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大規模言語モデル(LLM)を活用した会話型AIサービス「チャットGPT」を開発しているOpenAIがこのところ何かと話題を集めているが、その主要競合としてイスラエル発の「AI21 Labs」の開発動向にも関心が寄せられている。
同社の主力モデルである「Jurassic-2」は、世界で最も大規模かつ洗練された大規模言語モデル(LLM)の1つとして認識されており、ビジネスアプリケーションを構築するための開発者プラットフォーム「AI21 Studio」のベースになっている。
最近のメディアインタビューで、OpenAIの企業向けChatGPTのリリースを受け、AI21 Labsでもエンタープライズ向けの取り組みをさらに拡大する意向を示したA21 Labsの最近の動向についてお伝えする。
ジェネレーティブAIのパイオニア、イスラエル発の「AI21 Labs」
AI21 Labsは、イスラエルのテルアビブに拠点を置くスタートアップであり、ジェネレーティブAIツールを普及させた立役者といえる企業のひとつだ。
自動運転技術で知られる米国Mobileyeの創業者兼CEOのアムノン・シャシュア氏、スタンフォード大学名誉教授のヨアヴ・ショハム氏、連続起業家のオリ・ゴシェン氏によって2017年に設立され、今ではOpenAIのライバルとして語られることも少なくない。
ジェネレーティブAI を開発する世界で最も革新的な企業トップ50「CB Insights GenAI 50」にも選ばれた同社は、最近ではグローバルスーパーマーケットチェーンのCarrefour、世界最大級のマーケットプレイスのeBayなどをはじめ、多様な分野の世界各国の企業と協業している。
1億5,500万ドルの資金調達を達成、評価額は14億ドルに
AI21 Labsの最初のジェネレーティブAI搭載の製品は、2020年10月にリリースされた英文書き換え・リライトツール「Wordtune」だ。より洗練された英文を書くためのリライトツールとして、日本のビジネスパーソンや研究者、学生の間でも人気となっている。
その後、2021年8月には、最初の大規模言語モデル(LLM)である 「Jurassic-1」、続いて2022年に「Jurassic-2」が公開された。
他には、ユーザーの質問に対して回答を作成する 「Contextual Answers」などの多様なAPIも提供する同社は最近、1億5,500万ドルの資金調達を完了し、評価額14億ドルを達成した。
AI21独自の世界最大の大規模言語モデル「Jurassic-2」
AI21 Labsの独自のジェネレーティブAIシステム「Jurassic-2」は、1,750億パラメータの世界最大の大規模言語モデル(LLM)のひとつであることとその性能の高さで、高い注目を集めてきた。
スペイン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、イタリア語、オランダ語など多言語をサポートし、生成の応答時間の速さでは「Jurassic-1」と比較して最大30%を短縮。ユーザーの指示に基づいて回答をより詳細にカスタマイズ可能で、チャットGPTのように文章生成、文章の要約、翻訳、質問応答など、多様な用途に活用されている。
主力のエンタープライズビジネスでも今後OpenAIと競合
AI21 LabsのAIベースの英文リライトツール「Wordtune」は、OpenAIのChatGPTが登場する2年も前である2020年にリリース。Chromeの拡張機能として順調に人気を博し、現在はアップグレードによりジェネレーティブAIプラットフォームへと進化している。同社の高性能大規模言語モデル(LLM)である「Jurassic」シリーズも、2021年にはすでに第一弾が発表されていた。
しかし、OpenAIのChatGPTが2022年11月にデビューすると、ジェネレーティブAIという存在が一気に広まり、AIといえばChatGPTとも言えるような存在にまで急成長した。
パイオニアであったAI21 Labsに対し、後発のOpenAIがここまで躍進した一因は、ChatGPTを一躍人気製品にしたチャットボット・インターフェイスの存在が、AI21 Labsのラインナップには含まれていなかった点があげられる。
AI21 Labsは現在、Amazonとパートナーシップを発表し、独自のジェネレーティブAI駆動型アプリケーションを拡張可能な「Bedrock」を発表するなど、得意分野のエンタープライズビジネスで活躍の場を広げつつある。
OpenAIからもこの夏、法人向けサービス「ChatGPT Enterprise」の提供が開始され、ジェネレーティブAIの競合企業との競争は法人分野でも熾烈になりそうだ。
AI21 Labsの将来の展望は、ブランド力強化
競合はOpenAIだけではない。AI21 Labs創設者のショハム氏は、ジェネレーティブAIが大きな話題になるにつれ、資金調達が年々厳しくなり、これまで以上に多くの大規模言語モデル(LLM)や、テキストや画像、音声、動画など複数の種類のデータを一度に処理できるマルチモーダルAIが日々立ち上げられているとVentureBeat紙のインタビューで語っている。
そんな中での今後の展望として、ショハム氏は自社のブランド力が低すぎることを克服すべき課題としてあげている。「今こそ私たちのブランドプレゼンスを確立し、私たちがパーティーに招待されるべきと人々に知ってもらう時だ。パーティに招待されれば、私たちはたいてい勝てる」(ショハム氏)。
A21 Labsは、2023年末までにブランディングを強化し存在感を確立、同社が誇る「クオリティ」で競争が激化するジェネレーティブAI市場において勝負をかけるとの意気込みを示している。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)