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既存のコンテンツから学習し、テキストや画像、音楽などを新しく生成する技術として注目されているジェネレーティブAI。
しかし、このような生成物が他者の著作権を侵害する可能性があるとして、利用に伴うリスクへの関心が高まっている。AIサービス提供企業各社の著作権問題が発生した場合の対応に目を向けてみると、そこには大きな差があるようだ。
急成長を遂げている米ジェネレーティブAIスタートアップAnthropic(アンスロピック)やOpenAI、そして、自社オリジナルのAIモデル開発に注力するIT大手のアマゾン、マイクロソフト、アドビなど、各企業の著作権問題への具体的な対応、そしてその背景にある市場の動向とは?
ジェネレーティブAIの活用に高まる期待
その手軽さと使い勝手の良さで、一気に世界中で活用が進んだ米OpenAI社の「ChatGPT」が大きな存在感を世界各国で示している。このような様々な創作物をアウトプットすることができる人工知能は、このところ急速な進化を遂げており、AI関連企業への投資も加速している。
ジェネレーティブAIは、問い合わせ対応や記録の要約、データ整理といった業務効率化の大きな助けとなることが期待されているだけでなく、音楽や写真、イラストや文章など、多様なコンテンツ作成ツールとしての活用にも期待が高まっており、自社ビジネスへの活用を考えている企業も日々増え続けている。
ジェネレーティブAIにつきまとう著作権侵害リスク
しかし、既存の創作物から学習することで、新しい創作物を生成するジェネレーティブAIの使用には無視できないリスクがある。それは、意図せずとも著作権を侵害する可能性だ。
ジェネレーティブAIと知的財産権については、これまでも、OpeAIのGPT-4をベースにした大規模言語モデルをマイクロソフトOfficeアプリケーションに組み込んだ「Microsoft 365 Copilot」の使用に関連して、マイクロソフト、GitHub、OpenAIが著作権を侵害したとして起こされた集団訴訟や、作家たちによって起こされたOpenAIへの著作権侵害訴訟など、数々の法的な問題が起きている。
画像生成ツールも、アーティストたちの集団訴訟が報じられており、アメリカでは、Stability AI、Midjourney、DeviantArtの3社に対し、カリフォルニアの地方裁判所に訴状が提出された。AI生成音楽に関しても、著作権問題が生じたとして、アーティストたちの集団訴訟や音楽会社ユニバーサルミュージックによる訴訟が起きている。
訴訟コストは誰の負担に?
ジェネレーティブAIの活用を考えている企業が気になるのは、このような法的問題が生じる可能性、そして「万が一」生じた場合の訴訟費用や賠償費用などの負担がユーザー側なのか、ジェネレーティブAIの開発企業側なのか、ということではないだろうか。
この点については、顧客が自社のジェネレーティブAIを使用した創作物を使用した結果、著作権に関連した訴訟を抱えた場合、自社の責任を回避するためのポリシーを設定している企業もあれば、より手厚い「保護」の提供をうたう企業もあるようだ。
損害から自社を「免責」するAnthropic
米スタートアップのAnthropicは、前者の一例だ。
アマゾンやグーグルから投資を受け急成長、次世代型のAIアシスタント「Claude」を提供している同社は、自社のジェネレーティブAIの使用から生じる損害から自社とパートナーを「免責」する権利を留保する、としている。
ジェネレーティブAIの代表格になったOpenAIの場合、同社の賠償責任はあくまでも「賠償責任が発生する前の12ヶ月間にサービスに対して(顧客が)支払った金額、または100ドル」に制限と、かなり厳しい条件がつけられている。
オープンAIのライバルになりうる企業として注目されているスタートアップAI21 Labsも、顧客に対する訴訟について、「顧客が自ら弁護や和解を行わないことを選択した場合、独占的な弁護と管理を引き受ける可能性がある」という文章を規約に盛り込みながらも、その費用は顧客の自己負担としている。
条件付きで補償を提供するアマゾン、マイクロソフト
一方で、最近、Amazonや主要なAIスタートアップ企業が提供する基盤モデルをAPIを通じて利用できるようにする完全マネージド型サービス「Bedrock」を発表したアマゾンは、知的財産権侵害について「補償を提供する」としている。
しかし、この「補償」にもいくつかの条件がつけられていることには注意が必要だろう。補償対象は、自社のテキスト生成AIである「Titan」、コード生成AI「CodeWhisperer」に限定され、CodeWhispererでは、 Professionalのサブスクリプションが必要であり、無料版ユーザーを対象となっていない。
マイクロソフトは、同社のAI製品を使用している顧客が著作権侵害で訴えられた場合、同社製品に組み込まれた「ガードレールとコンテンツ・フィルター」を使用していれば、顧客に代わって法的損害賠償金を支払うとしている。このポリシーは、「Copilot」サービスの有料版ポートフォリオと、Bing Chat Enterprise、GitHub Copilot」を対象としている。
企業顧客に保護を提供するアドビ
デザイン、Web、映像のプロフェッショナル向けのソリューションを提供するアドビ社も、ジェネレーティブAIアートプラットフォームであるFireflyのユーザーに対して「完全な補償」による保護を提供するとしている。
他の企業と比べて手厚い補償を提供しているようにみえるが、企業顧客のユーザーに限定されており、他の技術ベースの知的財産権請求に適用されるアドビの責任上限がこちらでも適用される。
ジェネレーティブAIの差別化には著作権対応が鍵?
ジェネレーティブAIが広まるにつれ、自社での活用を検討している企業は増え続けているが、著作権侵害リスクが懸念となっていることで導入に踏み切れていない企業も少なくない。このことが、より手厚い補償を売りにしたジェネレーティブAIをアピールする企業が続々と登場していることに影響しているのだろう。Googleも先月、自社のAI製品に関連した訴訟への補償を発表した。
しかし、一見手厚い補償を提供しているように見える企業であっても、前述のように補償の対象や上限に制限がある場合も少なくないようだ。AIベンダーから提供される補償が、差別化のためのアピールにすぎないものではないか、規約の慎重な確認が求められている。
文:大津陽子