全体の1%未満という状況だが、上記IDCのレポートと同様にMenlo Venturesの調査でも、生成AIが企業におけるAI投資やAI利用を加速させる触媒になっていることが示された。
Menlo Venturesによると、2018年から2022年にかけて、何らかの形でAIを活用している企業の割合は40%後半で推移しており、拡大することもなく停滞状態が続いていた。しかし生成AIがトレンドとなった2023年、この割合は前年の48%から8ポイント上昇し、56%に増加したのだ。
また2023年のテクノロジー投資全体の投資成長率が5%にとどまる中、AI投資は8%増加し、IT投資の中でもAIの優先順位が高まったことが示唆される結果となった。推計される生成AI投資額25億ドルは、コード生成AIであるGitHub CopilotやAIモデルプラットフォームHuggingFaceの利用などに充てられた模様。
現時点では生成AIを利用する際、自社で開発するのではなく、購入を選択する企業が多いことも判明。調査対象となった経営幹部のうち、80%が生成AIソフトウェア利用する際、サードパーティのソフトウェアを購入すると回答している。
ChatGPTの週間アクティブユーザー数1億人も、企業は慎重なアプローチ
ChatGPTは2023年11月末に登場、短期間で月間アクティブユーザー数1億人を達成し世間を驚かせた。2023年11月には週間アクティブユーザー数が1億人に達しており、ユーザーベースは着実に拡大している。
この大きな波に乗り企業でも短期間で生成AI利用が普及しそうなところだが、Menlo Venturesは上記の調査結果を踏まえ、クラウドのときのように、企業におけるテクノロジー適用は緩やかなものになる可能性があると指摘する。
クラウドは登場してから約10年かけて企業におけるソフトウェア支出の30%を占めるに至った。生成AIもクラウドと同様の道筋を辿る可能性が高いという。
ただしモバイルが9年ほどで企業での導入率80%を達成したことを考慮すると、より強気のシナリオもあり得ると述べている。強気のシナリオでは、10年後には、通常シナリオで15年ほどかかる導入率約50%を達成する可能性がある。
今後、生成AIは垂直展開と水平展開の2軸で多くのアプリケーションが登場すると見込まれる。
垂直展開とは各領域に特化するアプローチ。産業別でみると現時点では、広告・マーケティングと法律分野がともに生成AI導入率10%でトップだ。これら2つの領域で、特化型の生成AIアプリケーションがさらに増える見込みだ。このほか現在導入率5%のコンサルティングや4%の教育分野でも生成AIアプリケーションの増加が予想される。
一方、産業を横断する水平展開アプリケーションも増える見込みだ。この水平展開では、Gメール、Notion、エクセルなど既存のITツールを横断しつつ、自律的にアクションを実行するAIエージェントが活用される公算が大きい。
Menlo Venturesの企業における生成AI投資の調査結果は、ブルームバーグの分析と軌を一にするもの。ブルームバーグは、2022年の生成AIソフトウェア市場の規模(収益ベース)を14億9,300万ドルとし、今後2032年まで年率42%で成長すると予想している。この生成率を適用すると、2023年の生成AI市場の規模は21億2,000万ドルとなり、Menlo Venturesが算出した2023年の生成AI投資額である25億ドルと近い値になる。
ブルームバーグは、2032年に生成AIソフトウェア市場の規模が約2,800億ドルに達すると予想している。これは2022年比で187倍の市場規模だ。
文:細谷元(Livit)